現役時代の父が意識していたこと
Q:規則正しく起きることが苦手とのことですが、トレーニングなどでも?
今日も午前中にトレーニングをしてきたので、朝に実施すること自体は大丈夫です。でもそういう日が続くと、寝たくてしょうがなくなってしまいますね。寝るのが好きなんです。12時間くらい寝ちゃう……夢も見ずに熟睡します。
Q:寝るのも早いんですか?
いえ、深夜の12時とか、1時くらい。そこから昼まで寝ちゃうので、午前中はあまり動きたくないタイプです。最近は午前の練習が多いので慣れてきましたが、続くとしんどいですね。本当に競輪選手は生活リズムを自分で決められるのでありがたいです。
Q:練習のピーキング(調子の山を作って狙い通りのコンディションを作り上げていくこと)などはする方でしょうか?
長期的な計画はあまり得意ではないので、その時々で決めるほうです。「今日は調子が悪いからバランスを戻すのを重視でいこう」とか「開催期間が開いてるから強めに追い込もう」とか、です。
Q:ウェイト練習は行っていますか?
週に2、3回行っています。午前の練習をした日に、午後のトレーニングとしてウェイトを入れたりしていますね。午後にバンクに入る日は午前中はずっと寝ちゃうので……
練習メニューは自分で考えています。最近は若手も一緒に練習するので、若手がやりたい練習があればそれも取り入れています。
Q:ワット数などは測りますか?
はい、でも1600くらいしか出ないです。ケイデンスも185〜6くらいだし、全然。パワーで劣る分、効率よく進むための体の使い方は意識しています。ワットバイクで2000以上出るような人がS級には多くいますけれど、でも勝ててないということは実走で出せていないということ。効率の良さは意識しています。
これは父から教わったことでもあります。父が現役時代から意識していたことなんだそうです。
自転車のヘッドとバイクとを繋いで、バイクに引っ張ってもらう練習をしています。自分がスピードを出すのではなく、そのスピードに自分を合わせます。スニーカーでバンドも締めずに、遠心力で抜けそうになるのを抑える練習なので、結構頭を使いますよ。同じような練習を古性(優作)さんがやっているのを、以前映像で見たことがきっかけです。
Q:その練習で自転車と自分の一体感が分かるといったところでしょうか。ではうまくいったレースでは、その「一体感」がピカイチだったなどありますか?
そうですね。調子の良い時は全部連動して動くような感じがします。だからと言って必ず勝てるとは限りません。調子が悪いと感じる時に、前述したような練習をすると「戻る」ような感じがします。
お互い忙しいので本当にたまにですが、父に練習を見てもらっています。練習を見てもらうのは父が一番だと感じます。
連携できるだけの層が欲しい
Q:これまでのレースで、一番の「会心のレース」はどれでしたか?
やっぱり勝ったレースが印象的ではありますね。ダービー(日本選手権競輪)の時は全部が理想通りで、予想していた展開だったなと思うのですが、でも「たまたま」って感じもあります。共同通信社杯の時(G2、2022に優勝)も単騎だったし……そもそも中部の選手が少ないって問題もあります。
Q:一方で北日本は4車とか組めますし、近畿も強いですし。
近畿は脇本(雄太)さんと古性(優作)さんが飛び抜けてますもんね。層が厚くならないとどうにもならないと感じます。
Q:連携できる人が多いのは羨ましいですか?
そうですね。同じくらいの年齢でも、2次予選で番手になるような選手は結構います。この間の久留米でも、同期の松岡(辰泰)が準決勝まで番手、番手、番手だったんです。そんなことある?って(笑)
大垣記念でそういうことはたぶんないですね。良くて準決勝だけです。
一緒の疲労度でゴールしよう
Q:ご自身としては、番手よりも前の方がやりやすい?
番手も面白いと感じます。「番手につく以上、自分はマーク屋だ、全員止めたる!」みたいな気持ちだけはあるんで(笑)
自分が前を走る時、後ろで動いてくれる人がいるとやっぱり安心しますし、自分も頑張ろう、と思います。
岐阜記念で連携したとき、番手は体力的には楽だなと感じました。ゴールした時の疲労度が違うんですよね。それを「一緒の疲労度でゴールしよう」という話を、仲間内でしていました。ギリギリまで仕事して仕事して、最後抜くときには脚がギリギリの状態になるのが理想だよね、と。
Q:最終的にはどのような選手になりたいと思っていますか?
今はあまり……古性さんや松浦(悠士)さんみたいな自在型が一番強いなとは思います。脇本さんみたいなずば抜けた脚力は無理だと思ってますから、自分の得意分野を活かしていきたいです。
Q:でも脇本選手も、今の山口選手の年齢くらいから本気出してここまできた、という感じだと思いますよ。
とはいえ脇本さんって元々が天才なんだと思います。今のような強さになる前から、G1の決勝で逃げて2着とかありましたから。天才が練習しただけなんですよ!と、思っています(笑)
海外には行きたくない……
Q:ちなみにナショナルチームに興味を持ったことは?
ないです。あまり海外に行きたくなくて……怖いし、たぶん食事も合わないし。好き嫌いがめちゃめちゃ多いんです。野菜はほぼダメで、根菜は平気。生の野菜はだいたい苦手です。
Q:そうなると、栄養バランスはどのように取ってるんですか?
サプリは飲んでます。でも僕はとにかく「ストレスないのが一番!」派です。自炊もしないし、家に何にもなければ一生うどんとかパスタとか食べてます。実家で食べることもありますが、練習後にそのまま外食することが多いです。
Q:行きつけのお店はありますか?
高校の時から通っている中華料理屋さんはあります。顔は覚えてもらっていますけれど、僕が選手ってことは知らないかも。そういうことを話したりもしないので。
そのお店は帰りに飴をくれるんですけど、僕はいつもミルク味を選ぶんです。だからもう覚えられていて「ミルクあるよ」と言ってくれますね(笑)
Q:逆に、サインを置いてあるようなお店はあるんですか?
「てっちゃん」という焼肉屋があるんですが、そこの方は父のファンで、その流れで応援してくださってます。横断幕なんかも出していただいてます。
KEIRINグランプリに向けて
Q:KEIRINグランプリ2023にてグランプリ初出場ですが、過去のグランプリで印象に残っているものはありますか?
96年が印象的です。4コーナーで6人落車したんです。でもグランプリは着がひとつ違うと賞金の差が大きいから、落車した人たちが自転車に乗らずに「かけっこ」して。
だけど本当は30m線を超えてからじゃないと自転車に乗らずにゴールするのってNGで、結局何人かが失格になって、ゆっくり自転車に乗って入った選手が4着になった……
Q:それは単に「面白かった」レースですね(笑)
はい(笑)
でも11年の平塚グランプリ、父の出たレースは鮮明に覚えてます。関係者席で観戦させていただいたのですが、それは出場選手の家族みんな同じなんですよね。だから「あんまり騒がないようにしような」という話をお兄ちゃんとしてたんですが、ゴール前はめちゃくちゃ叫んじゃいました。
Q:でもそれが競輪選手を目指した結果、というわけでもなく?
全然ないです(笑)。その「凄さ」もわかってなかったと思います。1億円の賞金でしたが、それを持ち帰って見せてもらったということもなかったですし……選手になってから、父の行ったことの凄さが改めてわかりました。
Q:何も知らない人に説明するとして、山口選手の思う「競輪の面白さ」とは、なんだと思いますか?
何も知らない人にどこから説明すれば良いかは、難しいですよね。自力で車くらいのスピードが出るのは魅力的だと思います。映像じゃ伝わらないかもしれないけれど、実際に見ると音や迫力が凄いです。そこが一番わかりやすく「凄い」ところかなと思います。
Q:KEIRINグランプリ2023に向けて強化する項目はありますか?
スピードレースになりそうだなとは思っていて、その中で「脚を溜めて最後に自力を出せるような練習」をしていくつもりです。でも競輪祭もこれから控えているので、そこまでは基本の練習です。
※インタビューは10月に実施
Q:競輪祭以降は斡旋も入れず?
そもそも斡旋が来ないみたいです。今はグランプリが楽しみな気持ちです。去年・一昨年はヤンググランプリに出場していて、なんとなくの雰囲気は知っています。お客さんの盛り上がりも違うと感じますし、メイン中のメイン。そこで走れることが楽しみです。
Q:1回、かなり出場に迫った時もありましたもんね。その時は落胆などありましたか?
あの時は「しょうがない」という感じでした。その年の競輪祭では吉田拓矢くんが優勝しましたが、彼は期としては先輩だけど、同い年です。「しょうがない」と思いました。
Q:改めて、グランプリに向けて意気込みを聞かせてください。
やっぱり出るからには優勝を目指したいと思います。
Q:競輪選手としての最終的な目標は?
引退する時「父が残した実績を超えた」と思えるようになることです。それから今は現実味がありませんが、いつか兄弟で連携ができたらいいなと思います。
競輪界ではまだまだ若手とされる27歳の初挑戦(KEIRINグランプリ)の結果はどうなるのか、その結果に期待せずにはいられない。