日常会話で使わない言葉が多い
Q:自転車を知らないのはハードルが高いですね。苦労したことは?
自転車競技の言葉や、自転車のパーツや用語には苦労しました。またブノワコーチがフランス語で使う”自転車語”は、一般の方々が使用しない言葉なので、その理解にも苦しみました。
例えば、思うように速度が出ていない選手に対して、ブノワコーチは「あの人に糊が付いている」と表現します。一般的に使われない表現ですが、フランスの自転車業界では普通だそうです。このような表現がたくさんあります。
選手たちの日本語でも、普通の会話には出ないような単語が飛び交います。例えば「車間」とか「もがく」とか・・・不思議な言葉がたくさんあります。日本人でも「?」となる言葉ではないでしょうか。
ですから最初にチームに入った時は、当時チームにいた前田佳代乃さん(全日本スプリント10連覇の偉業を達成)に、様々な言葉の意味や使い方を教えてもらいました。そして選手たちの会話を通して勉強しつつ、なるべく選手たちにとって違和感のない言葉を使うよう努力していました。
でも、今では普通になってしまいましたね。スノボーをしていて「転んだ」ではなく「落車した!」とつい口に出たことがあります(笑)
相手や内容によって変える
Q:2018年からHPCJCが本格的に立ち上がり、スタッフがたくさん入ってきました。そのスタッフ同士の通訳も必要になったかと思いますが・・・そうなるとブノワコーチと選手だけでなく、全体的な通訳という立場なのでしょうか?かなり大変なのでは?
必要であれば選手とコーチの間だけでなく、スタッフ間の通訳も行っています。大変さは人によりますね(笑)
ブノワコーチとは長い年月を共に過ごしてきたので、彼が何を言いたいのか、どのような意図で言葉を使うのか、ほとんど分かります。ジェイソンコーチはオーストラリア訛りの英語で、最初は少し戸惑いましたが、今は問題なく理解できます。
ファブリース(・ヴェットレッティ氏、ストレングス&コンディショニングコーチ)や井上純爾さん(理学療法士)は、身体の部位など、かなり詳細に説明しますので、間違えないようダブルチェックが必要となります。
ですから、ブノワコーチならたいていの場合同時通訳が可能ですが、メディカル系スタッフの言葉は一度きちんと理解して、間違いがないか確認の上で通訳を行います。
「伝える相手が誰か、その人の職種は何か」によって伝え方を変えていますね。ただ、国連や首脳会談などの通訳者から見れば、まだまだだと思います。
Q:我々からするとブノワコーチとチームとのやり取りを同時通訳するのは、物凄いスキルに思えますが・・・・
過去には京都府知事とフランスの首相との会談の通訳などを経験しました。専門的ではないにせよ、積み重ねてスキルを磨いてきました。
ブノワコーチと選手たちの会話は、政治や経済のような難解な専門用語を伴うものでありません。だから同時通訳が出来ているだけです。もちろん大変ではありますが、国際会議などで同時通訳をする人たちから比べたら、全くレベルが違いますよ。