真夏の京都の夜を舞台に繰り広げられた『sfiDARE CRIT vol.12 – 2023 KYOTO NIGHT CRIT – 』。会場に潜入した編集部は主催者の児玉夫妻に対し、『sfiDARE CRIT』を始めたきっかけや今後の展望などを伺った。最後にご紹介する。
『sfiDARE CRIT』主催者 児玉夫妻
Q:他にはないレースを始めたきっかけを教えてください。
利文さん:僕は競輪選手ですのでピストバイクの良さを広めたいと思っていましたが、日本の競輪場やトラック競技場は一般の方にとって、とても使用しづらいイメージがありました。ブレーキの付いていない競技用のピストバイクを持っていても、バンクでは年に数回しか乗ることができません。なのでこうした一般の駐車場や公道などをお借りして、ピストバイクに乗ってもらう機会を増やしたかったんです。それにはこの『sfiDARE CRIT』を始めるしかありませんでした。
Q:ピストバイクの良さとは?
利文さん:ダイレクト感です。ブレーキもギアも付いていません。ただ自転車を漕ぐことに集中できる。シンプルだからこそ良い。私自身、トラック競技の他にもマウンテンバイクやBMX、トライアル、シクロクロス、ロードレースなど様々な自転車競技を経験してきました。もちろんどんな自転車競技にも魅力はありますが、個人的にはピストバイクがNo.1ですね。
和代さん:シンプルなところがカッコ良い、という面はありますね。ロードバイクを1つの例として比較した時、ロードバイク人口が増加するにつれてバイクや機材の高級化や、機材による差がどんどん進んでいるような印象があります。一方、ピストバイクのクリテリウムは唯一機材差の少ない自転車レースだと思うんです。釣りに例えたら、竿と糸だけ、みたいな。 自分の技術だけで進んだり、止まったりできる点にとても魅力を感じています。
Q:『sfiDARE CRIT』を最初に始めたのは?
利文さん:2017年です。 当時ニューヨークを中心に開催されていた『Red Hook Crit』というノーブレーキ固定ギアのクリテリウムレースをYouTubeで見た時に、「世界にはこんな事をやってる人たちがいるんだ!」と衝撃を受けたのを覚えています。この目で確かめるべく、実際にニューヨークへ行き、レースにも参加してきました。実際に参加してみて、「これを日本でやりたい」と思ったんですが、当時のピストバイクは社会から悪い印象を持たれていて、開催場所を借りようとした際になかなか共感を得るのが難しかったです。ですが共感してくれる方々は必ずしもゼロではなく、開催を重ねていくにつれて応援してくれる方々も増えていきました。
↑sfiDARE CRITチームも参加した『Red Hook Crit』2017年ブルックリン大会
Q:2017年から6年程が経ちますが、何か変化したことはありますか?
利文さん:参加してくださる人口は確実に増えました。 過去にはテオ(ボス)や(橋本)英也も参加してくれましたが、競技者からは『sfiDARE CRIT』をグレーな目線で見られることが多いんですよ。「ピストバイクを使った遊びじゃないか」みたいな。でも続けていくにつれて、競技としての面も確立してきたと実感しています。
和代さん:ただピストバイク自体がスパルタン、ワイルドな印象を持たれることが多いので、女性には犬猿されがちなのかなと。なのでこらからは女性の参加者の人口を増やしていきたいです。一緒に見にきた方とかで興味を持ってくれた方にも、『sfiDARE CRIT』が主催しているピストバイクの講習会*などを通して、ピストバイクの良さを男女共に更に広めていければと思いますね。 講習会では貸し出しできるピストバイクもあるので、ぜひ参加してみてほしいです。
※講習会についてはコチラ
Q:講習会で初めてピストバイクに乗り、その流れで『sfiDARE CRIT』にも参加した、という方もいらっしゃるんでしょうか?
和代さん:今日の会場にも大分いらっしゃいますね。その他にも競輪場やトラック競技場で走ったことのある人ではなく、ロードバイクは持っているがピストバイクにも興味が湧いて参加した、という方が多いですね。中にはピストバイクにハマってしまってロードバイクには全く乗らなくなってしまった、という方もいらっしゃいました(笑)
利文さん:逆に『sfiDARE CRIT』でピストバイクに乗り始めて、競輪やトラック競技選手を目指し始めた若い参加者の方もいらっしゃいます。 橋本英也選手や太田海也選手を目指したい、と志す方はいらっしゃいますが、なかなか世界でもトップレベルの選手たちなので、彼らみたいになりたいと思っても、何から始めたら良いのか、どんなステップを踏めば良いのかが想像しずらいと思うんです。
ですが『sfiDARE CRIT』では、タンクトップで走っている参加者もいれば、中学生ぐらいの参加者もいますので、初心者の方でも気軽に参加しやすいのではないかと思います。まずピストバイクの楽しさを知って乗りこなせるようになれば、そこからトラック競技や競輪選手を目指す道も見えやすくなると思うんです。
Q:今後『sfiDARE CRIT』やピストバイクをどのように発展させていきたいですか?
利文さん:競輪場やトラック競技場での一般利用の難しさを当初感じて、『sfiDARE CRIT』を始めたので、今度はコラボというか、競輪場でレースを行いたいです。『sfiDARE CRIT』で使用するピストバイクは競輪場で使用されるものと変わりありません。なので、競輪場に行きさえすれば、そのままバンクを走ることができるんです。
例えばですけど、競輪場の駐車場でまずはクリテリウムを開催して、その後にバンクでトラックレースを行う、みたいな。もしできたら最高ですね。 もちろん固定ギアのクリテリウムも最高ですが、そこで完結するのではなく、同じ車体が使用されている競輪やトラック競技の良さもぜひ知ってほしいと思っています。
利文さん:個人的に、現在の競輪はすごく良い仕事だと思います。賞金も上がっていますし、手当や補償も充実しています。「自転車に乗ることが好きなら、断然この職業でしょ」と思うほどです。もちろんロードレースやその他の自転車競技選手を目指すのも素晴らしいと思いますが、競輪選手をベースにその他の色々なことに挑戦してみる、という手もあると思います。
利文さん:英也が良い例ですね。競輪選手でありながら、トラック競技・ロードレース選手としてもトップクラスで活動している。その他にも競輪選手をやりながらシクロクロスやBMXに挑戦するような選手が出てきても、何にもおかしいことはないと思いますね。 『2023 UCI自転車競技世界選手権』を見ていてわかるように、様々な自転車競技があるんだと実感します。そこに固定ギアのクリテリウムレースという新たな自転車競技、レースイベントを実施することで裾野を広げる狙いもあります。
僕も妻も自転車競技をやってきましたが、こんなことやったことがなかったので、とても新鮮で面白いと思います。 実際に今日も参加してくれている人の中にも、「こらから競輪選手を目指したい」と言ってくれる若い学生たちもいらっしゃいます。良い流れなのかなと思います。
Q:和代さんはトラックサイクリングキャンプにもコーチとして参加されていますね。
和代さん:はい。トシ(利文さん)が言っていたみたいに、競輪場や競技場は一般の方からすると少し敷居が高いイメージがありますよね。「実際にバンクを走ってみるには、誰の許可を取れば良いの?」という単純な疑問もあると思います。競輪場内を走行してみる一歩手前に『sfiDARE CRIT』があるのかなと思っています。街中で講習会に参加して、クリテリウムにも出場してみる。
和代さん:そのステップを踏むと、競輪場へ走りに行くハードルも下がると思いますし、私もトラックサイクリングキャンプのコーチとして、そうした場を直接提案できたりします。より興味を持った方には、フィジカル面のトレーニング方法やそうしたことを学べる場も紹介できます。女性アスリートとしての競技経験があるので、女性に特化した様々な提案を行うことも可能です。
和代さん:もちろん楽しむことが1番ですが、その先の道を目指す方にも『sfiDARE CRIT』をおすすめしたいです。 今では男女かかわらず自転車競技、競輪選手として、1つの職業として自転車に乗ることができる時代です。道先案内人ではありませんが、『sfiDARE CRIT』に来ていただければ、そうしたこともお話できますね。
Q:一方で、遊び感覚で楽しむことをメインに参加する方も歓迎しているのでしょうか?
利文さん:もちろんです。どんな思いで参加しているのであれ、みなさんとてもクールだと思います。カッコ良いですよね。これからも、ピストバイクを持って様々な思いで参加してくれる人たちが溢れる場にしていきたいですね。
Q:最後に、本日は9月23日に横浜で開催されるレースの予選大会だとお伺いしました。横浜ではどんなレースが開催されるのでしょうか?
利文さん:『CMWC 2023 Yokohama』というサイクルメッセンジャーの世界大会が開催されるのですが、1つのコンテンツとして『sfiDARE CRIT』も開催させていただきます。この京都開催の上位者たちが横浜のレースで走ることができます。 もちろん世界大会の1コンテンツなので、海外からの参加者も多数いらっしゃいます。フランスの「Look Crit」 というチームも参加してくれるとの連絡をいただきました。非常に盛り上がるレースになると思うので、ぜひたくさんの方に見にきていただきたいです!
『YOKOHAMA CRIT』は日産スタジアムで開催
More CADENCE編集部も潜入した『sfiDARE CRIT vol.12 – 2023 KYOTO NIGHT CRIT – 』。9月23日に横浜の日産スタジアムで開催される『YOKOHAMA CRIT』の予選大会として開催された。
予選を勝ち抜いた選ばれしライダーたち、そして海外からの参戦者たちが横浜の地に集結する。
また京都での予選大会でも活躍したサイクルメッセンジャーの世界No.1を決定する『CMWC 2023 Yokohama』のレースも、9月23日(予選)と9月24日(決勝)に日産スタジアムにて開催される。
こちらはメッセンジャーではない一般の方々でも参加可能であり、当日のエントリーも受け付けている。興味がある方は、この機会に”世界大会”へ出場してみてはいかがだろうか。
『CMWC 2023 Yokohama』公式サイト
『sfiDARE CRIT 公式サイト』