トライアスリートがバンクを走る?
みしまジュニアスポーツアカデミーの裏では、トライアスロン選手たちが日本体育協会公認の自転車競技コーチである野田氏の指導のもと、4日間バイクトレーニングを行なっていた。参加者はトライアスロンオリンピック元日本代表の細田雄一氏(ロンドンオリンピック出場)と田山豪寛氏(アテネ・北京・ロンドン・リオオリンピック出場)、そして学生選手ら。
「トライアスロン選手が、何故ピストバイクでバンク練習を?」と思う方もいるかもしれない。実際、このようなトレーニングを行なっているトライアスリートは世界的にもほぼいないという。
午前中はフライング1kmやフライングラップで追い込むなど、高強度のトレーニングを実施。午後からはバイクコントロール向上のためのスタンディングスタートの練習といった、自転車に集中したトレーニングを行なっていた。
田山豪寛「バンクで感覚を研ぎ澄ます」
Q:何故バンクで合宿を?
私にとってはこれが2回目の合宿です。細田選手が「このトレーニングを取り入れてから変わった」と耳にし、自分の課題もバイクでしたので、改めて自転車のプロの先生に教えてもらいたいと思ったのがきっかけです。
Q:この合宿はトライアスロンのバイクパートにどう活きますか?
ペダリングスキルももちろんですが、風を読む能力や、人の後ろについた時にどこが楽かなどを身につけられます。道路ではこうしたトレーニングは難しいですが、バンクなら集中してできます。信号や車もない場所で、感覚を研ぎ澄ますのは、バンクでしかできないことです。
またピストバイクに乗ることは、ペダリングスキル向上のための鍵を握っているように思います。自転車競技のプロフェッショナルに教えてもらったことを、自分なりに噛み砕いて解釈し、トライアスロンに落とし込む。そのようにやっています。
Q:3種目あるトライアスロンの中で、バイクパートはどれくらい重要ですか?
今は凄く大きいです。海外の選手は最後のランを物凄いペースで走るので、バイクでどれだけ余裕を持てるかがポイントになってきますね。
細田雄一「世界で誰もやっていないトレーニング」
Q:今回の合宿の目的は?
純粋にフィジカルの練習になっている感覚があるんです。
普通は自転車で、ここまでキツい練習をしません。追い込むとその後のランに響きますし、自転車がゴールではないので。こういった練習(ピストバイクでバンク走行)は、世界でまだ誰もやっていないはず。だからこそ、ここにチャンスがあると思っています。
もう1つは「スキルアップ」ですね。トライアスリートって、自転車のスペシャリストはほとんどいないです。私もサッカー出身なので走っていただけ。他の選手も水泳や陸上競技出身者が多く、自転車出身者は世界的にも少ないです。
今は水泳もランニングも、それぞれの専門選手のタイムに近づきつつあります。でも自転車はまだそこまで到達していないと、個人的な感覚で思っていて・・・そこにオリンピックでメダルを取るためのチャンスがあるんじゃないかと思ったんです。
海外の選手がこういったトレーニングに手をつける前に、パリやロサンゼルスオリンピックを目指す若い世代に、自転車専門のスキル・トレーニングを吸収して欲しい。そうして世界に届いて欲しい、と考えています。
野田尚宏
Q:トライアスリートがピストバイクでバンクを走る目的は?
ペダリングスキルや効率性の向上ですね。
トライアスロンはスイム・バイク・ランと3種目ありますが、バイクが苦手な選手、何かヒントを得たいという選手も少なくありません。
ここでは、乳酸が溜まるような領域でのプログラムをメインにしています。乳酸系のトレーニングとは、無酸素から有酸素域に変わるギリギリの強度と時間設定のトレーニング。これによって、普段の練習とは違う、ピストバイクならではの刺激を入れてます。
トラックに来て、ひたすら長い距離走っても意味はないんです。短めのレストとインターバルで追い込んでいきます。このような内容でも、有酸素系能力に効果があるという論文が出ているんです。午前中はフライング1kmを、10分レストで3本行いました。
また、みしまジュニアスポーツアカデミーでも行なっている「RSI(体のバネを数値化し、指標にしたもの)」も測っています。
トライアスロン選手たちには、バイクでのペダリング動作が足のバネに影響を与え、次のランの時に疲弊してしまう意識があるようです。「脚がガクガクになっちゃう」ってことですね。
なのでこのバネをトレーニング前後で測ってみて、もし落ちてたらポジションや使う筋肉も変えてあげて、ランにも影響があるかどうかも検証しています。