競技と競輪、両方で活躍を見せる佐藤水菜。「今度こそ」と金メダルが期待された世界選手権だったが、結果は13位。決勝進出すらできずに終わってしまった。
「守りに入ってしまったからああいう結果になってしまった」「あの大会で競技人生のテーマが見つけられた」と話す佐藤。競技の話、そして競輪の話、縦横無尽に話を伺ったロングインタビュー。
プロフィール
1998年生まれ、神奈川114期。
自転車トラック競技ナショナルチームに所属し、2021・2022の2年連続で世界選手権ケイリン銀メダルを獲得。3回目の正直で優勝を狙った2023世界選手権だが、メダルを逃してしまう。しかしその後行われたアジア競技大会やジャパントラックカップで200mFTTの日本記録を更新と、パリオリンピックに最も近い選手のひとり。
日本の競輪への出走本数は少ないが、2023年は年間出走本数17本、勝率88%を記録。10月のオールガールズクラシックを優勝し、ガールズグランプリ出場権を得た。
新テーマ「攻めの気持ち」
Q:2023年を振り返るとどんな1年でしたか?
自分の「競技人生のテーマ」が見つけられた良い1年でした。
Q:テーマとは?
「攻めの気持ち」です。世界選手権女子ケリインで優勝した、ニュージーランドのエルレス・アンドリュースの走りを見て思いました。
あの選手の走り方は、私たちの見解としては「無茶をしている走り方」です。すごく果敢だし、「いやいや無理でしょ」ってところからいってしまいます。でもそういう走りをし続けて、決勝でも自分の走り方をして勝利を掴みました。
攻めないとそういうレースにはなりませんし、私は準決勝のレースで守りに入ってしまったからああいう結果(準々決勝で降格)になってしまった。それは自分でも実感しています。改めて「攻めの気持ち」って大事だなと思いました。凄く気付かされました。
Q:それは日本の競輪でも同じでしょうか?
同じです。オールスターでは世界選手権と同じ気持ちで、守りの走りをした結果、内に包まれて3着。それこそリー ソフィー・フリードリッヒ(ドイツ:2021、2022年世界チャンピオン)の決勝戦のレースと似ていました。彼女の背中を追いかけた結果、同じことをしちゃっていましたね。
彼女(アンドリュース)もずっと攻め続けて、誰かに差されたり捲られたりしてきました。それでも世界選手権で結果を出せた。やっぱり気持ちが大事です、どんなレースでも、差されても、練習して頑張ればいい。そういう心がけの話です。
彼女と直接話せたわけではないから本当の心境はわからないけど、私は彼女のレースを見てそういうことを思いました。
Q:オリンピック直前の世界選手権でもありましたね。
実は”それ”に気づいたのはつい最近なんです。気負いたくなくて、どの大会も同じような気持ちで挑むことにしていたので、気にしていませんでした。
Q:世界選手権で、周囲のテンションの違いは感じましたか?
周りを見ないようにしていたので……正直テンションの違いはわかりません。
でもみんなが消極的なレースをしている中、彼女(アンドリュース)だけが積極的なレースでした。それが勝敗を分けたんだなと思います。とはいえ、これは結果論。これはやってみないとわからないし、終わったから言えることだと思います。
フリードリッヒ、プロップスター、アンドリュース
Q:2023年の世界選手権で「自分と同じくらいのレベル」と感じる選手はいましたか?
脚質としてはフリードリッヒ、(アレッサ カトリオナ・)プロップスター……ドイツ勢はそんな感じの選手が多いけれど、エマ(・ヒンツェ)は違うかな。あとはニュージーランドのアンドリュース。ケルシー・ミシェル(カナダ:東京2020スプリント金メダリスト)も迷ったら行っちゃうタイプですね。でもケルシーは今は低迷しているんじゃないかなと思います。
ケルシーはもともと「迷うくらいなら行こう!」ってタイプだと思うのですが、最近は消極的な印象で私が出会った頃とは少し違う走りになった気がします。
Q:確かに、ケルシーはちょっと迷走感がありますよね。東京2020オリンピックで金メダルを獲ってしまったことで、余計に。
あとはコーチとの話し合いがちゃんとできていたかどうかも大きいだろうなと思います。コミュニケーションは、私にとってはすごく大事。でも1人でやりたい人もいますね。
信頼できるコーチ
Q:世界選手権を見て感じたことについて、ジェイソン・ニブレット短距離ヘッドコーチと話しましたか?
世界選手権の失敗については「この場でできてよかったね」ということ、「それよりも今は自分の力を伸ばしていこう」という話をしました。
ジェイソンとは、悪くないコミュニケーションができていると思います。どうしたいかわかってもらえるようになったし、私もどうしたら良いかわかってきました。レースにおいてコーチの言うことを信じ切れないこともありましたが、私は今、全部信じられると思っています。
Q:そういう感覚は結構前から?それとも最近でしょうか?
以前は「大丈夫なのかな、どうなのかな」という感覚はありました。でもジェイソンが私を信じてくれているし、どうしたらいいか迷った時に的確な判断をしてくれているけれど、その上で「最後は自分で決めなさい」と任せてくれます。実際のレースには成功することも失敗することもあるけれど、それぞれの時ごとにフィードバックをくれる。そして納得できるまで会話ができます。
この「納得」までちゃんとできるようになったから、今は「なるほどね」と思えます。あの時のミスはジェイソンの戦略ミスではなく、自分が理解できていなかったんだ……と。例えばスプリントで「3周いけ!」って言われたら「……ウン、頑張る!」ってできますよ(笑)以前だったら「なんでそんなことやらされるんだろう?」って疑心暗鬼だったけど、今ならわかるし、やろうと思えます。
Q:その指示は実際にあったものでしょうか……?
ケルシー・ミシェルとの対戦の時に「ヨーイドンでいけ」と言われましたね。
結果的にラスト半周でまくられましたが、なんでまくられたかのフィードバックもありました。
私も「そこは悪かったと思う、でもこういう気持ちだったからできなかった」ということを伝えました。3周はこえーよ!って(笑)
お互いに「良い結果を出そう」としています。だからこそ良いコミュニケーションができていると思います。
Q:性格的には話し合いのできる競技の方が向いてるのかもしれませんね。良いコーチがいる、という条件はありますが。
そうですね。ガールズケイリンはやり直しが効かないので……競技でやり直しが効かないのは決勝だけ。あとは最低勝ち上がれば良いわけです。だからガールズケイリンは難しいですね。
身近なライバル、中国選手
Q:4年に1度の「アジア版オリンピック」、アジア競技大会を振り返っていかがですか?
中国人選手を2人連続で倒せたのことがすごく嬉しかったです。アジア選手権で思ったことですが、中国人と戦うのはキツい。ユイちゃん(ジャン・ユールー JIANG Yulu)なんて競技を始めたばかりの子なのにめちゃめちゃキツくて「もうこれで決勝でいいです!」って思うくらいでした。
アジア競技大会では、その子より強い子たちと戦いました。それでやり切れたのは、本当に嬉しかったですね。しかも相手も同じことですけどはありますが、調子が良い状態で入ったわけでもなかったので。
とっても嬉しくて、今までよりも更に自信が付いたレースになりました。
Q:最近はタイムが出るなど脚力も更に上がったように見えます。ケイリン、スプリント共に有利に働きますか?
私はもともとケイリンで勝ててましたが、脚がなくても頭で勝てる種目がケイリンだと思います。一方で力勝負をするのがスプリント。結局ハロン(200mFTT)が強い人が優勝します。
だから自分にチャンスがあるのがケイリンだと思います。ただ、タイムが上がって技術もついてきたので、スプリントでもコンマ1くらいの差だったら良い戦いができると思えます。以前は同じタイムだったら勝てる自信がなかったんですよね。
Q:タイムはどうして伸びてきたんでしょう?
ギアを重くしました。しっくりくるわけじゃないけれど、タイムは出ました(笑)ジェイソンに「いやこれは絶対無理です!」って言ったくらいなんですけれど「でも今後これでオリンピックに行くからね」と言われて「やるしかない!」とやった結果、アジア競技大会で自己ベストを更新しました。
でもジャパントラックカップⅠでは「さすがに無理!」と思っていつも通りのギアにしたんです。そこで「あれ?10.689出るやん。ならギア上げときゃよかったな」と思って上げたら、翌日のジャパントラックカップⅡで10.563(日本新記録)が出た(笑)
だから……「ジェイソンを信じるべきだった」です。
ジェイソンにはずっと「大丈夫だよ」と言われてたんです。終わってからも「ね?大丈夫だったでしょ」って。もう信じます、あなたは間違いないです、って感じ。