梶原悠未~やっと到達できたレベル~
梶原悠未は1週間前に香港で行われた第3戦で優勝し、ニュージーランドでの第4戦は2連覇を狙っていた。そして、その狙い通り梶原が他を圧倒する絶対的な強さを示して優勝。見事にワールドカップ2連覇を遂げた。
レースを終えた梶原はウィニングランを終えると、不意に涙をこぼし始めた。
その涙は嬉しさでも、悔しさからでもなかった。
やっとここまで来れたんだ
レースを終えた梶原へ、涙の理由をたずねた。
「2連覇とか金メダルを獲ったことではなく、今まで敵わなかった選手たちと一緒に戦い、勝てたことが嬉しいです。キツい練習をしてきて一段一段階段を登ってきて、やっとここまで来れたこと。それが嬉しいです」
「フィニッシュした瞬間『やっとここまで来れたんだ』と。自分のレベルというか、技術や走力、戦術、全ての能力を含めて、やっとオリンピックでのメダルが見えるレベルまで来れました」
これまで梶原は何度も何度も『悔しい涙』を流してきた。あと一歩届かなかった山の頂き、指先は触れたけど掴めなかった勝利の数々・・・
しかしこの時は、ひたすらに苦しみ続け、それでも不安を抱えながら険しい山を手探りで一歩一歩登り続けていたら、目指し続けていた山頂を自分の目でやっと見ることが出来た喜び、感慨深さから溢れた涙であった。
「今日のレースは100点をあげたいです。でもきっとまだまだ強くなれると思うので、まずは次の世界選手権で金メダルを狙えるように、そしてオリンピックで金メダルを獲得できるようにもっともっと強くなりたいです」
世界女王となった日
そう語った梶原、およそ2か月後の『世界選手権トラック2020』で公言した通りに優勝。日本人史上初のオムニアム世界チャンピオンとなった。
しかし、この時は涙を流さなかった。
「今までで一番嬉しかったレースは今シーズンのW杯第4戦。ジェニファー・バレンテ選手と一騎打ちをして、勝てたレースです。今大会(世界選手権)での自信になりました。あの時の自信が今大会でも本当に活きて、背中を押してくれました」
もちろん世界チャンピオンになった嬉しさはあったはず。しかし梶原が目標としていた「世界と戦えるまでのレベルアップ」を確信出来のはW杯第4戦だったのだ。彼女にとって今シーズン唯一の涙、それは自分が前より強くなったという確信からくる感慨深さによるものであった。