2025年8月22日から25日にわたって、伊豆ベロドロームを舞台に日本一をかけた戦いが繰り広げられた『2025全日本選手権トラック』。
連日行われた配信で、プレイヤーズゲストとして出演した鈴木奈央選手。初の大役を務めたその感想を聞くインタビューをしていると、おもむろに登場したのは、同じくプレイヤーズゲストの脇本雄太選手!
途中からは対談のような形で、その“極意”を語ってくれたインタビューを掲載する。
鈴木奈央、初めての経験に苦戦
Q:プレイヤーズゲストの大役、おつかれさまでした。
これまでも、友達に解説したりはよくやっていたんですが……やっぱり別物ですね。難しかったですね。
Q:選手の下調べを沢山されている印象がありました。
競技を引退してから4年近く経って、知らない選手も出てきたのでネットで色々と調べてメモしてきました。
無音にならないように、レース以外でも話せることを用意しておこうと選手のInstagramとかもチェックして色々な情報を入手して挑みました。それこそ、『More CADENCE』にもお世話になりました(笑)。
鈴木奈央選手の解説の様子
Q:自転車競技ファン向けに深掘りするというよりは、一般の方にも届きやすいような内容を意識して臨まれました?
そうですね。今回の全トラでは、ランニングバイクの「ストライダー」に乗れるイベントが開催されたり、幅広い方が来場されている大会だったと思います。なので、初めて競技を観る方にも分かりやすく伝えられればと思っていました。
解説デビュー戦です🌟
初めて観戦する方にも分かりやすく、競技の面白さを伝えられるよう頑張ります🫶🏻
ちょっと緊張しています。 https://t.co/lQhUaCnEaZ— 鈴木奈央 (Nao Suzuki) (@keirin70) August 20, 2025
Q:またチャレンジしたいですか?
ぜひやりたいです!でも、もう少し経験を積まないと。
特に中距離は分かりにくいものが多いので、観客にとって「選手たちが何をしているのか分らない」という状況がなくなるようにしたいですね。ワッキーさん(脇本雄太選手)や新田さん(新田祐大選手)みたいに、上手く喋れるようになりたいです。

脇本雄太先生が登場!
(ここで、たまたま通りがかった脇本選手が急遽インタビューに参加)
脇本雄太(以下、脇本):ルールを知らない人でも、分かるように伝えないといけないからね。たとえばポイントレースで、先頭集団が交代で引っ張って回してポイントを共有しようという選手同士の利害の一致みたいなのも、初めて観る人からすると難しい。選手の戦略も含めて伝えてあげた方が、上手くいく気がする。
脇本雄太選手の解説の様子
鈴木奈央(以下、鈴木):難しいんですよね。あとは今回、女子の中長距離のレースは人数が少なかったのもあって、沈黙の時間ができてしまって……ワッキーさんは普通に家で喋っているのかってくらいに言葉が出てきますよね。
専門用語、ダメ絶対
Q:脇本選手は、話すことがなくならないように事前準備のようなものを何かされていますか?
脇本:全然ないです。思ったことを言っているだけ。ただ、競技を初めて観る方にも分かりやすいように、ということは考えているので、専門用語は言わないようにしています。
鈴木:“捲り”とか、言っちゃダメですよね。

脇本:言わない。「相手を追い越す」って言う。あとは競輪用語だと“斜行”とかも、誰が聞いてもわかるように「進路を妨害している」って言い換えています。
Q:そういった伝え方・言葉の意識は、ナショナルチームを離れたから発見した部分もあるのでしょうか?
脇本:いや、昔から意識しています。「競輪の魅力は何ですか?」「競技の魅力はなんですか?」って聞かれた時に、専門用語を使って返すのは簡単だけど、広く伝えるためにどう説明するべきか。どうしても自然と専門用語が口をついて出てしまうので、癖をつけていかないと。
鈴木:流石です……私も専門用語を使わないように意識します!
みんなが思う「なんで?」を説明しなきゃいけない
Q:脇本選手のその言葉へのこだわりは、やはりもっと多くの方に広まって欲しいという想いが強いからでしょうか?
脇本:そうですね。自転車って、細かい部分を深掘りするとめちゃくちゃ面白い競技です。そのために、まずは認知してもらうことが大切だと思っています。ハマり込んでもらえれば専門用語も分かるようになるはずなので、まずは最初のきっかけをどうやって広く作っていくかですね。
Q:去年のパリオリンピックにて、解説を務めた脇本選手ならではです。
脇本:あれがほぼデビュー戦ですよ。最初からオリンピックでした。
鈴木:考えられないですよね(笑)
脇本:その後の『トラックチャンピオンズリーグ』では、中長距離も含めて全部解説しました。中距離選手とかは、全然把握していないのに。
鈴木:そういう時って、何を話すんですか?
脇本:基本的なルールというかレースの動きみたいな話はしたと思う。それこそ、さっきのポイントレースの話で言えば「なぜ集団を引いた後にバンクの上に上がるのか」みたいな。なぜそれが起こったのか、を言わないといけない。要するに、みんなが思う「なんで?」を説明しなきゃいけない立場だと思うんだよね。

Q:メディアの目線としても、とても参考になります。
脇本:「なんで?」って思う人が多そうな点は、どうやって説明するか先に考えておく。そういう準備はしてるかもしれないですね。
鈴木:選手の目線だと、当然のことのように観ちゃう部分ですよね。「ここで説明が欲しい」っていう部分で「なんで?」っていう札が出るようにしてほしいです(笑)。
(解説者のポスト)狙ってます
Q:種目によって特に話す内容が大きく変わると思いますが、鈴木選手が特に難しく感じた種目はありますか?
鈴木:エリミネーションが難しかったですね。選手が除外されたあと、どういう形で除外になってしまったのかを言っているうちに、すぐに次の除外周回がきて……

脇本:でも、それって説明をしなきゃいけないタイミングがわかってるから、ある意味では簡単な気もする。
鈴木:インフィールドから見ていると、なかなか全体の動きや細かいところを把握することができなくて。
脇本:たしかに。僕もちゃんと動きを見たい時は、身を乗り出して見るようにしています。でも、ハンドルを切る瞬間とかは見えないこともあるので、難しいですね。
鈴木:あと、たとえばスクラッチの序盤で一団で進むような展開、動きがない時はなにを言うべきですかね?
脇本:「なんで」動きがないのか、じゃない? 例えば「この選手は有力視されていて他からマークされているから、なかなか動きが取れない」とか。考えてみたら当然のことなんだけど、それをしっかり言葉にすればいいと思う。

Q:的確すぎて、解説者というポジションを着々と狙っているような気すらしてきます(笑)。
脇本:狙ってますから(笑)。
作戦バレちゃう問題
Q:観る側・聞く側としてはすごく有り難いですが、戦略などが他の選手にバレてしまうリスクもあるのが難しいですよね。
脇本:そうですね。選手に聞こえてしまうのは、本来良くないのかもしれないです。ただ、そこを意識しすぎたら喋れなくなってしまうので、全然話していましたけど。
鈴木:私は(池田)瑞紀ちゃんが「逃げる、逃げるって言われると逃げにくい」と言っていたのを聞いて、ちょっと困りました(笑)。実際、私が選手側だったとしても気にするかもしれないですね。

脇本:僕は、自分が出場していた時も全然気にしていなかったです(笑)。でも、特に中長距離は戦略ありきだからね。
大先輩から見たデビュー戦の評価は
Q:脇本先生からみて、今回の鈴木選手の評価は何点くらいでしたか?
鈴木:50点はください(笑)。
脇本:50点はあるよ(笑)。何点くらいかなぁ……
(インタビュー中に開催されていたレースに動きが)
脇本:危ない、危ない。
鈴木:めっちゃ締めてましたね。あ、「締める」もダメか。
脇本:ダメです。内側に進路をとる、とかだね。
鈴木:まだまだ修行が必要そうです(笑)ワッキーさんみたいに分かりやすい説明ができるように頑張ります!