中野慎詞、太田海也以来となる“養成所早期卒業”を果たし、年明けのデビュー戦では衝撃的なレースを披露した市田龍生都。

デビュー戦を終えた直後に向かったのは、ナショナルチームの「地獄の合宿」が行われている沖縄の地だった。

学生時代から持つ1kmタイムトライアル(※以下1㎞TTと記載)への強いこだわり、そして初の合宿参加で驚いたこと。
合宿の終盤に、初体験だらけの注目のルーキーに話を聞いた。

何のためのトレーニングなのかが明確に

Q:1月4日〜6日の開催で競輪選手デビューをした直後に沖縄に入っての合宿。どうでしょう?

多くの刺激をもらっています。養成所でもHPD教場に入れてもらって、どういうトレーニングをしているかは理解しているつもりでしたが、あらためてメンバーとして参加させてもらったことで見え方が少し変わりました。何をどう鍛えるべきか、何のためにこのトレーニングをしているのか、ということが以前より明確になった感じがしました。

学生の時は、漠然と「強くなりたい」という気持ちだけでしたが、どこを目指してこのトレーニングをしているのか、ということをより自分で考えるようになりましたね。

Q:目指すところというのは、具体的にはどこになるんでしょうか?

まずは、アジア選手権の1kmTTで1分を切ることです。マレーシアは軽いバンクだと聞いているので、記録をどこまで伸ばせるかという挑戦になると思います。

Q:1kmTTが終わって苦しんでいる時にドリアン食べるという挑戦は?

……いま、それも挑戦リストに加えられましたね(笑)。

Q:やはり競技を行うということは頂点にオリンピックがあると思いますが、その点への想いはどうですか?

1kmTTをやっていく以上、(実施種目ではない)オリンピックに関しては具体的には考えていない部分もあります。でも、1kmTTをやっていけば、必ずスプリントやケイリンに活きてくる。チームスプリントのメンバーとして出られるという可能性もあると思うので、1kmTTをやりきってからの話だと思っています。

「市田、余裕そうじゃん」

Q:以前話を伺ったとき、「リバースの経験がないので限界まで追い込んでみたい」とおっしゃっていましたが、沖縄では追いこめましたか?

自分で狙っていた以上のキツさも、この合宿では体感できています。めちゃくちゃキツい状態から、「ここからが大事!」と思って踏み続けて、終わった直後は本当に脚が動かないくらいまでいったんですけど、バイクを降りたらいつも通りの状態だった。想定以上のキツさも、体は許容してしまったというか、対応してしまった感じで……。

Q:良いことなんでしょうけども(笑)

でも、もうちょっといけたのかなって思ってしまいました。自分で考えているより、体がもうちょっと上にいるというか。

Q:メンタルとしては追い込んでいるつもりでも、体は追い込めていないということですか?

終わった後、みんながめっちゃ苦しんでいるなか「市田、余裕そうじゃん」と言われるとめちゃくちゃ悔しいんですよ。「なんで出しきれてないんだ、もっと行けたんじゃないか」って。

Q:タイムの面ではどうですか?

全然追いつけていないです。自分としては、もうちょっといける感じはあるのですけれど、フィジカル面で追いついていない。ウェイトでも、ひとつのメニューだったら他の選手に並べる部分もありますが、トータルスコアで劣っています。そこがタイムに出ていると思います。

Q:タイムが出せるようになったときに、先ほどのメンタルと体のバランスがどうなるかですね。

そうですね。先輩たちと同じようなタイムを出したうえで、個性として「疲れにくい」とか「思っている以上に体が動く」という部分が活きてくるかどうかだと思います。

1kmTTで培った、必殺・1人2段駆け

Q:脚質的には、ガンガンいくタイプでしょうか?

自分からも行けるし、ほかの人に行かれたとしても二の脚が残って、最後に必ず勝負しにいけるタイプだと思っています。

Q:トップスピードに乗るのが早くて、さらにそこから保たせることができる選手というイメージがあります。

「自分が苦しいなら、相手はもっと苦しいはず」というのは、養成所でもよく話をしていました。自分は苦しい状態でも体は勝手に動くので、相手は追走でもっとつらくなる。自分で、どんどん苦しいほうに引き摺り込んでいくような感じですね。

Q:……泥沼戦術ですね(笑)

そういうタイプなので、捲りとか差しに構えても、脚を溜めることができると思います。

Q:典型的な“ダッシュ型”の選手とは違って、一発駆けて終わるわけではない。

そうですね。“一人2段駆け”というイメージです。

Q:つまりダッシュして、スピードが乗ってきたところでもう一段階いける。そういうタイプってあんまりいないのではと思います。

1kmTTをやり続けてきたからこそ、なのかもしれないです。
1kmTTって、スタートで全力を出して、シッティングでエアロポジションを取ったら、そこから20mくらいで体を整えてまた加速させるんです。だから、“1人2段駆け”を400m内でやり切る、という脚質に自然となってきたんじゃないかなと思います。

市田龍生都, 男子エリート, 1kmTT, 2024全日本選手権トラック, 伊豆ベロドローム

Q:スタートから全力で行って、たった20mくらいで回復するものなんですか?最初から2段目を見越して出し切らないようにしている?

最初から全力で行っています。2段駆けというのも、特段意識しているわけではなくて……ゾーン的なものなんですかね。

Q:ものすごく謎です。

僕もわかんないんですよね。でも、それができると、スピードはあがったうえで、持久力もある走りができる。ハロンの助走を、平面でやっているようなイメージです。

Q:なるほど。そういう意味では、ラインを組む競輪よりも競技のほうが力を活かせるかもしれないですね。

特性としては競技寄りかなと思います。単騎だったら関係ないのかもしれないですけど。

Q:でも脇本選手とか寺崎選手といった、福井の強力な先輩方は問題なく対応しそうですね。

近畿のスター選手、脇本さんや寺崎さんの前になったら緊張もありますが、自分の全力以上を出し切りたいと思っています。

「究極の1kmTTができたら」1kmへのこだわり

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