特別なのはフロント部分だけではない
車体を見た瞬間に目が行くゴツいフォーク。しかしこの新型バイクは車両の後部部分まで細部にわたるこだわりと、データに基づく科学的根拠の基に作成されている。
「リヤフォークについては、どれだけやっても綺麗に空気が流れない場所なんです。一般的な形状だと人間と自転車の隙間にシートステーが来てしまい、そこで空気抵抗が発生してしまいます。今回のリヤフォークはワイドな形状にしたことで、人間の方にフレームを近づけました。人間の影に隠すイメージです。面積が小さいほど抵抗も小さくなりますから、それを狙った形状になっています。でも作り手からすると、めちゃめちゃ作りにくい形状なんです(笑)真っ直ぐ作りたいです。
結果的にゴツくてカッコ良い形になりましたが、カッコ良くなることは想定していませんでした。でも速いバイクは結果的にカッコ良くなるものですね。
今回チェーンリングを左側につけたところ、CFD(抵抗を測る数値)では左側にした方が良い数値を得られました。ただし、前提として回転するものの抵抗を測るのは難しいもので、固定した状態での数値を見て左側にすることにしました。もしかしたら実際に走るともっと良い効果が出るかもしれませんね。
とはいえ、やはりこの自転車のメインの要素はフロントフォークです。」
ママチャリの方がマシだ!
様々な試行錯誤の末、今回の発表にたどり着いたTCM-2。しかし完成までにはクリアしなければならない課題が山積みだった。特に剛性面で開発陣は苦悩した。
「一番苦労したのは車体剛性です。当初は必要とする剛性が全然出ていなかったので、その点に苦労しました。『怖くて乗れない』なんて声もありましたね。
重量をTCM-1並みにしようとしていたこと、そしてどれくらい剛性が必要なのか数値としてわかっていなかったことが原因です。わからないから重量をベンチマークに、と試してみたら弱くなってしまったことがあります……トラックナショナルチームテクニカルディレクターのブノワ・ベトゥさんからは『ママチャリの方がマシだ』と言われました。
加えて、想定していた動き方も違っていたと思います。実際の走行を踏まえると、想定するよりもっと大きな動きが起こるんです。従来の剛性試験では見えていませんでした。特に『ねじれ』の動きが重要だったんですが、以前は横や縦の動きを中心に見ていましたから指標とするべきはそこではなかった、と判明しました。
トライアンドエラーの連続。剛性試験の項目を見直し、形状修正を行って、それを繰り返して……最初に走行可能なモデルができるまでは大変でしたね」
それでも東レ・カーボンマジックだからできた
何を言われても改善すれば良いだけ。”新しい価値を創造する”という企業理念通りのマインドで開発を続けてTCM-2を完成させた。
「東レ・カーボンマジックの強みは、マインドが『ガンガン行こうぜ!』というところです。レース屋というか、『良くなるんならどんどんやろう』と考える人が集まっています。それは僕自身、入社直後に驚きを感じた部分でもありますが(笑)
またカーボンに関するプロフェッショナル集団であることだと思います。設計然り解析然り、貼る人もとても上手です。全てにおいてレベルが高いなと感じます。TCM-2は、東レ・カーボンマジックだからこそできる形状です。
でも『ホイールも新開発する』と聞いた時は『ホイールは絶対にヤバい!』と思っていたし、最悪他社品を使えるようにと考えていました。専用設計をするにしても、他社製品を使えるようなマージン(余白)を残しておいた方が良い。僕はそう考えていたんですが『せっかくゼロベースで開発ができるのだから、やれることは全部やって最大の結果を出そう』という感じで……」
まだ改善の余地アリ
更なる進化を目指す東レ・カーボンマジック。TCM-2の誕生は現時点の通過点、納得はしていない。
「TCM-2は剛性とのバランスを取るために重くなってしまったという部分があります。重量は大きな要素ではないものの、路面の抵抗に影響があります。だからそこは改善の余地があります。
形状の面でいうと、ハンドルとクランクは『触っていない部分』です。そこにはまだやれる余地があるかもしれません。いろんなバリエーションを試したらもっと良くなる可能性があります。
他のパーツをやってみてもいいかもしれませんし、まだまだですね」
東レ・カーボンマジック×HPCJC、そしてJKAの補助事業により実現したコラボレーションにより世に産み出された今回の新型バイク。更なる高みを求めて、すでに次に向けての開発が始まっている。
開発秘話については第2弾も公開予定。お楽しみに。
会社の存在価値を示すような作品 東レカーボンマジック×HPCJCはまだまだ進化していく 自転車トラック競技 新バイク開発秘話