橋本英也~重圧からの解放~

Elimination / Men's Omnium / TISSOT UCI TRACK CYCLING WORLD CUP IV, Cambridge, New Zealand, 橋本英也

梶原が涙したW杯第4戦では橋本英也の涙もあった。

この当時、東京オリンピックの男子オムニアム代表候補は3人が熾烈な争いを繰り広げていた。リオデジャネイロ五輪代表であった窪木一茂、今村駿介、そして橋本英也の3人。

3人へ平等に与えられたチャンス

「それぞれの選手に、W杯2〜4戦で1度ずつチャンスを与える。そこで自分たちの実力を証明すること」

ワールドカップシーズンの開幕前、クレイグ・グリフィン中長距離ヘッドコーチは3人へこう伝えていた。

それぞれが出した結果を基にオーストラリアでのW杯第5戦、そして『2020世界選手権トラック』への出場選手を決めるというもの。さらに言えば、その選手はすなわち東京オリンピック代表になるだろう、とも。

Men's Omnium / Point Race / TISSOT UCI TRACK CYCLING WORLD CUP V, Brisbane, Australia, クレイグ・グリフィン

クレイグ・グリフィン中長距離ヘッドコーチ

トップバッターは今村。グラスゴーでの第2戦へ出場し16位、続く窪木は香港での第3戦で11位の結果を納めた。橋本はニュージーランドでの第4戦へ出場。ここで4位という結果を残し、クレイグコーチが出した条件を踏まえると、事実上のオリンピック代表候補を決定づけた。

今度こそ、掴み取った

Point Race / Men's Omnium / TISSOT UCI TRACK CYCLING WORLD CUP IV, Cambridge, New Zealand

「プレッシャーは感じていましたが、この時期に4位になることが出来て、確実に『オリンピックは自分が走るんだぞ』ということを見せることが出来たレースだったと思います」

レース直後のインタビューで、橋本はそう語った。

普段の橋本はプレッシャーを微塵も感じさせない。しかしプレッシャーが無いはずはない。このレースが自分の未来を確実に決めてしまう。そのプレッシャーと戦っていた。

TISSOT UCI TRACK CYCLING WORLD CUP IV, Cambridge, New Zealand, 橋本英也

「コーチが発表していたように、ワールドカップの第2~4戦で良い結果を得た選手が、この後の第5戦、そして世界選手権に出るということでした。そのプレッシャーの中で、4位とはいえ結果を出せたのは良かったです」

インタビューでオリンピックへ話が及ぶ度、徐々に言葉が詰まりだす。飄々とした受け答えが常の橋本英也だが、目には涙が滲んだ。

4年間。

一度は掴んだと思ったはずの夢は指先からこぼれ落ち、もがき続けた4年間。その結果がついに実ったレースだった。

Point Race / Men's Omnium / TISSOT UCI TRACK CYCLING WORLD CUP IV, Cambridge, New Zealand, 橋本英也

すると泣き顔を見られたくなかったのか、橋本はさっと自転車に乗り走り去ってしまった。

その後、自身のツイッターでの投稿が橋本の感情の全てを語っていた。

安堵という一言では語り尽くせない感情だろう。この日のレースが全て終わり、ベロドローム内に数える程の人数しかいなくなってもなお、橋本はチームのピットで一人余韻へと浸っていた。

”きっと、二度と橋本英也の涙は見ることは無い”何故かそう思う瞬間であった。

異なる2つの涙

同じ場所、同じ時に流れた2つの涙。

梶原悠未は達成感からの涙。橋本英也は安堵の涙。この2つの涙には、それぞれがこの地点へたどり着くまでの物語が凝縮された涙だった。

2人とも東京オリンピックではメダル候補として注目を集める。そこでの結果がどの様なものであろうと、そこへ至るまでのストーリーはドラマチックな成長過程の連続。それを間近で見続けられている事へ改めて感謝しつつ、コラムの締めとしたい。