どう戦う?チームスプリント

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強化を続けることができるのか

Q:それを考えると、初日にチームスプリントがあるのはまだ良いですね。

僕以外の選手たちは、その後の個人種目に支障が出るかもしれませんが(笑)

でもチームスプリントの強化は本当に大事だと思います。オリンピックでメダルを獲る確率も上がるんです。現状のルールであれば、チームスプリントにオリンピックに出場可能なチームは8チームのみ。タイム競技なので番狂わせが起こることは稀ですが、ケイリンやスプリントと違って相手は7チームしかいないんです。

そういう意味では、チームスプリントを今より強化するのも”アリ”なんじゃないかなって個人的には思っています。

Q:コーチはもちろんそこも視野に入れているでしょうが、やっぱり今後の成長次第なんでしょうね。

東京2020オリンピックの前もいったん「チームスプリントはやーめた」ってなって、そこからまた「おっ、行けるか?」となった背景があります。そういった「行けるかどうか」を考えながら、負荷を掛けるか掛けないのかが始まっていくのだと思います。

今日、練習でのジェイソン(・ニブレットコーチ)はタイムを見て本当に嬉しそうでした。時間は掛かるかも知れないですが、信じてやっていきたいです。

Q:長迫選手はスタートについての不安は無いかと思いますが、腰を下ろしてからの後半について、以前課題が多いと語っていましたが、改善は出来ていますか?

今日の練習では後半のタイムで「上がってるわ!」って感じることができました。コンマ2秒くらい上がっています。

本番でどういったタイムが出せるかは分かりませんが、自分のベストタイムで第1走としての日本で一番速いタイムの”17秒46”はしっかりと超えていく必要があります。

自分を信じられるかどうかの部分でもありますので、しっかり準備して信じ込んで、全力を出すしかないです。

良いタイムのキーとなるのは「怒り」

Q:自己ベストを出した時の精神状態ってどんな感じだったんでしょう?

あれはマレーシアでのアジア選手権(2018年)なので、相当前です。あの時はとにかく体重を軽くして臨みました。バンクが軽かったというのもあるんですが……

あの時は板倉(玄京)と急遽1走を交代したので、予選を走っていなくて決勝だけでした。スタートも独特だったので、かなり緊張した覚えがあります。

Q:緊張した方が調子が良いタイムが出るのでしょうか?

緊張はあまり関係ないです。僕の場合は「怒り」によってタイムが出ます。自分に対しての怒りみたいな、ポジティブな怒りです。そういった状態になるように準備していけば、大きな力が出せると思います。

Q:怒りを出す方法ってありますか?

それは模索中です(笑)

集中すれば出るってものでもないので……これが出ると疲れも出ないし、怖さも無くなるから、すごく良いんです。でも第2走の小原から「速すぎて困る……」って言われたりもします(笑)

「本当にやってきた」という自信、あとは「東京オリンピックの悔しさ」が頭の中にあると力を出せる傾向がありますね。リオの時は「参加する」オリンピックでしたが、東京の時は「メダルを狙える」オリンピックでした。東京はニック・キンマン(オランダ)という身近に暮らしてきた選手が優勝したオリンピックでもありました。このあたりの記憶と自分の自信が組み合わさると、結構パワーが出せます。

レース当日に、力を出せるように頑張ります。

※キンマン選手と長迫選手は、ともにスイスのワールドサイクリングセンター(WCC)でトレーニングを行っていた。詳細は長迫選手作成のドキュメンタリーにて

BMX長迫吉拓&東京五輪金メダルのキンマン本人制作ドキュメンタリー公開

Q:金メダルを獲ったキンマン選手にあって、長迫選手に無かったもの、それは何でしょうか?

物理的な体のサイズとか、バイクコントロールとか、そういうことではありませんね。

彼はアスリートとしてすごく真面目です。僕も真面目だしみんな真面目だと思うのですが、彼は本当に小さなことを毎日継続できるタイプ。日記をつけるとか、この時間にこれを食べるとか。自分の中のルールにすごく厳しいんです。

レースで自分1人となった時、戦いがスタートするとき、自分への厳しさが故にある”ブレない心”が効果を表すのかなと思います。正直そこはすごいと思います。最初に「やる」と決めた時のモチベーションを何年も維持できるんです。

Q:では第2戦の具体的な目標を教えてください。

1走としての自己ベストを更新すること。1走が遅かったからチームスプリントが遅かったとは絶対に言わせません。17秒フラットを期待させるようなタイム、17秒4以下を出したいです。

順位的には……正直わかりません。それがチーム種目の難しさだと思います。僕は去年のチームスプリントに出れていませんから、本番での他の選手たちがどんな状態になるのか分かりません。柔軟性をもって挑みたいです。

BMXあれこれ

因みに伊豆にBMXの選手がいて、その人とお話する機会があって。今のBMXってこうだよね、ジュニアからエリートに上がるのに壁があるよね、みたいな話をしました。

僕が10年前にジュニアからエリートに上がった時って、各駅停車みたいな感じだったのですが、今は新幹線になっていますね。

Q:どういうことでしょう?

BMXという競技自体が発展途上だったので、電車が来たらそれに乗って、エリートの中に混ざってレースに出ることができました。レベルもそんなに高くなかったので、コースを1周走ることができればレースに出る機会がありました。でも今はきちんとトレーニングをして、気持ちも含めて全部準備しないと戦えない状況になっています。データ分析されて、「勝つためのやり方」が出てきています。

エリート世代の「レース経験」にジュニアたちは勝てないんです。僕たちの頃は各駅停車でしたが、今は新幹線。各停の駅で電車を待ってても、通り過ぎて乗れないような感じです。そういう状況からトップに行くのは難しいよね、という話でをしました。

Q:とはいえ、スパイダーマンみたいに飛び乗っちゃえばついていくことはできますが……

そうです。でも新幹線にチャリで追いつこうとしているようなもので……それだけの素質がないとトップには行きづらいんですよね。

Q:金銭面も気になります。例えば東京2020オリンピックのBMXレーシングで優勝したニック・キンマンは、BMXで食べていけるような状態なんでしょうか?

ニック・キンマン(オランダ)

贅沢しなければ、ってくらいですね。スポンサーもありますけど、オランダは連盟がしっかりしています。自転車競技が全体的に強いから、資金が潤沢です。世界のトップ10に入るとサラリーが出るとか……そういった制度があります。

日本の場合は競輪の支援がありますが、補助はナショナルチームに入ってAチームならいくら、Bチームならいくら、という感じです。向こうは「ナショナルチームに入ったら」だけではなく、結果を出すとさらにボーナスが出るような感じです。だからこそ強いというのもありますね。レベルが高いです。

Q:強ければ競技で飯を食っていくことができる、と。

そうですね。比べて日本は独特です。競輪の組織があり、ナショナルチームに競輪選手が多いので、選手たちは基本的に高収入です。どのスポーツと比べても特殊だと思いますね。

2021世界選手権では怪我をし、トラック競技での思わぬリスタートを切った長迫吉拓の物語、その行く末はどうなるのだろうか。カナダ・ミルトンで行われるレースの結果次第で長迫が関わるチームスプリントの強化の方向も見えてくるかもしれない。大会の結果に期待したい。

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