チームスプリントってどんな種目?

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第1走とは?

Q:2人は第1走としてチーム内で特化していると思いますが、やはり専門的にトレーニングする必要ありでしょうか?

長迫:外から見たら「案外できるんじゃない?」って思われそうなポジションかもしれないけれど、実際はしっかり”特化”しないとできない。そういうポジションですよね。

梅川:(長迫)吉拓の特化のしかたと、私の特化のしかたは違うんですよね。吉拓は1走としてすでに「出来上がってる」状態なので、そこをさらにブラッシュアップしている感じです。私はまだ成長過程だから、そこに対してのアプローチです。だからトレーニングメニューが全然違います。

私は本当にわかりやすく毎日スタート練習をしたり、ウェイト練習でも、6回やっていた事が3回になったりしていて「短い時間でドカンと力を出す」メニューになっています。長い距離は全然踏まなくなりました。

梅川風子, 沖縄合宿2023

梅川風子

長迫:僕はもともとBMXレーシングをしていたので、瞬発系のトレーニングを10年分積み重ねている背景があります。なので、トラック競技としてのベースを作る練習を行っています。シッティング(座った状態で走る)時のタイムを上げているところです。

1走に向いてる人って?

Q:1走に向いている、身体的な特徴ってあるんでしょうか?

長迫:例えば山﨑賢人選手はジムがすごく強いし、ジャンプもすごく跳びます。そういった要素から考えると、瞬発系に強いのでスタートが得意そうですが、実際に走らせてみるとそこまで速くはない。遅いわけじゃないんですけれど、1走としてはパッとしないレベルって感じです。だから瞬発系の数値や体つきで判断できるものじゃないんだと思います。

僕が思うに、「頭で思い描いた感覚を実際に表現できる人」が速いんじゃないかな。

山﨑賢人, 沖縄合宿2023

山﨑賢人選手

梅川:世界のスターターを見ても、さまざまな人がいます。細い人もいればゴリゴリの人もいる。特別なにか特徴があるわけじゃなくて……

1走って体の使い方が独特なんです。外から見ると「お尻を引いて、前に出す」だけだと思いますが、自転車に”乗っている”となかなかできないんですよ。ケンティー(山﨑賢人)は、単純にその体重移動がうまくできないんだと思います。

Q:自転車トラック競技が体に染み付いてる人の方がやりにくい、ということでしょうか?

梅川:そういうわけではないと思いますが……スピードがある程度出ている状態から”バンっ”てスピードを出すのが得意なタイプって多いのですが、ゼロからのダッシュとは全然違う動きなんです。ゼロからの特殊な動きをできるかどうかが、(自転車が)進むかどうかにつながってきます。

Q:ではメンタルとか性格の面で、1走に向いてる人はいますか?

長迫:思った以上にプレッシャーがかかるから、それに潰されない人。

梅川:それはそう。

Q:メンタルの強さ、でしょうか?

長迫:「メンタルが強い」の基準はわからないけれど、「責任感のある人」である必要はあります。

梅川:そうだと思う。絶対に逃げ出したくなるし、本当に逃げ出しちゃう人もいるので……

梅川風子, UMEKAWA Fuko, JPN, 1st Round, Women's Team Sprint, 2022 Track World Championships, Saint-Quentin-en-Yvelines, France

長迫:そうそう。「楽しめ」って言う人とかいるけど、レース前まったく楽しくないんですよ(笑)「なんでこんなことせんといけんのだろ」ってプレッシャーに潰されるんです。でも走り終わったら達成感があるし、その感覚が好きだから続けていますが……だからやっぱり、潰れない人。

梅川:逃げ道を探しちゃったり、失敗した時に「自分のせいじゃない」とか思ってしまうようではダメなんですよね。絶対に逃げられない役目をちゃんとやり切る、責任感のある人じゃないとダメだと思います。

Q:「実は逃げちゃったこと」ってありますか?

長迫:レースではないけれど、練習ではあるかもしれません。スタート練習を10本やるとして、10本を全部レベルの高い状態でやるのって無理なんですよね。「10本のうち1本良ければOK」とジェイソン(・ニブレット短距離ヘッドコーチ)には言われています。「10本の内にもオン・オフをつけて、大事なところで出せるように」ってのがあるので、そういう形の逃げはあるかもしれません。

梅川:私は絶対に逃げないです。練習だってしんどいし、逃げ出したくなるけれど、逃げないです。でも10本やるとして、最初の2、3本くらいまでは調子良くできますが、5本目くらいから(スタートの)音とかわけわかんなくなっちゃうんですよね(笑)さっきまでタイミングよく出られてたのに。

イライラを起爆剤に

Q:2人がメンタル面で自分を奮い立たせるために大事にしていることはありますか?

長迫:過去の悔しかったシーンを頭に思い浮かべて、悔しさをイライラに変えます。そうすることによってすごくパワーが出ますね。

梅川:前、吉拓に「イライラする方が速くなるよ」って言われたことがあったんですよね。ちょうどその時にイライラすることがあったんですけど、実際にすごく速かったです(笑)

長迫:ストレス発散じゃないけど、全部をそこに集約して出す、みたいなとこはありますね。「ンおお〜!!」みたいな。

Q:梅川選手は、長迫選手のアドバイスを聞く前はどんな風にしてましたか?

梅川:以前はただ「スタートに立って、思いっきり出る」しかなかったです。でもこの話を聞いてからはわざとイライラしています。嫌なこととか誰かに言われたこととか、ストレスを頭にインストールしています(笑)

長迫:「イライラ」の種類はなんでもいいと思います。例えば「誰かを見返してやりたい」とか……僕の場合は「誰か」ではなくて「自分」にイライラする方向です。「あの悔しい経験を乗り越えて『次』に行きたい」って感じのイライラです。

Q:2人とも、スタート前に野次をかけられたら速くなるのでしょうか?

長迫:たぶん(笑)でも実際にやられたら腹が立ちそうですね。

梅川:でも腹立ってる方が絶対速いよね(笑)

Q:梅川選手は競輪も走りますが、チームスプリントのスタートと競輪のスタートでは違いますか?

梅川:違いますね、競輪ではイライラしたら負けです。イライラ作戦はタイム種目だからこそ有効な作戦です。自分ひとりの戦いですからね。

梅川風子 ,ガールズグランプリトライアルレース, 競輪祭, 小倉競輪場

自己中くらいでちょうどいい!

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