限界はどこなのか
ブノワ:競輪選手になった頃と現在とでは、パワーは変わっていますか?
佐藤:若い時は間違った……間違ってはないけど、無駄の多い練習をしていたんですよね。ブノワを持ち上げるわけじゃないですけど、ブノワが日本に来てから科学的な「世界で勝つためのトレーニング」がどんどん日本に入ってきました。それを人づてに聞いて、無駄な練習が無くなったことによって、良い効果が出ています。
とはいえトレーニングをこなすための身体ベースが、年齢相応なんですよね。若い体じゃないからナショナルチームメンバーとまったく同じことはできないけれど、トレーニング方法がとても良いヒントになっていることは確かです。若い時よりもパワーが上がっているとは感じますし、今の方が、若い時より強いと思います。
ブノワ:慎太郎さんより私の方が(3歳)年上なのですが、その歳でなぜ競輪選手としてのモチベーションを保っていられるのでしょう?今のモチベーションはどんなところなのかがとても気になるし、シンプルにあなたをすごいと思うんです。
佐藤:「自分の限界がどこなのか」ということへの探究心は強い方だと思います。さっきも言ったように若い時より強くなった実感があるわけで、「この歳でもまだ強くなれるんじゃないか」と自分に期待しているんです。どこまで行けるのか、どこが限界なのかを知りたいと思っています。
でも残された時間が少ないので、毎日を真剣にトレーニングしていこう、という感じ。それがモチベーションかなと思います。
ブノワ:慎太郎さんにとって競輪選手という仕事はパッションなのでしょうか。
佐藤:仕事ではあるんですが、それに加えて「G1タイトルを獲りたい」とか「グランプリを獲りたい」とか、「冒険心」がプラスされている感じですね。天職だと思います。ただ賞金のために走っているというよりは「タイトルを獲る自分にチャレンジしていく」という冒険のために走っているのだと思います。
KEIRINグランプリを楽しむ
ブノワ:直近のKEIRINグランプリを見ていて、慎太郎さんは他の人より楽しんでいるというか、その瞬間を噛み締めているように感じるんです。それは私の勝手な印象なのか、実際そう思っているのか、どちらなのでしょう?
佐藤:レース当日は「楽しもう」と自分に強く言い聞かせています。そこに行くまでは「俺がここにいていいのか」と思ってしまうような部分も少しはあるんです。楽しむ余裕なんてないんですけれど、レースはあえて楽しもうとしているし、実際楽しんでいます。
ブノワ:プレッシャーや応援を全部シャットアウトして自分の世界に入る選手もいますが、慎太郎さんは全部取り込んで自分の力にしているように感じます。
佐藤:それはあります。お客さんの声援やどよめきは「全部俺への応援」だと思っているし、実際そう感じちゃってるんですよね。
若い時はグランプリに出られていたけど、出られない期間があって、13年ぶりにグランプリに帰ってきたのが2019年でした。だからこそ「グランプリへの憧れ」があるし、「出られていることが嬉しい」気持ちも大きい。それを噛み締めながら走っていて、プレッシャーとは思わないです。あの場にいられることが嬉しいんですよね。
ブノワ:怪我をしてグランプリから遠のいた期間があったと伺っています。怪我はキャリアの転換期でしたか?
佐藤:間違いなくそうだと思います。1レースの大切さを学んだし、競輪を走れる素晴らしさを感じました。走れない時期は自分にとってプラスだったと思います。
ブノワ:そう気付けること自体がとても価値のあることだと思います。怪我自体はネガティブな要素ですが、気付きを得られたことはとても良かったですよね。
佐藤:歳を取ってきたぶん、若い選手もどんどん出てくるわけです。「上位で走れる日々」を1日1日大切にしています。ましてやグランプリですから、楽しんで走らなきゃと思いますね。
ブノワ:2019年のグランプリで勝ったこと以外で、競輪選手として印象的な勝利はどれですか?
佐藤:う〜ん……グランプリ以外なら、怪我から復帰してからのG3優勝ですね。福井記念でした。足首の怪我でしたから、本当にこのまま上位の選手には戻れないんじゃないかという不安がある中でした。でもG3で上位陣を破って優勝できたわけで、「戻れたな」という点で嬉しかったし、印象に残っています。
あなたにとってグランプリとは?
ブノワ:私としてはグランプリは他のレースと違うと感じているんです。年間のレースはG1にしろ何にしろ、お金のためという側面が大きいと思うのですが、グランプリだけはスポーツ的なものだと感じます。慎太郎さんにとってはどうでしょうか?
佐藤:俺にとってグランプリは年間を通してやってきた、積み重ねてきたものを最終的に見せる「テスト」みたいなものです。もちろん賞金は高いんですが、お金のために「どんな手を使ってでも勝てばいい」ではなくて、しっかり自分の走りを全国の競輪ファン・関係者に見てもらうレースだと思っています。
ブノワ:今回は私にとってグランプリを観るのは7回目になるのですが、言っていることはとてもよくわかります。他のレースと違ってオリンピックに近いものがあるというか、とてもパワー、シナジーのあるレースだと思います。
佐藤:「グランプリしか車券を買わない」というお客さんもいます。競輪の入り口になるレースだと思うので、競輪選手として「それぞれの走り」をしたいですね。
ブノワ:グランプリって魔法のような場所で、いろんな人に見せるためのものですから、本当にその通りです。ジャーナリストとして質問するんじゃなくて気持ちを共有するだけですみません(笑)
佐藤:いやいや、ブノワはファンとしての気持ちもわかるし、選手としての気持ちもわかる。両方知ってる人ですから。車券も100万円くらい買いますよね?
ブノワ:関係者なので賭けられません、クビになっちゃいます(笑)
正直に言うと競輪をギャンブルというよりスポーツとして見るのが好きで、見るにつれどんどん好きになっています。
これは郡司浩平選手とのインタビューでも話したんですが、私のキャリアで1つ欠けてるものがあるとすれば、日本の競輪で走らなかったことです。これをお話しするのは私がどれだけ日本の競輪が好きなのかお伝えしたいのと、慎太郎さん達が日本の競輪で走れることがどれだけ幸運なことなのかをお伝えしたいからです。
佐藤:それは(シェーン・)パーキンスが引退したり、(デニス・)ドミトリエフがロシアの関係で走れなかったりとか、海外の強い選手が引退していく様をみて、自分も実感しています。
ブノワ:短期登録の選手はお金のために来る側面もありますが、やはり経験のために来る面もあります。確かにその通りです。