ギアの変化
優れた回転力があれば高いパワーを出す事も可能だ。
近年のトラックスプリンター達は60×12(1回転で10.5m)のギアを使用しているが、これは数年前の48×14(1回転で7.2m)と比べて大きなギアだ。
大きなギアを使うことで選手たちのケイデンス(回転数)も低くなっており、数値としてはおよそ160rpm(rpm=1分あたりの回転数)から130〜135rpmへと推移している。
懐かしのカレドニア合宿🇳🇨
地獄の60×10超大ギヤの750m走💨 pic.twitter.com/d8TpvZC1pA— 深谷知広 (@tmhrfky) May 9, 2020
ワットの測定とタレントの発掘
”ワット数が高いからと言って速く走れるという訳ではない” – クレイグ・マクリーン(イギリス出身/現WCCコーチ)
スイス・エーグルにあるUCIワールドサイクリングセンター(通称WCC)。ここに入る研修生達は、始めにワットバイクを使って2回の6秒間ピークパワーテスト、30秒スプリントテスト、4分間有酸素のテストを行う。このテスト結果で選手の特性を見て、短距離、中距離、そして長距離のどれに向いているのかなどを判断するのだ。
WCCでは滞在中に繰り返しテストを行い、トレーニング進捗状況などを随時確認する。
ワットの重要性
WCCのコーチ達は、男子エリートのスプリンターなら体重1kg辺り25w、女子は体重1kg辺り20wのパワーを出せる事を指標としている。
才能の発掘や若手選手の育成に、ワット測定は重要な役割を果たしている。パワーテストをして正確なデータを蓄積していくことで、才能ある新たな選手の発掘や、練習の成果、他の選手との比較、成長のポテンシャルなどを測る事ができる。
しかし、シドニーオリンピック チームスプリント銀メダリストで2002年チームスプリント世界王者のWCCコーチ、マクリーン氏は「ワット数が全てではありません」と言う。
「自分自身の戦術や調整を良いバランスで、最小限かつ効率的に走る能力を持つ事も、トラック競技の一部です。ワット数は有効な指標で、アスリートに最大限のパワーをさせるように指導していますが、高いワット数があるから速く走れるという訳ではないのです」
彼が現在指導するグループの中で、最も速い選手の最大ワット数は、そのグループで最も小さいという。
参考記事:Track Sprinting: a question of watts?
人力発電
余談だが、ドイツのトラックサイクリスト、ロベルト・フォルストマン(ロンドンオリンピック/世界選手権チームスプリント銅メダル)は直径74cmの太ももで700wのトースター発電に挑戦。倒れ込みながらも見事パン1枚をこんがり焼き上げた。
SNS向けの企画ではあるものの、目に見える形でワットや選手の実力を知ることができるわかりやすい例だ。