2025年の『アジア選手権大会トラック』はマレーシア・ニライにて開催された。
近年では2018、2023、2025年と複数回のアジア選手権大会トラックを実施しているマレーシア自転車競技連盟。何故マレーシアはここまで大会開催に力を入れているのか、そして今の状況とは?
マレーシアのトラック競技事情を調査するため、マレーシア自転車競技連盟副会長 モハマド・サイフル・アブドゥル・ジャリル(Mohd Saiful Abdul Jalil)氏に話をうかがう。

トラックは認知度が高い アワン選手の功績

Q:お時間をいただきありがとうございます。まず始めに、マレーシアでのトラック競技の知名度はどのようなものでしょうか?

知名度は高いと思います。アジズルハスニ・アワン選手のおかげですね。
また未来を担う人材の発掘・育成のために、12歳から17歳までのユース〜ジュニア世代の子供たちが参加できるレースを、このニライのベロドロームで毎月開催しています。

アジズルハスニ・アワン, AWANG Mohd Azizulhasni, MAS, 山﨑賢人, YAMASAKI Kento, JPN, 小原佑太, OBARA Yuta, JPN, 男子ケイリン 決勝 1-6, MEN'S Keirin Final 1-6, 2024ジャパントラックカップ I, 伊豆ベロドローム, 2024 Japan Track Cup I, Izu Velodrome, Japan

※アジズルハスニ・アワン:マレーシアの国民的英雄。リオ2016で銀、東京2020で銅とケイリン種目で活躍し、マレーシア自転車競技界のアイコンとして知られている。

Q:毎月開催するのは難しいかと思いますが、どうやって運営しているのですか?

開催資金の半額は国のスポーツ局から調達し、半分は自己財源で運営しています。日本チームのようにスポンサーがたくさん付いてくれれば嬉しいのですが、我々のスポンサーはVIK(物品提供)だけなので、なかなか厳しい状況ではあります。
マレーシア自転車競技連盟は規模が大きくないので、大会開催のためにボランティアを集める必要があるほどです。

数年に一度はトラックの国際大会を開催 明確な意図

Q:そんな中でもアジア選手権を2018、2023年、そして2025年と開催しています。他の国と比較しても、資金力が無ければできないことかと思います。

連盟の目標として2~3年に一度はトラックの国際大会を開催しようとしています。熱気が上がっているこのスポーツを、もっとPRするためです。育成を兼ねた毎月の大会だけでなく、大きな国際大会を行うことで国内の選手たちの目標にもなりますしね。

ロードでは『ツール・ド・ランカウイ(Tour de Langkawi)』がありますし、MTBでもローカルレースを開催しています。
ただ、MTBにおけるマレーシアで行ったアジア選手権は2013年が最後でしたので、10年以上開催から離れてしまっている現状です。

連盟としてはトラック競技を推していく

Q:開催の回数からしても、「トラック競技を最も推していきたい」というのが連盟の意向でしょうか?

はい、その通りです。ロード人口が多いという事実はありますが、レースで勝つことができ、そして自転車競技を知ってもらう機会となるのは、トラックだと思っています。

ムハマド シャー・シャローム,Muhammad Shah Firdaus Sahrom,男子スプリント, MEN'S Sprint Qualification 200mFTT, 2025アジア選手権トラック, 2025 ASIAN TRACK CYCLING CHAMPIONSHIPS, Nilai, Malaysia

今大会でもケイリン(銀)、スプリント(銅)を獲得したムハマド シャー・シャローム。直後のネーションズカップではケイリンで金メダルを手にした

Q:自転車競技の種目をマレーシア国内で並べた場合、認知度はどんな順番になるのでしょうか?

トラック→ロード→MTB→BMXでしょうか。人気というとロードがトップではありますかね。

Q:トラックの選手の層について教えてください。

ジュニアには400~600人が選手登録していて、エリートには20人くらいでしょうか。競技をする人を見つけること、探すことには苦労しています。

パリ大会は厳しい結果、それでも認知は上がった

Q:パリ2024オリンピックではアワン選手が失格、シャローム選手は中野選手とクラッシュ。マレーシアとしては厳しい結果となりましたが、全体として反響は大きかったですか?

結果は欲しかったですが、パリ2024大会はマレーシアの多くの人たちがトラック競技に興味を持ってくれるきっかけを作ったと言えます。様々な話題を呼んだシャローム選手と中野選手のクラッシュ*でしたが、あの事故によってトラック競技の認知が上がったことは間違いありません。

※パリ2024大会、男子ケイリン決勝。銅メダル争いをしていた中野慎詞選手とシャローム選手が落車し、双方共に走りきれなかった

マシュー・グレーツァー GLAETZER Matthew, AUS, 中野慎詞, Japan, 決勝, mens keirin, Olympic Games Paris 2024, Saint-Quentin-en-Yvelines Velodrome, August 11, 2024 in Paris, France

Q:今後はどのような予定でしょうか?

2026年にBMXアジア選手権、2027年にトラックワールドカップ(未確定)、そして東南アジア競技大会を開催する予定です。次いでアジアのMTBシリーズ戦も行っていきたいと思っています。

近隣の国との協力

Q:近隣国とのコラボなどありますか?

5年前から、毎年タイと共に『アジアンカップ』という大会を共催しています。2024年からはオーストラリアにも参加してもらっています。ただPRの部分が弱いので、あまり知られていない大会かもしれません。

欧州に行くのは予算が掛かり過ぎるのがネックです。一方、東南アジアには14の自転車競技連盟がありますが、インドアで大会を開催できる規模のベロドロームは3つ(マレーシア、タイ、インドネシア)しかありません。この辺りも問題ですね。

Q:マレーシアにはいくつのベロドロームがありますか?

ここニライ、ジョホール、ペラ、そして使われなくなった物が1つあります。
毎月レースを開催することで認知が上がってきており、他の州でもベロドローム作りたいという話が挙がってきています。

ベロドロームナショナルマレーシア

今大会の会場になった「ベロドローム・ナショナル(ニライ)」

短距離、アワンへの憧れ

Q:マレーシアは短距離選手が多いイメージを受けます。

その通りですね。アワン選手のイメージが強いので、「第2のアワンになりたい」と考えている選手も多いです。そういった理由で短距離選手に偏っているんです。

アジズルハスニ・アワン, AWANG Mohd Azizulhasni, MAS, 男子ケイリン決勝 1-6, MEN'S Keirin Final 1-6, 2023アジア選手権トラック, 2023 Asian Track Championships Nilai, Malaysia

Q:改めて、今回の『アジア選手権2025』は成功したと言えますか?

成功したと言えると思います。ただし問題も発見したので、課題は解決しなければいけません。

これまで2018年、2023年と大会を開催してきて、それぞれの開催で改善点を見つけ、直してきました。今回も課題を克服し、次は更に良い大会にしていきたいと思います。

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