「全てはオリンピックでのパフォーマンス次第」

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ノーマークだからこそ可能性あり 女子マディソン

Women's Madison / TISSOT UCI TRACK CYCLING WORLD CUP IV, Cambridge, New Zealand

梶原悠未/中村妃智

Q:ここからはオリンピックの出場種目についてお聞きします。まず女子のマディソンですが、1年延期によって良い影響が出ると思いますか?

チャンスがあると思っています。この新型コロナの状況下と大会が1年延びたことで、中村妃智と梶原悠未は一緒に走る“時間”を得ることになりました。

マディソンは技術と戦術が重要視される種目です。そして注目したいのは、マディソンに出場する半分のチームがチームパシュートに出場するということです。何故これを話に挙げるかと言いますと、チームパシュートに出場するチームにとってマディソンの優先順位が低くなるからです。

チームがチームパシュート、オムニアム、マディソンに出場するとしましょう。するとそのチームにとって最も優先高いのはチームパシュート、次にオムニアム、そして最も優先度が低くなるのがマディソンです。ですから出場する半分のチームはマディソンの強化にそこまで力を入れてこないと思っています。

そして残りの半分の中で強敵となるのは2~3チーム、ポーランド、デンマーク、ベルギーです。そしてチーム内の優先順位が低いとしても実力のあるチームが更に2~3チームありますが、我々が倒すべきはその5~6チームだけということになります。

1年間の延期をもってしても、マディソンで金メダルを獲るチームとなることは難しいと思っています。しかしながら日本はノーマークです。適切なタイミングで適切な動きが出来るフィジカル、メンタル、技術を高めておき、そのタイミングが来た時に仕掛ける。それが出来れば我々が表彰台に乗るチャンスはあると思っています。

種目にもよりますが、これが自転車競技の面白いところです。本当に強い選手がいつも勝てるわけではなく、戦術、メンタル、展開など外的要因によって勝敗が左右されます。陸上の100m走のように純粋に速い者が勝てるわけではなく、戦術などで勝敗が大きく変わるのが自転車競技です。ですからチャンスはありますね。

更なる自信、そして最後は運 男子オムニアム

Elimination / Men's Omnium / TISSOT UCI TRACK CYCLING WORLD CUP IV, Cambridge, New Zealand, 橋本英也 クレイグ・グリフィン

橋本英也

Q:男子オムニアムはいかがでしょうか?

こちらも延期が良い方向に影響すると思います。この時間は橋本英也にとって弱みを克服するチャンスになる思っています。

おそらく橋本は現状でもトップ6人には入れると思います。表彰台も遠くありません。しかし、最後には運も必要になってきます。彼自身がレースで失敗しないことが必要ですが、それは相手にとっても同じことです。オムニアムは4種目で競いますが、1つでも失敗すればその時点で終わりです。

我々の戦術が上手くいき、コンディションも整っていれば彼が6位以内に入ることに自信はあります。そしてそこからは先は・・・運だと思います。

Q:レースで失敗しないことが必要とのことですが、橋本選手の課題は安定性でしょうか?

安定性はフィジカルとメンタル両方から来る物です。橋本はまだ自分に絶対的な自信がないことから、安定性が無いのだと思っています。

自信がある選手は前方で自分のレースを展開しつつ、周りの様子も感じることが出来ます。一方自信がない選手は後ろで展開を追う形になります。ですから常に前方でレースを展開し続けることが大事なのです。

そして前方に位置し続けることには、フィジカルを鍛え上げ「自分はこの位置で走れる」という自信を持つことも必要になります。安定性をもたらすには、まだ自信もフィジカルも足りないということですね。ですので、この1年の延期は橋本と私にとって上手く影響すると思っています。

可能性を極限まで上げることが仕事 女子オムニアム

女子オムニアム/2020全日本選手権トラック

梶原悠未

Q:では梶原選手はどうでしょうか?世界チャンピオンとして舞台に立つことになりますが?

彼女は周りからのプレッシャーよりも、遥かに高いプレッシャーを自分自身にかけていると思います。プレッシャーをコントロールすることには長けていますから、彼女については心配していません。むしろ今の状態でオリンピックに臨めることは彼女にとって有利に働くと思っています。

例としてキルステン・ウィルト(オランダ)を挙げますが、彼女がレースにいる時はレースが彼女によって支配されてしまう傾向があります。それは彼女自身の実力、存在感ももちろんありますが、それ故に他の選手が彼女に挑戦するというよりは、付いていく形になるからです。そうなるとウィルトは自分のレースを作り易くなります。

梶原にとってもこれと同じことが起こると思います。周りが梶原をリスペクトするあまり、梶原が速すぎるがあまり、彼女の後ろに付くしかなくなるわけです。

男子のアタック合戦とは異なり、女子のレースは誰か1人がアタックすれば皆で追うようなレースです。このような展開は梶原の勝つ確率を上げると思います。全部が上手くいけば梶原は金メダルを獲ると思います。そして全部が上手くいかなくても、梶原はメダルを獲得すると思います。

ですが、全てが上手くいくようにするのは私の仕事なので、頑張らないとですね。

時間が足りなかったチームパシュート

Women's Team Pursuit / TISSOT UCI TRACK CYCLING WORLD CUP III, Hong Kong, 梶原悠未 吉川美穂 古山稀絵 上野みなみ

Q:残念ながらチームパシュートではオリンピック出場枠獲得できませんでした。いつ頃から厳しいと感じていましたか?

この仕事に就く前に日本チームの成績は調べていましたし、結果の分析もしていました。そしてHPCJC統括のミゲルには仕事に就く前から「チームパシュートでオリンピックに出場する可能性はとても低い」と伝えていました。そして同時に、やってみなければわからないのだから「だからといって諦めてはいけない」とも伝えました。そう言った理由は、彼ら/彼女らのトレーニングがどのようにして行われていたのかを知らなかったからです。ですから数ヶ月間様子を見てから進むべき方向を決めようという話をしました。

ただ、本当に時間はなく、アジア選手権を挟んでトレーニングが可能だったのは6週間ほど。W杯第5戦のブリスベン大会が終わる頃には女子はオリンピック出場にポイントが届かないことは明白で、男子も難しい状況。そして2020年が始まる頃には時間切れでした。

もし自分が1年早くコーチに就任出来ていたら、オリンピックに確実に出場出来たとは言いませんが、出場するチャンスは大きくなっていたと思います。というのも、男子は世界選手権で日本記録を大幅に更新することが出来ました(男子チームは2020トラック世界選手権でそれまでの記録を4秒も更新した)。それこそがこのチームの持つ潜在能力だからです。

Qualifying / Men's Team Pursuit / TISSOT UCI TRACK CYCLING WORLD CUP IV, Cambridge, New Zealand, 近谷涼 今村駿介 窪木一茂 沢田桂太郎

「何をすべきか、強みは?弱みは?」・・・各要素を理解して進歩させることが大事なのですが、残念ながら私が就任してからオリンピック出場枠を得るための時間は、短すぎました。ただ、才能や資質は既にあると言って良いと思っています。ですから1年後、2年後には、男女共にもっと高いレベルで戦えることが出来ると思っています。

Q:これから男女共にどのようなトレーニングが必要になるのでしょうか?

ロードですね。ただ、女子の方がトレーニング環境は厳しいと思っています。それはレベルアップに足る女子のロードレースが、日本には少ないことが挙げられます。

チームの男子選手にとって男子のロードレースのレベルはトレーニングにも適する強度ですが、女子のレースは30kmのクリテリウムではなく、100kmのレースが必要です。そしてそのレースの質の高さも必要なのです。

世界のトラック中長距離で活躍している女子選手たちのほとんどは素晴らしいロードの選手でもあります。彼女たちはロードのプロチームに所属し、レースに明け暮れています。ですが、日本トラックナショナルチームの女子選手はロードのプロチームのどこにも見かけません。日々積み重ねの挑戦があるからこそ能力が伸びるわけです。ここに居れば良いトレーニングは可能ですが、それでも限界があります。ですから、日本の女子ロードレースの大会で満足なレースが出来ず、結果的にトレーニングにも影響してくるような環境が女子にはあります。

女子については考え方から変えていき、男子のレースに参加させるような試みを私が行っていかなければならないと思っています。

先日選手たちから25kmのクリテリウムレースに出たいと申し出がありましたが、ダメだと伝えました。移動に1日、レースに1日、また移動に1日、合計で3日のトレーニング可能な日を“無駄”にすることになります。この辺りが女子については課題です。

クレイグ・グリフィン Craig Griffin

世界を知るクレイグヘッドコーチだからこその視点、そして様々な課題が浮き彫りとなったインタビューとなった。まだまだHPCJCも選手たちもやるべきことは山積みだが、一歩一歩前進している。東京オリンピックでのモニタリングの結果はどうなるのか?

大会終了後に明るい返答が聞けることに期待したい。

今後も様々な角度から、HPCJCで働くスタッフたちの仕事を取材。日本が誇るハイパフォーマンスセンター、その凄さを紹介していきます。

HPCJCって何?全体統括のミゲル・トーレス氏インタビュー前編