「練習もまともについていけない」ナショナルチームでの苦悩の1年

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競輪場バイトでの、運命の出会い

Q:国際大会だけでなく国内の大会もあり、忙しくなるとは思いますが、競輪との両立はどう考えていますか?

ガールズケイリンを走れる本数が限られてくる、ということはわかっていたことなので、今はとにかく競技を頑張ろうと思っています。

Q:ガールズケイリンでの目標は?

G1で決勝に乗ること。このままなら6月のパールカップに出られるかな、という感じなので、そこで勝負できたらなと思います。

Q:佐藤水菜がたどってきた道をトレースできれば、という感じ?

でも、水菜さんは2年目でグランプリですからね……地に足つけてがんばります(笑)。

Q:憧れの選手はいますか?

競輪場でバイトをしていた時に見た脇本(雄太)さんの走りがやばすぎたんですよね。

Q:その前に、競輪場でバイトしていたんですか?

落車救護をしてました。

Q:そんなことやってたんですか!?

アマチュア選手は、落車救護のバイトをする人が多いんですよ。

私がバイトに入った時は福井の普通の開催だったんですが、脇本さんが出るということですごくたくさんのお客さんが来ていました。レースでも脇本さんが上がっていく時に「うわぁー!」って歓声があがって、鳥肌が立って、涙が出そうなくらい感動しました。脇本さんってこんなすごい人なんだって。これだけお客さんを集められる人になりたい、そう思いましたね。

脇本雄太, 競輪祭 決勝, 小倉競輪場

脇本雄太

脇本雄太 震えるような走り

Q:その影響で脚質もロングスプリンターに?

いえ、それは関係ないです(笑)。

Q:昨年末のグランプリも、脇本選手の走りはすごかったですね。

感動しました。周りはなにもできないくらいでしたよね。優勝した古性(優作)さんも、脇本さんがすごすぎて、あまり嬉しそうじゃなかったようにすら見えました。脇本さんが優勝、というレベルの走りだったんだと思います。でも、近畿で1着3着だったので嬉しかったです。脇本さんが優勝した2022年もすごかったですよね。あれも震えました。

古性優作, 脇本雄太, KEIRINグランプリ2024, 静岡競輪場

KEIRINグランプリ2024のゴール直後

Q:つまり憧れというと、ワッキーになりますか?

憧れ、というと少し違うのかもしれないですが、印象に残っているのは脇本さんですね。

Q:実際に関わりはありますか?

ジムで少しだけ教えていただいたりとかはしたんですけど、関わりは全然ないんです。ちゃんとお話させてもらいたいなと思っているんですけれど、恐れ多くて話せないです。寺崎(浩平)さんとも、ナショナルでは入れ替わりだったので。

「市田くん」「仲澤さん」

Q:福井出身でいうと、市田龍生都選手もこの合宿にいますね。地元が同じで同い年。距離も近いのかなと思いますが、お互いなんて呼び合ってるんですか?

市田くんと仲澤さん。

市田 龍生都

「市田くん」

Q:あははは(笑)

そこも関わりがないんですよ。市田くんは市田道場でやっていて、自分は師匠と二人でやっていたので。地元も離れすぎていて、学校も違うし。市田くんが養成所に入る前に、初めて喋ったくらいですね。地元から別々に出てきて、静岡で合流したみたいな。

Q:でも、お互い良い刺激になるんじゃないですか?

お父さん(市田佳寿浩)もすごい人だし、めちゃくちゃエリートじゃないですか。だから、「市田くんすごーい」みたいな感じです(笑)。自分なんて、というか、比べるとかではないです。

まさか自分が沖縄に来るとは

Q:ジェイソン・ニブレットコーチにみっちり鍛えられたら、もっともっとすごくなるんじゃないかと思います。“地獄の合宿”といわれるこの沖縄合宿にきて、いかがですか?

「今年は例年ほどキツくはない」と聞いていたのですが、ギアもいつもより重いものを踏んでいますし、やっぱりキツいです。でも、水菜さんを含めてレベルが高い選手が目の前にいる環境なので、頑張らなきゃと思いますね。

学ぶこともたくさんあるし、強い人と一緒に練習できることの幸せを感じています。ありがたいというか、すごいいい環境だなと思います。

Q:以前、金曜の練習の前に「死んだ方がマシなんじゃないかって思うことがある」と言っていた選手もいました。

あははは(笑)。まだそこまではなっていないですが、いずれ来ますよね。
たしかに金曜はしんどいですが、私は月曜が嫌ですね。リラックスした状態からスイッチ入れなきゃいけないので。でも、始まってしまえば「頑張ろう」と思えます。

じつは、この合宿の様子を、養成所のときにスピードチャンネルで見ていたんですよ。(太田)海也さんが地面にへばりついてるの見て、やば……と思いました。まさか自分がその場所に来るとは思ってなかったのですが、まだなんとか大丈夫です。

自転車競技は、怖い

Q:ボート競技出身ですが、自転車競技はキツいですか?

ちょっと違うキツさかなと思います。怖いですね。

仲澤春香, 女子エリート, 500mTT, 2024全日本選手権トラック, 伊豆ベロドローム

Q:怖い?

特に短距離は、無意識にロックしてしまっている自分の限界を超えるために、自分を追い込まなきゃいけない。そのロックを外すのが怖いですね。

Q:頭のネジを一本一本外していく感じ?

そうですそうです。

Q:実際に外れてきている?

ちょっとずつですね(笑)。そこが、今の自分に足りないところなのかなと思います。どうしても抑えてしまうところがあると思うので。

Q:「この人、ネジぶっ飛んでるな」と思う人はいますか?

新田さん。

新田祐大, 1kmTT, 全プロ, 第70回全日本プロ選手権自転車競技大会, 富山競輪場

1kmTTを走った直後の新田祐大選手

Q:あぁ……(納得)。

ですよね(笑)。マジですごい。あんなに追い込めないですよ。あそこまで行ければ、違う世界が見えると思います。

Q:女子は今年から1kmTTもあるので、スペシャリストになることを願っています。

やっぱり、私も1kmTTも走ることになるんですかね……?

仲澤春香プロフィール

福井県出身。中学、高校とボート部に所属し、ボートのジュニアナショナルチームにも選抜された経歴を持つ。高校卒業後は関西電力に入社し社会人としてボートを続けていくも、成績の伸びが見られず退社。その後はボクシングに興味を持ったが、高校時代のボート部の先生にガールズケイリンを勧められて自転車の世界へ。半年のトレーニングの末に日本競輪選手養成所に合格し、2024年からプロデビューを果たしている。

自転車競技へは2024年のプロデビュー時から自分の可能性を知りたいと練習生としてナショナルチームに入り、2024年11月にはBチーム(アカデミー)入りを実現させた。12月には自転車競技選手として初の海外遠征(豪)を経験し、ケイリンで優勝を果たしている。