キャリア史上最悪の怪我

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この立場からオリンピックを支えたい

Q:全日本トラック2023ではチームスプリントに出場しました。来年も出てくれますか?

もうやりたくないです(笑)チームブリヂストンサイクリングへは変わらず加入していますが、2024年の在籍の意図はチームメンバーに僕の経験を伝承して、強くなってもらうということです。何か宣伝をする時に、現役の選手じゃなく僕が出て行って「今のブリヂストンのチームはこうです、頑張っているんです」とPRする。僕が代弁して、オリンピック選手達には競技に集中してもらうことも目的です。

Q:なるほど、アンバサダーのような形ですね。

はい、そういう形でやりたいという話をして契約を更新しました。今年もトークイベントなどに時々出演しましたが、なかなか好評だったようです。

Q:解説などもされてましたね。

「喋りが上手いから雑に放り込んで大丈夫」と言われました。そうなのかな……って感じですが(笑)

競技に関しては、解説はまあできると思います。でも日本の競輪はできませんね、主観が入ってしまいます。僕の主観は当てはまらないことが多々あるので……

世界選手権は「ひどい結果」だと思う

Q:8月に行われた世界選手権トラックはご覧になりましたか?

映像は都合が合わず見れていないですが、結果は把握しています。

オリンピック前の世界選手権としては、ひどい結果だと認識してます。ケイリンで銅メダルを獲った(中野)慎詞に関してはまあ……ですが、あとはもう。

「オリンピック前の自覚はあるの?」と思います。他の国がオリンピックに向けた戦いをしている中、そして季節も8月で同じような環境の中、あの結果でした。オリンピックは世界選手権の比でないくらい、もっとピリピリします。その雰囲気が出ない時点で、もう負けな気がする。

Q:東京2020オリンピックの前の世界選手権は、ちょうど新型コロナのパンデミックが始まるかどうかという時期でした。その中で脇本選手は銀メダルを獲りましたが、本当にピリピリした大会でしたね。河端朋之選手はあの結果によって落選がほぼ確定となり、涙を流したりと……

はい、ああいう雰囲気がほぼ無かったと思います。「ここで負けたら死ぬ」という感覚でしたからね。これは僕もそうだし、少なくとも当時のチームメンバーは全員同じだったと思います。

全身全霊の走りで脇本雄太が世界選手権ケイリン銀、日本3年連続/2020世界選手権トラック・ドイツ

「これがラストチャンスだった、悔しい」河端朋之、届かず/男子ケイリン・2020世界選手権トラック・ドイツ

オリンピックに賭ける想いが、正直みんな弱いと思う。危機感が無いなと思います。厳しいコメントではありますが、東京直前の世界選手権の雰囲気を知っていた人が言わなくてはならないことだと思います。

チームメイトの活躍は今でも嬉しい

Q:元ナショナルでのチームメイトの河端選手が寬仁親王牌の決勝戦に進出しました。嬉しかったですか?

嬉しかったです。「うわ乗ったよ!」って。「しかも犬伏(湧也)の番手あるやん、ワンチャンどころか優勝だろ」と思いましたね。結果としては単騎戦で、優勝を逃しましたが。

河端朋之

Q:他地区だとしても、元チームメイトの活躍はやはり嬉しいですか?

嬉しいです。バタさん(河端)と(中川)誠一郎さんの活躍が一番嬉しいかもしれません。接している時間が一番長かったから。

Q:ナショナルチーム御用達の食堂「ときわや」でもお2人の話をたくさん聞きました……

僕と河端さんは行きまくってましたからねぇ・・・・

100年以上の歴史に幕を下ろす「ときわや食堂」とナショナルチームの繋がり

 

頑張ってます、おじさんなりに

Q:古性選手に「グランプリで気になる選手は?」とお聞きしたら「脇本選手がどれだけ仕上げてくるかが気になる」との返答でした。

もうわかるやんかそんなの(笑)

今年G1タイトルを3つ勝ち取った古性優作選手

ラインで決めるのが大事だとは思っています。とはいえ僕たちも年齢を重ねてきて、いずれ限界が来る。僕自身もピークからどんどん落ちてきている感覚で、そこを頑張って落ちないように努力している感じです。貯金がなくなっているはずなので、そこまで頼りにして欲しくないところはありますね(笑)

Q:去年くらいから「あと1、2年が限度」とはお話しされてましたね。

もう限界を迎えてますよ。今年に関しては捲りの本数が増えていますし、保つ距離が短くなったと感じています。

Q:しんどいレースも増えてきましたか?

自分が自力の先頭で戦っているとして、「僕が一番おっさん」ということが多いです。若い選手を相手にしていてどんどんしんどくなる……

Q:おじさんの言葉ですね。

でもそれをうまく誤魔化すのがおじさんなんですよ。

言葉ではこういうことを言いますが、レースではそういうことは一切見せないようにする。頑張っています。おじさんなりに。

だってほら、今回のグランプリでも期別を見たら僕が上から2番目ですよ。(佐藤)慎太郎さんの次。深谷が1個下で96期、松浦がさらに1個下で98期です。そのまた下が古性。そこから清水、新山、拳矢、眞杉という感じです。

今までだったら慎太郎さん、平原さん、新田(祐大)さんがいたから4番目でした。でも今年は2番目です。年齢の壁を感じてます。「今度は俺か」という。年齢の変化の中で「前までこうだったから」を引きずっていると負けてしまいます。できることとやりたいことのズレが出てくるから、すり合わせていかなければいけません。

Q:ズレは出てきていますか?

理想はあります。でもそれに対しての目標は、ちょっと低めに設定しています。目標はやれることをすり合わせた先ですね。もちろん理想はあるけど、ズレはそこまでないですね。

Q:脇本選手はアジャストしていくのが上手いんでしょうね。

割と考えてできている方かなと思います。これもナショナルでやってきた中で学んだことですね。

試練の1年を越え、いざKEIRINグランプリ2023へ

Q:今回のグランプリは単騎も多そうです。

だとしても新山(響平)が去年のグランプリと同じようなことをするかどうかの違い、だと思いますね。彼は突っ張るだろうし……そこの違いなだけで、結局変わらないような気がします。

Q:前の方でごちゃごちゃするかもしれませんよ?

いや、しないですね。深谷も眞杉(匠)も(山口)拳矢も、とりあえず僕の前には入ってくるでしょうね、という感じ。だから結局8番手からのレースで、新山が突っ張り体制に入って僕の動き待ち……という感じでしょうか。いっそ前受けしてもいいかなと思ったりしますが。

Q:KEIRINグランプリ2023はディフェンディングチャンピオンとして挑みます。

そう思ったことはないです。僕と古性に関して言えば、グランプリといえどもやることは変わりません。常にいつも通り。深く考えていないせいか、そういう感覚にもなりません。

Q:では、これは「単なるひとつのレース」。

はい、ただ「勝ちたい」の気持ちだけです。

Q:改めて、グランプリへの気持ちを聞かせてください。

グランプリは「1年のゴール」ではあるかもしれないけど、「選手としてのゴール」とは捉えていません。目の前にある1つのレースとして走ります。

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