それぞれのラインとその思惑

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最後の4コーナーの攻防

それまで頑なに脇本の後ろを譲らなかった平原が最終コーナーで選択したのは、脇本との一騎討ちではなく、前を走る脇本への援護。
「他地区で僕が(番手に)ついていて、あれだけの走りをしてくれたのに、僕は何もしないで最後ゴール前だけ踏んでっていうのは、もう最低の選手だと思うので。それは出来なかったです。本当に」
平原は、右後ろから勢いよく伸びてきた清水を外側へと振り払った。

「平原さんがまさか横に動いてくるとは僕も(清水)裕友も思わなかった」と、松浦は振り返る。前日には清水が勝利し、肩を組んでバンクを回る夢を松浦は見ていたとのことだ。

振り払われた清水もそれまでは勝利への道筋が見えていた。
「いやぁー、夢見たなー……。平原さんがさすが、としか言いようがない。いやあ、越えたと思った。ちくしょう……」と大きくため息をついた。

最後にチャンスを得たのは和田。

平原が清水を牽制しに行ったことで、脇本の後ろが空いたのを和田は見逃さなかった。そして隙間を縫った和田はフィニッシュラインへと加速していき、見事2020年の王座を勝ち取った。

「まずは郡司がそこまで連れていってくれたことと、あとは正直きつかっただろうなと思ったので、内に進路をとって、あとはもう行けるところまで行こうと思ったら、綺麗にコースが空いたので。本当に運が良かったなと思っています」

フィニッシュ直前まで得意の形で先頭を走った脇本は最後は2着となった。
「走る感触としては、それこそ自分が優勝した高松宮記念杯競輪みたいな走りができていたつもりだったんですけど、やっぱりみんなが自分の走りを本当に研究している感じだったので、みんな焦らずに動いて、捲りもすごい勢いでかけているなとは思いました」

すべてインコースで突き進むことができた和田もまた、高松宮記念杯で脇本を捲りきれなかったことを考えていた。「宮杯のときはあとちょっという形だったので、あんなにしっかり抜けるっていうのは」

敗れた者たちの思い

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