敗れた者たちの思い
北日本ラインの先頭を走った新田は、やりきれない表情で「最悪でした」と語る。
「自分の仕掛けるタイミングがあんなに遅くて、守澤と慎太郎さんと、もう勝負圏外になっちゃっているような場所から勝負させるような形になってしまったんで。申し訳ない気持ちです。
この悔しい気持ちは絶対忘れない。去年も悔しかったですけど、去年なんかより比にならないぐらい悔しいんで、ちゃんと自分の力を出せるようなレースを毎回、どのタイミングでも作れるように準備していきたいなと思います」
和田の後ろへと進路を切り替えていた佐藤は3着。平原にぶつかりながらもハンドルを投げた守澤は4着だった。
グランプリ初出場の守澤は、「優勝は目指したのですが、自分が実力通りにいったら9番手なので。そんな中で最後まで精一杯ゴール勝負できたので、届かなかったのですが、しっかり自分なりに力を出し切れたので良かったと思います。走ってすごく刺激を受けたので、また来年この場所に戻ってこられるように頑張ります」と前を向いた。
佐藤もまた、悔しさを持ちながらも次のチャンスを見つめる。
「絶好の位置で勝てなかったっというレースではなくて、ちょっと厳しいんじゃねぇかなっていう位置から3着まで来られているんで、優勝はできなかったですけど、ある程度自分の走りができたかなと思います。
2着まではいけそうだったけどな。でもね、和田健太郎みたくチャンスがいつ来るかわからないから、やっぱり自分の状態を常に良い状態に仕上げておいて、チャンスが来たときにつかめるようにしておけば良いかなと思いますね。また一歩ずつ、やっていくだけです」
自身のゴール勝負と清水を勝たせることは叶わなかったが、多くの役割を果たした松浦も「良いレースができたのじゃないかなと思いますけど、どちらかが優勝ということがない限りは、やっぱり喜べないので、また来年リベンジしたいですね」と、清々しい表情を見せた。
和田を運んだ郡司は、「もうちょっと最後ね、ゴール前に勝負できるぐらいのレースは見せたかったんですけど」と悔しさを滲ませたが、ラインの勝利を噛み締めつつ、自身の負けを受け入れているようだった。
「今日はラインがあっての勝負だったので、迷わず仕掛けられましたし、お客さんはどう捉えるか分からないですけど、僕自身は本当に完敗だったので、悔いはないというか。来年またリベンジしますとしか言えないです」
優勝候補筆頭として強烈な逃げを放った脇本も「自分ができる中での最善は尽くしたつもりなので。これで負けたなら納得というか、しょうがないかなって感じです」とやりきった様子だった。
ナショナルチームのブノワ・ベトゥヘッドコーチへどう報告するかを聞くと、「自分がやりたいことはできたし、この結果に満足してるわけではないけども、怪我明け一発目で自分の中での勇気を振り絞れたという話はしたいと思います。ちゃんと自分が勝ちたい意識を持ってレースができたかって聞かれたら『それはできた』とは言いたいです」と答えた。
競輪で最大の舞台であるこのグランプリは、たった3分程度の一発勝負。されど、その3分に1年間の、いや、それまでのすべてを注がねばならない。今回のレースは、圧倒的な強さをもってしても勝ち切ることのできない一発勝負の難しさがよく現れたレースであったように思う。
心身の研鑽を前提に、作戦や組み立て、ラインの信頼関係、自身が持つ”正義”、柔軟な対応力、運など、全てが噛み合ったときに初めて、勝利への道筋が見えるのかもしれない。
また今年、新たな一年の積み重ねが見られることを楽しみにしたい。
Text & Photo : 滝沢佳奈子(サイクルスポーツ)