自転車トラック競技日本ナショナルチームを支える組織「HPCJC」。所属するのは各分野でプロフェッショナルとして働く専門技術に長けた人材ばかり。そのHPCJCのメンバーの1人、主に中長距離チームの身体のケアを担当しているのはマッサーの青山ゆう。

HPCJCに来てから既に5年が経過。中長距離選手たちの身体の変化を間近で見てきた青山氏に初のインタビューを実施した。プロアスリートをケアする仕事とはどのようなものなのか?「選手の身体」に向き合ってきた彼女だからこそわかる選手たちの変化とは?

HPCJCに来て5年

Q:HPCJCに来てから5年ほどでしょうか?

はい。最初は1年のだけのつもりが、いつの間にか5年経っていました。その理由のひとつがコロナ禍。東京2020オリンピックが延期になったことで「東京が終われば、あと3年でパリ」という状態になりました。中長距離はメンバーも変わらないし「このままパリまでみんなのケアを続ける!」という感じでしたね。

HPCJC全体を見ても、あのタイミングで離脱するスタッフはほとんどいませんでした。そもそもオリンピックが終わったら「もうすぐ世界選手権!」という感じでもありましたし、オリンピックを区切りにするという選択肢もなかったような気がします。

Q:どのような経緯でHPCJCに来ることになったんでしょうか?

もともと中山真臣さん(短距離マッサー)が別の方を勧誘していたのですが、その方は別の競技の担当に決まってしまいました。その方と私が長いこと一緒に働いていたので、私に声がかかった次第です。中山さんも私も同じ治療院の所属なんです。

共に勝利を掴むために「縁の下の力持ち」メディカルスタッフの仕事/HPCJC医療スタッフ・インタビュー

私が初めて呼ばれたのはイアン・メルビン元コーチの最後の合宿(中長距離の以前のコーチ)。その年のアジア選手権で中長距離の強化が終わるから、そこまでしか呼ばないけど……という話でした。当時の私としては「これは好条件の仕事だ」という感覚。ナショナルチームというハイレベルな環境で仕事ができ、しかも終わりが定まっている。「ラッキーじゃん!」と思っていました。

でもそうしたら、アジア選手権が迫ってきた頃に「伊豆に住み込みで中長距離のマッサーやらない?」と話が降ってきて、今に至ります。

Q:それ以前にもプロアスリートのマッサージは行っていたのでしょうか?

プロは診ていませんでした。学生のテニス部などにはちょこちょこ行っていましたね。

プロのアスリートは、やっぱり筋肉の質がとても良いと感じます。一般の人と比べてベースが圧倒的に柔らかい。そして過去に治療院で診てきた患者さんは高齢の方が多かったので、エネルギッシュさもすごく感じますね。

自転車の疲れは自転車で抜く

Q:プロと関わって意外だったことなどはありますか?

単純にこれだけの練習量、これだけのハードな練習を毎日やっているのがすごいです。

Q:それもマッサーがいてこそでは?

どうなんでしょうね?「脚を回して(ペダルを回して)帰れば結構疲労が抜けるんですよね〜」なんて言う人もいますよ。逆に「動かないと疲れが抜けないから」と、休みの日にも軽いサイクリングをする選手が多いです。自転車の疲れは自転車で抜けるんですね。

「毎日これだけ乗ってて、それでもまだ乗るんか」と思っちゃう……(笑)

プロアスリートを診るマッサーのお仕事とは?

Q:マッサージを行うのはケアハウス*での実施がメインでしょうか?
※HPCJCの持つアスリートのケアを専門的に行う施設

ケアハウスがメインです。ただ、トラックトレーニングの後にベロドロームで行ってしまうこともあります。1人あたりのマッサージ時間は60〜90分としています。

ベロドロームで施術する時

Q:中長距離メンバーは強化指定選手全体で数えると現在13人。週に1回のペースでマッサージをするとして、1人で切り盛りするのは大変ですよね?

うまくスケジューリングできるのであれば、13人を1人で診るのは可能です。ただみんな同じメニューをやってるから、結局疲れるタイミングも同じ。たいてい週の後半で「僕も!私も!こっちも!」ってなっちゃうんですよね。

忙しい日のスケジュールを例に挙げると、ジムトレーニングの後にまず1人をジムでケア。その後選手がロード練習に3時間くらい出て、終わって15時くらいから、多い時は4人連続。終わるのは20時などになりますね。

Q:そういう日はさすがに疲れますか?

疲れるというより「長いな〜」って感じですね。選手がロード練に出ている間は自分のトレーニングをしていることもあります(笑)カロリーを消費して、ご飯を食べて、元気になって「もう1回やるか!」という感じです。

コミュニケーションによる独自のプランニング

Q:大会期間中と普段では、選手の筋肉の違いを感じますか?

大会直前は練習量が落ちるので、日常的な状態とはまた違ったものになりますね。口では「疲れた」と言っているけれど、脚は思ったほど張っていない……みたいな。

以前はダニエル・ギジガーコーチが「大会期間中のマッサージプラン」を作っていました。「この日にこの選手のレースがあるから、前日には必ずマッサージをして欲しい」といった内容をリスト化したものです。

でも選手によって前日に触られたくない人もいるので、マッサージプランをベースに臨機応変に対応していく感じになりました。選手と私との間で「この人は何日前にやるのがベスト」というのを大体把握しているので「コーチのプランではこの日になってるけど、今日やった方がいいよね?」と相談しています。

最近はこの流れにも慣れてきたので、ネーションズカップ第3戦(カナダ)などはコーチのプラン無しで実施しました。

施術頻度別 ランキング

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