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【相手との心理戦】

Final / Men's Sprint / TISSOT UCI TRACK CYCLING WORLD CUP IV, Cambridge, New Zealand, 深谷知広 Mateusz Rudyk マテウス・ルディク

スプリントの対戦は通常「後ろを振り向きながら走る」前走者、「前にプレッシャーをかけながら進む」後走者に分かれて行われる。

先行したいのか、追い込みたいのか。
今が仕掛け時なのか、どこから仕掛けるべきなのか。

自分は、相手は疲れているのか、そうでないのか。

Semi Finals / Men's Sprint / TISSOT UCI TRACK CYCLING WORLD CUP IV, Cambridge, New Zealand, 新田祐大 Mateusz Rudyk マテウス・ルディク

相手の脚質、勝ちパターンなども頭に入れた上で、選手たちは様々な思考を巡らせながら走る。駆け引き、心理戦が勝つために必要となる。

【自分の得意な距離で勝負する勇気、技術】

スプリントに限ったことではないが「ここからなら自信を持って先行出来る/捲れる!」等の「自分の距離」になった時に一気に勝負に出る勇気、そして自分の距離に行くまで相手をコントロールする(自分の思い通りにバンクを動き、相手を思い通りに動かせない)技術。この2つの要素も勝つために必要となる。特に斜度の激しい250mバンクで瞬時に上下に動く姿は必見だ。忍者のような動きで相手の視界から消える選手もいる。

1/4 Finals / Men's Sprint / 2020 Track Cycling World Championships, Azizulhasni Awang アジズルハスニ・アワン, Fukaya Tomohiro 深谷知広

【体力、回復力】

2020 Track Cycling World Championships

予選、1回戦、2回戦、準々決勝、準決勝、決勝と勝ち上がっていくスプリント。ワールドカップだと全てのレースを1日で行わなければならない。しかも準々決勝からは3本勝負(2本先取で勝ち抜け)になり、最大1日12レース(!?)を走る計算となる。

加えて、少ない場合は10分程度のインターバルでレースを行うこともある。レース中には決して苦しいことは顔に出さない選手たちだが、中には走り終えて地面に倒れてしまう選手もいる程だ。

Men's Sprint / TISSOT UCI TRACK CYCLING WORLD CUP VI, Milton, Canada, 雨谷一樹

最大12本を1日で走る体力、そして短い時間で可能な限り回復する能力も勝ち負けに大きく関わってくる。

このことについては深谷知広選手が自身のブログで触れている。

また深谷選手がファンから聞かれたスプリントの素朴な疑問に答えている回もあるぞ。

【予選(タイムトライアル)/トップスピードの高さ】

Qualifying / Men's Sprint / TISSOT UCI TRACK CYCLING WORLD CUP V, Brisbane, Australia, 脇本雄太

最後のポイントは実は大事なスプリントの予選、200mフライングタイムトライアル。このタイムによって対戦方式となる本選の相手が決まる。予選でトップ4に入れば「1回戦は免除、2回戦からスタート」となるシード権を得る。予選でトップ4に入ることは非常に難しいが、1回戦を走らないことで、2回戦以降で体力的に優位に立つことが可能となる仕組みだ。

Qualifying / Men's Sprint / 2020 Track Cycling World Championships

また、対戦では予選タイム上位者順に下位タイムの選手と戦う仕組みとなっている。例えば1回戦だと予選トップ4はシードを得て戦わないため、「予選5位の選手 vs 予選最下位通過の選手」の戦いとなる。同じように予選6位通過の選手と予選で下から2番目の選手が対戦するといった具合だ。

1/16決勝 / Men's Sprint / TISSOT UCI TRACK CYCLING WORLD CUP IV, Cambridge, New Zealand, 脇本雄太

勝ち上がっても、同じ法則で対戦の組み合わせが決まる。予選を上位で通過することにより、自分より遅い予選タイムの選手と戦うことが出来き、勝ち上がる確率が上がるというわけだ。

稀に予選タイム下位の選手が大番狂わせで勝ち上がることもあるが、準々決勝や準決勝ではボロボロになっており、体力的にも精神的も追い込まれていることが多い。対象的に予選上位通過の選手は、精神的にも肉体的にも優位に立って戦いに臨める。

奥が深い、スプリント種目

Final / Men's Sprint / TISSOT UCI TRACK CYCLING WORLD CUP II, Glasgow, Great Britain

左からジェフリー・ホーフラント、ハリー・ラブレイセン、深谷知広

高いトップスピードが必要なのはもちろん、ここまでに記載してきた要素すべてが求められるスプリント種目。

現在の日本ナショナルチームでは、深谷知広選手がこの種目の第1人者として世界の舞台で活躍している。しかしトップに立つにはオランダの怪物たち(ハリー・ラブレイセン:2020トラック世界選手権短距離種目3冠達成ジェフリー・ホーフラント:2020世界選手権スプリント準優勝)を倒さなければならない。

オリンピックが開催されれば、近い将来に我々は世界トップの戦いを目にすることが出来る。

その時、この種目をどう観るのか。

この記事が手助けとなれば嬉しい限りだ。