自転車トラック競技日本ナショナルチームを支え、かつ次世代選手の育成にも力を入れるために日本自転車競技連盟が立ち上げたHPCJC(High Performance Center of Japan Cycling、以下「HPCJC」)にはコーチ、メカニック、メディカル、トレーナー、科学分析班といった様々なスタッフが揃っている。選手を多角的な視点から分析し、支え、さらなる高みへと引き上げるためのプロフェッショナル集団だ。

中長距離種目ヘッドコーチとして2019年夏に就任したクレイグ・グリフィンコーチ。前編ではクレイグコーチの30年にも及ぶコーチ歴、バッググラウンドを中心に話を伺った。後編ではオリンピック、そしてその先の展望についてお届けする。

【前編】クレイグ・グリフィン 「コーチ歴30年」ベテランは日本チームをどう見る?/中長距離ヘッドコーチ インタビュー前編

まだまだ基礎作りの段階

Q:「環境とチームの文化が整って初めてパフォーマンス向上に注力することが出来る」というお話を伺いました。日本でその環境を作っているのがHPCJCというわけですね。HPCJCは世界でも有数のトップの組織だと言えるのでしょうか?

トップに近づいてきていると言えますが、まだまだ発展すべきところはありますし、毎日が挑戦のような組織です。ですから我々はまだ礎を築く段階なのです。

HPCJCが立ち上がったらすぐ「これで世界と戦える」という、そんな単純なことではありません。家作りのように、基礎工事から始まり、基礎がしっかりすればするほど、質の高い安全な家が作れます。

私たちにとってもそれは同じで、今は基礎作りに注力しています。様々な誘惑や面白そうな機材などがありますが、自分たちが自信を持って行えることを第一に行っていきたいと思っています。基礎がしっかりしてから次のステップに進みたいからです。

Q:これからどれくらい先にその“基礎”が出来上がるのでしょうか?

難しいですね。全てはモニタリングによって判断すべきです。そしてモニタリングには時間を要します。もし基礎作りに時間の制限があれば、十分なモニタリングによる正確な判断は出来ないでしょうし、モニタリングとしての最適判断材料はオリンピック大会です。

そしてそこでは結果だけでなく、どのようなパフォーマンスをしたかが大事になります。もちろん結果が付いてくれば最高ですが、目標とするレベルのパフォーマンスが発揮出来たかどうか、それこそが基礎が作れたのかどうか、我々がやってきたことが正しかったのかどうかを測る材料になるでしょう。

日本チームの世界での立ち位置

クレイグ・グリフィン中長距離ヘッドコーチ, JCF中距離タレント発掘合宿

Q:クレイグコーチはかなりの裁量を任されていると感じますが、今のような環境は今までにありましたか?

面白い質問ですね。イギリスのような強豪国だと今の私の仕事のようにはならないでしょう。一方で、カナダでは今のような境遇でした。全てを一から作り上げていくイメージです。だから今のチームの境遇にいれることは幸運だと思っています。

なぜなら自分は出来上がった自転車の小さなパーツの一つとなり選手を支えるようなタイプではないですし、0から1を作り上げていく方が自分の能力を発揮できるタイプです。ですからHPCJCには感謝していますし、今の環境がイメージ出来たからこそ、この仕事をやりたくて申し込んだわけです。

Q:アメリカにもこのような組織はありましたか?

アメリカチームは、コロラドスプリングスのUSオリンピックセンターを活動の拠点としています。選手たちは寮に住み、食事する場所もあればジムもあり、333mですがベロドロームもあります。栄養士も居れば、スポーツ科学班もいます。

ただ、今の日本と決定的に異なる点は、アメリカは他のスポーツ選手たちと全てをシェアしていることです。つまり、今の日本チームのように自転車トラック競技の専属スタッフは居ないのです。

一方でカナダは今の日本チームと似たようなシステムを採用しています。私は2019年にカナダのチームを離れましたが、カナダは現時点で、我々が居る場所より1年分くらい先を行っています。

日本はカナダよりは遅れていると言えますが、スタッフや施設、毎日のトレーニング環境を考えると、カナダよりもより良いハイパフォーマンスセンターの構築が可能だと思っています。アメリカは環境こそ良いですが、やはり他のスポーツとのシェアがネックになっていると思います。

最新、最高の機材やウェアを活用できることも強み

Qualifying / Men's Team Pursuit / 2020 Track Cycling World Championships, クレイグ・グリフィン Craig Griffin

Q:世界的に見ても自転車競技専用のハイパフォーマンスセンターがあるというのは珍しいのでしょうか?

たくさん在りはするのですが、上手く運営出来ているところは少ないと思います。ですから先ほども言ったように、チームとして纏まっていること、やるべきことが明確になっていることが大事なのです。

加えて、我々はブリヂストンやデサントなど、世界的にも有名な企業からのサポートを得ており、その利を活かすことが出来ています。どんな質問にだろうと答えることが出来ますし、常に世界最新、最高峰の機材も手に入れることが出来ています。

Q:ブリヂストンの話が出たので聞きたいのですが、挙げるとするならどういった点で良いバイクなのでしょうか?

我々の自転車の強みはパッケージというところだと思います。フレームの会社は最高のフレームを作り、タイヤの会社は最高のタイヤを作る。ハンドルは別会社。様々な国のチームでそのようなバイクをみます。

ですが我々の自転車はブリヂストンがパッケージとして開発しているので、全てが調和され1つのバイクとして支給されています。もちろんフレームやタイヤだけをとっても素晴らしい製品なのは間違いありませんが、それらがステムやハンドルなど全てと調和することによって相乗効果でより素晴らしい製品となっています。それが良い点ではないでしょうか。

もちろんその自転車に合うスキンスーツ(競技者がレース時に着用するウェア)やヘルメットも、言葉に出来ない強みの一部を成しています。

オリンピック展望

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