WAKO’Sとして知られる株式会社和光ケミカル。これまでクルマやバイクの世界における潤滑油メーカーとして活躍してきたWAKO’Sは、2023年より日本自転車競技連盟(以下JCF)とサプライヤー契約を締結、自転車トラック競技の日本ナショナルチームのために新製品を開発してきた。その新製品のデビューは次のレースとなっている。
日本チームは世界との戦いに向けて自転車、スキンスーツの開発、チェーン契約など、世界最速となるためのあらゆる角度で限界に挑む体制を見せてきた。この記事で紹介するのは「潤滑油」。WAKO’Sの試みはモーターエンジンから人力へと舞台を広げていく。
WAKO’Sの「新しい世界へのチャレンジ」を支えた2人、綾部勇成スポーツグループマネージャーと、田端雄太 技術部プロダクトマネージャーにインタビューを行った。
クルマやバイクの潤滑油・WAKO’S
Q:WAKO’SさんがJCFサポート契約を行ったのは2023年でしたね。でもその前から製品は提供していたと聞きました。どのようないきさつがあったのでしょうか?
綾部:元々HPCJCのチーフメカニック・森昭雄さんと、仲の良い人が弊社にいたんです。ケミカル類を「ぜひ使ってください」とサポートしていました。
時が過ぎ、東京オリンピックに向けて、日本代表トラックチームに「いろんなものを突き詰めていこう」という流れが発生しました。その頃担当になったのが、自転車競技経験のある自分(※ロード選手として活躍。経歴についてはこちら)。内輪のやりとりとしてではなく、より会社として「ちゃんと」サポートできないかと動いていきました。
日本の同種のメーカーが、自転車競技にサポートしたのはおそらく初めてだと思います。クルマやバイクでは名が知れているWAKO’Sですが、今回は自転車業界で何ができるのか?というチャレンジでもあります。
Q:異分野へのチャレンジである以上、開発・研究費など見過ごせない部分もあるかと思います。WAKO’Sさんはどんな想いで開発をしているのでしょうか?
綾部:売り上げは会社として気にしてない……とはさすがに言えないですが、「一緒に世界一を目指せる」機会はなかなかありません。クルマやバイクは、F1やモトGPなど「お金を積んでなんぼ」の世界です。一方で自転車は、まだ潤滑油まで目を配らせている世界ではありません。盲点を突くではありませんが、「世界一になれる可能性もある」というところをサポートしたいと思っています。
この機会は得難いチャンスです。それが製品を作る人たちと販売する人たちにとってのモチベーションになったら嬉しいな、とも思っています。
Q:では、その「作る人」にもお話を伺いましょう。実際モチベーションにはつながっていますか?
田端:単純に面白いです。一つの競技に特化した専用設計で「性能を突き詰めていく」ことはなかなかできません。
今回ナショナルチームに提供している新製品は、まず前任者が作った土台があって、そこから「何をやれば質が上がるのかな?」と考えるところからスタートしました。
そこからさらに自分のオリジナルにしていく中で、最終的には中身を9割くらい変えちゃって……でもそういうことができるのはウチ(WAKO’S)だからこそだと思います。
世界で唯一の機材の使用 産みの苦しみは「ノイジーさ」の解決
Q:今回トラック種目特製の潤滑油を開発したと聞きました。産みの苦しみはありましたか?
田端:まずあの装置(「ドライブジグ」と呼ばれるチェーンとギヤを回す装置)がクセモノ(笑)!
世界に1つしかない装置なのですが、その装置を使って数字として正しいものを検証する作業があり、そこから処方を組む。とはいえ過去のものも十分良いモノなので、それをいかに超えていくのかという苦労がありました。
テストサンプルで作った物を実際に試してもらうのですが……まあ注文を付けられる次第でして(笑)
ブノワさん(ブノワ・ベトゥ テクニカルディレクター)から「ノイジーだ」と言われ、処方を突き詰めていく中でさらにフィードバックをいただいて、その結果良いものが作れました。最終的にできあがったのは、今年(2024)の4月末、ジャパントラックカップの前くらいでした。
綾部:2月頭ごろに行った最初のテストで、思いのほか苦しみましたよね。チーム側は「数字が良くなれば良いよ、選手のコメントは気にしなくていい」という感じで、実際数字自体は良かったんですが、ブノワさんが「ノイジーだな……」と。特にそれがシャビシャビ系の製品だったこともあり、音が出やすかったんです。