2023年5月、『2023全日本選手権トラック』が開催され各種目の日本No.1が決定した。
日本トラック競技ナショナルチームが次に挑むのは6月14日からマレーシアにて開幕する『2023アジア選手権トラック』。アジアNo.1を決める大会であり、8月の世界選手権やパリ2024オリンピックの出場枠争いに直接影響する重要な大会だ。
今回は日本トラック競技ナショナルチームのジェイソン・ニブレット短距離ヘッドコーチにインタビューを実施。
全日本選手権でのパフォーマンスをどう評価したのだろうか。アジア選手権・世界選手権に向けた展望などと合わせて話を伺った。
若手選手のポテンシャルと成長
Q:『2023全日本選手権トラック』が終了しましたが、何か印象に残ったことや驚きなどはありましたか?
予想外なことは特にありませんでしたが、酒井亜樹の活躍が見られたのは良い収穫でした。チームスプリントのメンバーとして出走しつつ、より経験を積むために500mタイムトライアルにもエントリーしました。アジア選手権を前に良い経験を積むことができたと思います。
500mタイムトライアルでは佐藤水菜の頭一つ抜けた走りも見ることができました。佐藤の前に酒井が日本記録を更新していたので、彼女はそれ以上の結果を残さなければならない立場でしたし、彼女もその立場を理解していたと思います。
もちろん注目していたのは主要メンバーだけではありません。例えば、中石湊も1kmタイムトライアルで良い走りを見せていました。TTバーを提供したり、テクニカルセッションを通してバランスを崩さずに走れるよう指導したりしましたが、そこまで集中的なトレーニングを施していないにもかかわらず、1:01.307を記録できたことは素晴らしかったと思います。
2022年に出場したジュニア世界選手権での1:03.058というタイムと比較すると、大きく成長していることがわかります。
亜樹やジュニアチームのメンバーは、伊豆で集中しながらのトレーニングができずにいました。全日本選手権の前に約2ヶ月間の合同練習を行いましたが、それ以外は各自でのトレーニングを実施していました。そうした中でも結果を残せたことは嬉しい限りです。
発掘・育成をより早い段階から
Q:2023年現在の日本チームには若手選手が多く所属していて、なおかつ良い結果を残しています。そうした現状についてはどう感じていますか?
世界の強豪国と呼ばれるチームは既にそのような状態でしたから、今のような状況を待ち臨んでいました。
以前から日本トラックナショナルチームでは日本競輪選手養成所から選手をスカウトすることができましたし、これは他の国にはない特権でもありました。しかし、今は中石湊、阿部英斗、山崎歩夢のように、養成所に入る前から選手をスカウトすることができます。
早い段階から準備やトレーニングを施すことができれば、身体が成熟する年齢に達した際、より世界で戦える能力を身に付けられるようになります。そうしたことが当たり前となり、成果を得られるようになれば、日本のトラック競技として大きな一歩を進めることとなるでしょう。
そしてこれは短距離チームだけではなく、新たに2人の若手女子選手が加入した中長距離チームにも当てはまることです。
中長距離種目でもネーションズカップや世界選手権で若手選手が活躍しています。
若い選手が次々と入ってきて、早い段階から育成できる環境をどの国もが有しているべきなのです。これまで日本にはそうした環境がありませんでした。素質を持った選手を迎え入れる環境を、これからも続けていくことが重要ですし、そうあるようにしていかなければなりません。
もちろん現在の環境にも、改善の余地は大いにあります。高校や大学を今より巻き込んでいくことや、1週間や特定の期間を設けて若手選手を集め、トレーニングを行う機会を作っていくことも必要になるかもしれません。
そうした活動を継続していくことで、若手選手たちの発掘・育成をよりコンスタントに行っていくことが可能になります。
オーストラリアを例に取ると、オーストラリアの学生競技では各州にコーチがいて、それぞれの州で多くの大会が開催されています。その場で素質がある選手を見つけると、各州のコーチは州の育成組織に選手をスカウトすることができます。学業中でもです。そして各州での育成の末、より向上が見込まれる選手はナショナルチームへ推薦されます。
日本においても、そのようなシステムを構築することが必要です。現段階ではまだまだ構築できていませんが、一歩ずつ近づいてこれていると思います。