最後と決めたから
「オリンピックでメダルを獲る」という夢のため、バレーボールから自転車に転向してきた小林優香。その小林を「世界一、耐久力、持久力を持っている選手であると私は思います。期待と希望がたくさんある選手」と、昨年末の全日本選手権の際、ブノワヘッドコーチは語った。
ブノワヘッドコーチが就任する前、リオオリンピックでは短距離女子選手の出場枠を得ることが出来なかった。
しかし直近で日本ナショナルチームが最後に出場した世界大会、今年5月に香港で行われたネーションズカップのケイリンで小林は、オリンピックメダリストであり、元世界チャンピオンのリー・ワイジー(李慧詩:香港)を敗って優勝した。
「かなり長い道のりでした」
こうもブノワは話した。
昨年3月1日、コロナが世界中に蔓延し始める直前のこと。日本ナショナルチームは、ドイツ・ベルリンで行われた東京オリンピック前最後の世界選手権に出場していた。
女子ケイリンの結果を……というよりは、消極的な挑み方をしてしまった小林優香と太田りゆに対して、ブノワは怒りをあらわにした。
「今日(女子ケイリンの日)は戦う精神を持った(日本人)選手がひとりもいなかった。男性陣はケイリンでもスプリントでも見本となるような戦う気持ちを見せてくれたのに、残念ながら見本にすることはできなかった。この結果、この挑み方ならば、そもそもオリンピックに行く必要はない」
そんな厳しい言葉も出た。
「ただし、まだここはドイツです。日本(東京オリンピック)で同じ結果を出すようであれば、言葉にさえできないでしょう。2人には戦う気持ち、戦う能力を見せてもらわないといけない。現実と真っ正面から立ち向かわないとダメです。今の環境は居心地が良すぎる」
こうブノワは話した。
その後、延期が発表され、小林にとっても最も厳しい1年となったが、「東京オリンピックが競技人生の最後」と腹を括った。
5月のネーションズカップではもう、世界選で見せた消極的な姿勢はすっかり消え失せていた。さらには、時に剥き出しにしすぎて溢れ出ていた闘争心を冷静にコントロールできるようにもなった。
気持ちの変化について小林はこう語る。
「本当に大きく変わったと思います。大会に向けて練習過程の心境も大きく変わったと思いますし、何より前向きに、そして全力で突っ走ってこれました。それが結果(ネーションズカップの勝利)として表れたのかなと感じます」
この5年間を振り返り、穏やかに笑う。
「去年までは悔しい部分の方が多かったと思いますし、自分の中でモヤモヤする部分が多かった。今年に入ってからは『最後』と決めたからというのももちろんあると思うんですけど、全てに全力を尽くしてやっています。今はすごく東京オリンピック本番が楽しみですね」
欲し続けた母国開催オリンピック、ケイリンでの金メダル。小林は最後のチャンスを狙う。