ようやく息ができる

フォーゲルは事故に遭い、歩けなくなって初めて開けた視界があった。

「今は凄く不思議な状況です。18歳の時から考えて今がようやく精神的に開放されたんだと思います。ようやく息が出来ます。それで気づいたのですが、今まで感じていたプレッシャーは感じる必要が無かった物でした。それを、この事故で気づかされました。アスリートであり続けたら一生、分からなかったかもしれません。ハイレベルで戦うために、練習には常に万全の状態で臨み、食事も考えて、パーティーにも行けず・・・・・と、私の年代の普通の人が楽しんでいる生活は一切できません。でも今はこれまでに出来なかった色々なことを自分のためにできる。そんな状況です。変でしょ?

Kristina Vogel

今はこれからの人生がどうなっていくのかに興味が沸いています。現状は、これからの人生で自転車競技の様なやりたいことを探している段階です。事故前に自分の中にあったトラック競技のように、情熱を注げるモノを探しています。今は本当に新しい状況、新しい戦い、新しい人生となっていますよ。人生で初めて“選ぶ”時間を得ました。

どんな形かはわかりませんが、これからもトラック競技には関わっていきたいと思っています。2020年の東京オリンピックはケイリンで金メダルを獲りたかったのですが、自転車にはもう乗れないので、それはもう叶いませんけどね。

Kristina Vogel

人って計画を立てるじゃないですか?それって実現しないこともありますよね。私はこの事故から本当に沢山のことを学んだし、世界のサイクリストたちも私の事故から学んでくれればと思っています。今はトラック競技の安全性をもっと向上させなければと思っています。ドイツの自転車連盟でも何か、アスリートを育てる様なことが出来ればとも思っています。どうやったら良いアスリートに成れるかは、私は十分に分かっていますからね」

フォーゲルが唯一手に入れていないオリンピックの金メダルがケイリン。それを2020年の東京オリンピックで目指していたが、決して叶うことのない夢となってしまった。その悔しさを推し量ることは誰にも出来ない。

背中に隠したビール