長らく「絶対王者」ハリー・ラブレイセンが君臨する時代が続いてきたトラック男子短距離。しかし2022年以降、オレンジの牙城を崩さんとするニューホープが現れた。それはオーストラリアのマシュー・リチャードソン。

直近の『2024ネーションズカップ第1戦』でもチームスプリント金メダル、スプリント銀メダルを獲得している。

本記事ではパリに向けた注目選手として、リチャードソンがどんな選手なのか紹介しつつ、そんなリチャードソンやラブレイセンに対抗する日本の太田海也のスゴさについてもお届けしていく。

マシュー・リチャードソン(オーストラリア)

1999年生まれのトラック男子短距離選手。

生まれはイギリス・ケント州の州庁所在地、メードストン。9歳の頃にオーストラリアへ移住した。

幼少期より体操競技に励んでいたが、10代半ばの頃に負った肘の故障をきっかけに引退。その後オーストラリア西部スポーツセンター*が主催する「自転車競技の体験セッション」に参加。そこで才能が見出され、本格的にトラック競技をスタートした。

※オーストラリア西部スポーツセンター:Western Australia Institute of Sport

2019年にはトラック競技の国内強化指定選手に選抜され、同年の世界選手権・チームスプリントへ出場。結果は惜しくも6位となったが、続く世界選手権2020年大会では銅メダルに輝く活躍を見せた。

ラブレイセンを撃破!その名を世界に轟かせた2022年

エリートデビュー後は主にチームスプリントに貢献してきたマシュー・リチャードソン。個人種目では順位決定戦から漏れる(東京オリンピックではスプリント22位)など、目立つ活躍は見せていなかった。

「こいつ、なんかすごいぞ」という雰囲気が出てきたのは2022年シーズンからだ。

2022年のネーションズカップには第1戦・第2戦に出場したリチャードソン。第1戦・スプリントではハリー・ラブレイセンに次ぐ銀メダルを獲得。

第2戦のスプリントではラブレイセン不在のなか、同じくオランダのジェフリー・ホーフラントを破り優勝。ネーションズカップで自身初の個人タイトルを獲得した。

同年の世界選手権・スプリントでも決勝に進出したリチャードソン。もちろん相手は絶対王者のハリー・ラブレイセン。結果はストレートで敗れての銀メダル

しかしリチャードソンは『2022ネーションズカップ第1戦』のスプリント決勝よりも、ラブレイセンとのフィニッシュタイム差を大幅に縮めており、絶対王者に対して徐々にその差を縮め始めていた。

スプリント決勝戦 フィニッシュタイム差比較

タイム差
1本目 2本目
第1戦 +0.100 +0.247
世界選手権 +0.155 +0.083

「ラブレイセン&リチャードソン」2強時代に突入した瞬間

そして迎えた同年(2022)の『トラックチャンピオンズリーグ』。世界トップ選手のみが招待され、全5戦(ラウンド)の総合ポイントを争う大会。短距離種目ではスプリントとケイリンの2種目が実施された。

男子短距離に18選手が出場した本大会のスプリントの決勝は、全5戦とも「ハリー・ラブレイセン vs マシュー・リチャードソン」となった。世界選手権で銀メダルを獲得し、すでにリチャードソンは男子短距離にて「世界トップの1人」という地位を獲得していたが、”オージースプリンター”の進撃は止まることはなかった。

『2022トラックチャンピオンズリーグ』の男子スプリントでは、第1戦・第2戦ともリチャードソンがラブレイセンを撃破し見事優勝。第3戦〜第5戦のスプリントではラブレイセンが首位を取り返し、総合優勝の座を懸けた決戦は第5戦のケイリンに持ち込まれた。

最終決戦のケイリン。ラブレイセンが先行する中、最終コーナーで一気に加速したリチャードソンが捲り上げ、超僅差で1着フィニッシュ。絶対王者を破り、文句なしの総合優勝を勝ち取った。

まさに「絶対王者ラブレイセンが君臨する男子短距離」から、「リチャードソン&ラブレイセンの2強」の時代へとシフトした瞬間と言えるだろう。

『2022トラックチャンピオンズリーグ』での2選手の成績

マシュー・リチャードソン ハリー・ラブレイセン
第1戦 スプリント優勝 / ケイリン3位 スプリント2位 / ケイリン優勝
第2戦 スプリント優勝 / ケイリン2位 スプリント2位 / ケイリン優勝
第3戦 スプリント2位 / ケイリン優勝 スプリント優勝 / ケイリン2位
第4戦 スプリント2位 / ケイリン優勝 スプリント優勝 / ケイリン4位
第5戦 スプリント2位 / ケイリン優勝 スプリント優勝 / ケイリン2位

熱狂を生んだ逆転劇 新チャンピオンはリチャードソン/『UCIトラックチャンピオンズリーグ』第5戦・ロンドン大会

マシュー・リチャードソン 主な実績

開催年 大会名 成績
2019年 トラックワールドカップ第6戦 チームスプリント優勝
2020年 世界選手権トラック チームスプリント3位
オセアニア選手権トラック チームスプリント2位
2021年 2020東京オリンピック チームスプリント4位
スプリント22位
ケイリン13位
2022年 世界選手権トラック チームスプリント優勝
スプリント2位
トラックチャンピオンズリーグ 男子短距離カテゴリー総合優勝
ネーションズカップ第1戦 チームスプリント優勝
スプリント2位
ケイリン3位
ネーションズカップ第2戦 スプリント優勝
ケイリン2位
オセアニア選手権トラック チームスプリント優勝
スプリント2位
ケイリン2位
コモンウェルスゲームズ チームスプリント優勝
スプリント優勝
2023年 世界選手権トラック チームスプリント2位
ケイリン2位
ネーションズカップ第1戦 チームスプリント優勝
ネーションズカップ第3戦 チームスプリント優勝
スプリント3位
ケイリン優勝
オセアニア選手権トラック チームスプリント優勝
スプリント優勝
ケイリン優勝
2024年 ネーションズカップ第1戦 チームスプリント優勝
スプリント2位
オセアニア選手権トラック スプリント優勝
ケイリン優勝

「2強体制」に風穴を開ける太田海也

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