日々トレーニングを重ね、世界を目指すためには日ごろの身体作りが大事!

今回の記事では、ナショナルチームの身体作りを支えるHPCJC(High Performance Center of Japan Cycling)のスポーツ栄養士、河村美樹さんにレース時の時の食事状況、普段から気を付けた方が良いことなど、概要をお伝えする。

※あまりにも多岐に渡る分野のため、今後河村さんの”栄養学についての有難いお話”は、連載していく方向です

レース時は全員に栄養戦略を立てている

Q:記念すべき初回のインタビューとなります。まず、気になるところから始めさせて下さい。日本代表がレースで摂取しているものはたくさんあると思いますが、すべて河村さんが摂取に対して指示しているものなのでしょうか?

サプリメントに関しては「このタイミングでこれを摂る」という計画を1人1人作成し、伝えています。ですが実際の大会ではスケジュールが変動することもあるので、そういう時は現場で臨機応変に対応でしょうか。事前にスケジュールが手に入っていれば情報だけ伝えることもあります。

でも、今では選手が栄養戦略に慣れてきて、自分で考えられるようになってきているので、そういう仕事も少なくなってきています。

Q:河村さんがHPCJCに来る前は、選手自身がどういうものを摂取すれば良いのか理解していなかったということでしょうか?

東京オリンピックの時の短距離Aチームだけは、以前からフランスの栄養士がついていました。「試合前は何時間前にこれを何グラム」といった感じの指示だったようです。現在メインで活動しているメンバーは当時はBチームでしたので、レースに出ることも少なく、そういった指導もありませんでした。

中長距離チームは全体としてほぼ何もない状態でしたが、ベテランの選手がいたのでアドバイスをもらいつつ、自分で出来る部分もあったようです。

私はもともと中長距離チームから携わり始めたのですが、そもそも食べ物を地面に置くような環境で……(笑)机とかの準備がなかったんですよね。今はだいぶ整った方です。水も東京油化さん、エムアイファクトリーさんというスポンサーがつくようになりましたしね。

※東京油化/エムアイファクトリーは日々のトラック日本代表選手たちのサポートに加え、全日本選手権などで公式飲料水を提供している

エムアイファクトリーの提供水

第1歩はサプリメントガイドラインの作成

Q:では、河村さんがナショナルチームに関わるようになって、まず何から手をつけたのでしょうか?

まずは衛生面、先ほどお伝えしたような「環境」の部分です。地面に食べ物を置かないこともそうですし、環境を整えることから始めました。補食をテーブルに置くことや、冷蔵のものをきちんと冷蔵庫に入れることもそう。これが2020年2月のことでした。

当時はクレイグ・グリフィン前中長距離コーチが就任して1年くらい経ったころです。私も自転車競技のことは何もわからなかったので、まずは選手に聞き取りをすることから始めました。私が入ってすぐにドイツでの世界選手権(2020)があって、その準備をする必要があったんです。

選手たちにレース前のルーティーンを聞き、どういう感じで過ごすのかを把握しました。その時は特にアドバイスはせず、まずは普段のやり方通りにしてもらった感じです。いきなり「こうした方が良い」と意見を出しても難しいと思いますから、まずは情報を収集しました。

その後ジェイソン・ニブレットコーチから「短距離Bチームの栄養指導を頼む」と言われたので、そこから短距離チームにも関わるようになりました。当時は山﨑賢人選手や寺崎浩平選手がBチームでした。

そんな中で行ったのが「サプリメントのガイドライン作り」です。

サプリメントをチームから提供し、選手が摂取するときのためのガイドラインです。これが「レースに関わり始めた」一番最初の仕事でしたね。

並行して東京2020オリンピック時の食事提供の準備もスタートして、業務の半分くらいを占めていました。食事場所とか、食材発注先の手配とか……でもそんな中で新型コロナ禍になって、オリンピックの延期が決定しました。

Q:手探り感満載……自転車競技は難しいですね。

はい。そもそもHPCJCに関わる前は自転車競技のことを詳しく知らなかったので、何をするのがベストなのかわかっていない状況でもありました。だから選手に聞いて、試してみて、また聞いて別のものを試して……とやっていた中で、コロナ禍に、選手と会えない環境になったわけです。

選手が自分の身体にフォーカスしていく

Q:選手の身体作りはトレーニングと何を摂取するかに左右されるかと思いますが、河村さんが入った時には他のスポーツ選手と比べて優れていたり、劣っていたりといったデータ面での比較などは出来ましたか?

そもそも、そういったことを知るための数値を取得していなかったんです。計測する機械が古かったですし、Aチームの栄養士はコロナ禍で日本に来れなくなっていました。なのでデータがあまりなくて……。

ただ、これは選手たちから言われることなのですが、近年は月1回のペースで定期的に血液検査や身体検査を行うようになって「自分の身体に意識が向くようになった」ということはあるようです。実際の変化はともかく、自分の身体にフォーカスするようになる効果はありますね。

結構みんな「今体重が何キロで……」など言ってくるようになりました。みなさん常に、自分の数値は把握できているようです。

Q:ちなみに、どのような数値を計測しているのでしょうか?

体重、体脂肪率、筋肉量、皮下脂肪の厚さや足の太さ、お腹周りなどを計ります。例えば皮下脂肪なら「ここが増えた」「ここが落ちた」など、場所ごとで計測します。短距離・中長距離で、計る部分や目的は少し変わります。

一番良かった時のデータを参考に

2023アジア選手権より……

Q:自転車選手として理想的な体脂肪率などはあるのでしょうか?

わからないです、私も知りたい(笑)!みんなまちまちです。

例えばすごく代謝が良かったり、腸内環境が良かったり、遺伝子の問題だったり、様々な理由があると思いますが、太れないような選手もいます。

逆に太りやすい体質の選手もいて、そういう人はより一層食事に気をつけなければいけないですし、もしかしたら追加でトレーニングをする必要があるかもしれません。この辺りはコーチの判断ですね。

このように体質によって本当に異なるので、「体脂肪率◯パーセントがベスト」ということは一概には言えません。でも選手それぞれ「この時が調子が良い」という状態があります。「その時」を見つけるために計測している、という側面があります。

例えば去年(2022)の世界選手権の時の調子がすごく良かった!という選手がいれば、その時の体組成(体重・体脂肪・筋肉量など)を目安に体を作っていくことがベンチマークとなります。

Q:聞いていて思ったのですが、そもそもそれって栄養士の仕事?なのでしょうか……?

(笑)。他の競技なら、もしかしたらトレーナーなどが計っているかもしれませんね。また別の肩書きになるかと思います。でも前述した、短距離Aチームを担当していた栄養士が元々行っていたので、私も踏襲しています。

Q:測定した情報はコーチ陣にお渡ししているんでしょうか?

はい、英語にしたものを渡しています。コーチたちは身体への理解が深いため、突っ込んだ質問や相談をされることもありますね。「こういうものを計って」、と頼まれることもあります。

トレーニングをする場所で体重を測ることもあるのですが、体重とワット数の比例具合を見ているようです。「この数値の時この体重なら、もう少し落とした方が良い」とか、「逆にもっと食べろ」とか。

短距離のジェイソンコーチは計画的に指示してくれるので、こちらも楽です。「こういうトレーニング計画だから、この時にこのサプリを摂らせたい」「ここは増量期」など事前に共有してくれます。中長距離のダニエル・ギジガーコーチは血液検査の内容の方が気になるようです。

レース時の食事情

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