価値はお金だけじゃない
ではガールズケイリン選手という職業を知る前の太田りゆは、将来へ対しどのようなビジョンを描いていたのだろうか?職業選択という点で、プロアスリート、特にガールズケイリン選手を選んだ理由を尋ねた。
「ガールズケイリン選手になろうと決めたのは20歳の頃です。家族の事もあり、お金を稼ぐ必要がありました。
私は結果を求めるのが好きなタイプで、ガールズケイリン選手以外の道を選んでいたとしても、貪欲に仕事をしていたと思いますし、結果を出して高い車を買えるようになっていたと思います(笑)
ガールズケイリン選手以外の道でお金を稼ぐ方法もありますが、ガールズケイリン選手を選んで絶対に良かったと思っています。
私は競輪選手でありつつ、自転車トラック競技の日本代表としてオリンピックを目指しています。しかも、現在は2シーズン目としての挑戦。オリンピックは誰もが目指せるものではないし、恵まれた環境にいる自覚もあります。
様々な国で色々な人と交流ができるという点も素晴らしいですが、やはり特別なのは『沢山の人に応援してもらえる』という点。直接お会いしたことがない人からも、まるで家族や友達のように応援してもらっています。
とても意義のあることですし、そうした点も踏まえて、スポーツ選手、ガールズケイリン選手になって良かったなと思いますね。仮に他の仕事を選んでいたら、私はこうした価値を見い出せなかったと思います」
そう語る彼女の言葉には更に熱がこもる。
「この世界は『100%、絶対に1位になれる』ということはありません。でも、毎日確実に過去の自分よりは強くなれていると感じます。そうしたことを常に追い求める自分をサポートしてくれる沢山の仲間がいること、1人で走っていても1人じゃないこと、そうしたことを感じられる時が一番幸せです」
ガールズケイリン選手の平均年間獲得賞金は842万円(2022年実績)。これは世間一般の年収からしても高収入の部類に入る。トップ選手は2〜3,000万円の賞金を稼ぎ出し、結果を出すことが収入へ即反映される点も魅力だろう。
しかし、太田りゆの考える魅力はそれだけでは無いようだ。
「ガールズケイリン選手は比較的収入が高いですが、でもそれは強いことが条件。全員が全員稼げている訳ではない、そんなに甘い世界ではない、ということも伝えておきたいです。
でも言い方を変えれば、自分が頑張って結果を出した分だけ稼ぐことが出来るということでもあります。
そして繰り返しになりますが、応援してもらえるということは、とても幸せなことです。多くの人、会ったこともない人から応援してもらえる職業は、そんなに多くないと思います。
また『勉強は苦手だけど運動が得意な子』に対してもアピールできる点があります。私も獣医さんに憧れていましたが、偏差値が足りませんでした。でもスポーツ選手を目指せる能力はありました。
私は選手を続けていくうちに、お金も増え、関わる人も増え、応援してくれる人も増え、結果的に社会について多くを学べている実感があります。ガールズケイリン選手になった後も学べることが増えていきます。そうした点も良いかもしれませんね。
例えば、私は高校を卒業する時の英語の成績が最低評価の1でしたが、今では外国を自由に歩くには困らない程度のコミュニケーション能力を身に付けられています。それは競技者として英語を学べる環境にいるから。そういった点も魅力のひとつかなと思います」
多くの見ず知らずの人に、心から応援をしてもらえる職業はあまり多くはない。またガールズケイリンのレースは全国各地で行われ、加えて太田りゆのように競技者として世界で活躍をすれば、世界中を飛び回る事にもなる。「自分の世界が広がる」という点は非常に大きな魅力でもあろう。