例年日本を震わせる「熊」のニュース。令和5年(2023年)の4月〜12月の熊出没件数は平成21年度(2009年)以降の同時期で過去最多であった、という統計も出ている。
日常生活のすぐそばに出没することもある熊。日本に2000人以上いる競輪選手は、時に街道練習(公道での練習)として山に近い道を走ることもある。熊は選手たちにとって身近な脅威とも言えるだろう。
では、もし競輪選手が熊と遭遇した時
競輪選手は熊に勝てるのか……?
そんな疑問を真面目に考えてみたのがこの記事です。
熊の走る速さ
熊の走る速さとはどれほどのものなのか。複数の資料を当たったところ、時速40km(by環境省)、時速50km(by岐阜県)、時速60km(by知床財団)と幅がある。
これは熊の種類の違いによるところが大きい。本州〜四国に生息するツキノワグマは時速40km程度、北海道に生息するヒグマは時速60km程度まで出すこともある、と言われている。
熊の持久力
では、熊はどれくらいの時間その速度を維持できるのか?
ルーマニアのニュースではあるが、スキー場に現れたヒグマが時速50kmで3分ほどスキーヤーを追いかけたという動画が公開されている。
ヒグマは北海道でも生息しており、国内でも同じような事例は発生しうるだろう。今回はこの「時速50kmで3分」を基準として考えていきたい。
競輪選手の速度と持久力は?
熊の速さと持久力を確認したところで、競輪選手の速さと持久力を検証してみよう。
競輪は333〜500mの競技場を使って行われる。しかし最初の数周は相手の出方を伺う動きとなるため、熊から逃げるような「全速力」がどのくらいの速さで、どのくらい持続できるのかは計りにくい。
そこで競輪選手の自転車競技大会である「全プロ(全日本プロ選手権競技大会)」における「4km個人パシュート」の数字を見てみることとした。
4kmを1人で黙々と走る、タイム計測種目である「個人パシュート」。なお自転車トラック競技でもこの種目は行われるが、トラック競技は空気抵抗の少ない屋内バンクで行われるため、「熊から逃げる」の状況を前提とした場合には少々不適当である。したがって屋外バンクで行われる全プロでの記録を判断基準としていく。
2025年1月時点での全プロ大会記録は、2019年に松山競輪場で記録された、橋本英也による4分30秒694。
橋本は自転車トラック競技でも日本代表選手として活躍する選手で、競輪選手としては指折りの「中長距離が得意な選手」だ。
その橋本の「4分30秒694」を時速に直してみると……時速49.655km。
ルーマニアのスキー場に出た熊が時速50kmで3分走っていたことを踏まえると、「熊 vs 橋本」はほぼ互角ということになる。
なお同種目の日本記録は、同じく自転車トラック競技日本代表チームの松田祥位による「4分10秒521」。このタイムであれば時速にした時53kmなので、熊にもリードができそうだ。
ただこれは室内競技場で計測されたタイムなので、山で熊に遭った時に同じパフォーマンスができるかどうかはわからない。
熊対策、きちんとしましょう
というわけで、単純に数字だけを見た場合に過ぎないが、プロ競輪選手であっても「速さと持久力で熊に勝てるかは微妙」という結果となった。
ちなみにツール・ド・フランス2024 第13ステージの平均時速は48.8km。ゆるく走るシーンも含めての速度ではあるが、世界最高峰レースもこのくらいの時速となることは付記しておきたい。
自転車のプロですらこの数字なのだから、一般のライダーが「チャリなら勝てるっしょw」みたいなノリで対策せずに熊出没の危険性がある場所に訪れることはとても危険。熊対策、きちんとしましょう!