「日本の競輪」にカッコ良さを感じた

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ゴールを探すのが楽しい

ブノワ:郡司選手の「競輪選手としての目標」とは何ですか?グランプリで勝つことなのか、G1タイトルをたくさん獲ることなのか。

郡司:正直、そこまで意識していません。自分でもどこがゴールなのかわかっていないというか……でもゴールが見えていない方が伸び代とか可能性とかもあるのかなと思うし、そのほうが楽しいのかもしれません。ゴールを探すのが楽しい、のかもしれないです。

ブノワ:競輪を楽しんでいる感じが伝わってきます。それが人生において重要なことですよね。なぜこんなことを言うかというと、フランスでは世界チャンピオンかオリンピックチャンピオンにならない限り、短距離選手として食べていくことはできないのです。日本で勝ちながらお金をもらえて、自分の夢を追う、探していけることは、幸運なことだと感じます。

難しい質問になると思うのですが、海外の選手が日本の競輪や競輪選手のことをどんな風に見ていると思いますか?

郡司:正直にでいいですか(笑)?短期登録などで来日する選手はレベルが高い選手なので、日本の競輪を見て「すごいなあ」と思うことはないと思います。でも違う意味で……「クレイジー」というか、違った意味の「すごさ」は感じているんじゃないでしょうか。ラインとか、考え方が競技とは真逆のものだと思いますから。

ブロックなどの泥臭い戦法を、海外の人が「面白い」と思うのか、「汚い」と思うのか……それはわからないところですが。

ブノワ:今の話でいうと、競技のルールだったらブロックをした時点で終わってしまうんですよね。ルール的にも「起きないこと」ですから、日本の競輪に出てそれを受けたら「どうして?!反則じゃないの?!」となるでしょうね。

でもだからこそ、日本の競輪は「戦い」という言葉が似合います。外から来た者として、見ていてとても面白いです。

郡司:力だけじゃない、というのが競輪の面白いところだと思います。ワッキー(脇本雄太)なんかは力は誰よりも強いですけど、でも負けることがある。力だけで決まらないのが日本の競輪の魅力のひとつだと感じますね。

ブノワ:私のキャリアの中で欠けているものをひとつ挙げるとするならば「日本の競輪で走ること」です(笑)質問じゃなくなってしまって申し訳ないんですが、外から見るととても羨ましい環境なんですよ。好きなことをやってお金も稼げて……とても羨ましいです。

郡司:もし走れるものなら走りたいものなんでしょうか?

ブノワ:ええ。招待されれば誰もが「喜んで!」と答えるでしょう。お金目当てと思われるかもしれませんが「競輪という日本独自の文化を体験したい」と強く思う選手は多いはずです。携帯電話を使えないとか、4日間カンヅメにされるとか……そういうこともスペシャルです(笑)

伝達されていくナショナルチーム式トレーニング……本当に正しい?

ブノワ:私がナショナルチームに関与するようになってから、ナショナルチームの話題を聞くことが増えたとお話ししていました。ナショナルチーム式のトレーニングやポジションなどを実際に試してみたことはありますか?

郡司:それは僕だけでなく、競輪界全体として大きな影響があったと思います。トレーニングの話ってみんなしているので、噂話的に話が伝わってくることは多いです。

脇本さんや新田(祐大)さんが結果を出していますし、強い人に追い付かないと、取り残されてしまいますから。まったく同じことはできませんが、大きく参考にはしています。……伝聞ですから、正しい情報かはわからないですけどね(笑)

ブノワ:競技だと0.1秒を速くするためにエアロスーツを着ることがあります。郡司選手はそういったものを選択肢に入れたことはありますか?

郡司:競輪はタイムだけで勝敗が決まるものではないですから、そこまで緻密なものは求めてないですね。自分はこれまで力を付けるトレーニングとか、いかに自転車を進められるかにフォーカスしてきました。ナショナルの情報が入ってくることによって、それに加えさまざまな側面の練習をしてはいますが……

もちろんタイムは良い基準になりますけど、屋外の種目ですから気温や湿度にも左右されます。タイムを縮めることに固執はしていないですね。

ブノワ:考え直した方が良いかもしれませんよ(笑)

郡司:(笑)逆に自分が疑問に思っているのが、ブノワさんがトラック競技選手ではなく「日本の競輪選手を育てる」となった時に、どういう練習をするのかですね。今のナショナル式のタイムも重要視するような練習をするのか、競輪に特化した実戦に近い練習をするのか。

ブノワ:今のナショナル式とは違うものになるでしょうね。競輪は1日に1レースですが、世界選手権は1日に10レース。これはとても大きな違いです。例えばデニス・ドミトリエフ(ロシア)が短期登録で日本に来ていたときは彼の練習を見ていたのですが、彼が普段行っているものとはまったく別のトレーニングを指導していました。

またトレーニング内容は人によって異なるものになるので、郡司選手に教えるものとワッキーに教えるものは別のものになりますね。何を持ってるか、何が得意なのか……それによって内容を決めます。

競輪にも オリンピックにも共通する「メンタル」

ブノワ:郡司選手はギア規制についてはどのように思っていますか?

郡司:僕個人としては、ギア規制がある方が嬉しいというか、好きですね。でも業界全体として見た時は、なくても良いのかなとは思います。せっかく良いトレーニングをして力をつけてきたのに、ギア規制によって出せる力が制限される感覚は、多少なりともあります。

ブノワ:もうちょっとだけ重くできると、色々変わりますか?

郡司:変わっていくだろうなと思います。

ブノワ:トレーニングで使っているギアはどんなものですか?

郡司:それこそナショナルチームのトレーニングを聞いたことで、大きいギアを使うようになりました。5倍かそれ以上を使っています。

ブノワ:坂道練習などはやりますか?

郡司:昔はよくやっていましたが、今はやりませんね。大きなギアでトレーニングすることで同じような効果を得られていると思います。基本的にバンクトレーニングを行っています。

ブノワ:これから養成所に入ってくる候補生にアドバイスを与えるなら、どんなアドバイスを与えますか?プロ競輪選手として何が一番大事なんでしょう?

郡司:難しいなあ……トレーニングはもちろん一番大事なんですけど、自分としてはメンタル的な部分を鍛えられたら良いのかなと感じます。具体的に「これをしろ」とは教えられないですが、良いパフォーマンスを出すために、そのメンタルづくりの方法を養成所の期間で探して欲しいと思いますね。

やっぱり「練習が強い選手」って山ほどいるんですよ。なんでこんなに強いのにレースで発揮できないんだろう、って選手はたくさんいます。そこはやっぱりメンタル的な部分が大きいのかなと思うので、それを探していくことをお勧めしたいです。

ブノワ:I like it(良いですね). よく私の指導について「魔法をかけた」とか言われるのですが、そんなものは何もないんです。最終的には気持ち次第というところがあるので、それはとても良い言葉だと思います。

郡司:ナショナルでもそういった考えは大きいですか?

ブノワ:その通りです。強くなるためにジムトレーニングをして自転車に乗る人は多いですが、誰でも等しく鍛えられるのはメンタルです。でも「メンタルを鍛える」という考えを持っている人は少なく、それが問題ですね。

メンタルを鍛えるためには、まずは自分がメンタルが弱いということを受け入れること。受け入れた上で「じゃあどうすればいいか」を考えていくことが大切です。

郡司:日本の競輪もオリンピックも、そこは同じなんですね。「一緒なんだ」と思えて嬉しいです。

ブノワ:日本ではメンタルの強化ということが難しいかもしれません。というのも、日本には「見せない美学」がありますから。

郡司:なるほど、僕もそういう部分はあります。外国から来られる方はオープンというかフラットというか、日本人にはない良さを感じます。

ブノワ:今は私は「誰かに弱みを見せること」についてお話ししていますけど、誰に見せるかはよくよく選んでくださいね(笑)

コーチング業をやっていて一番面白いのが、選手との関係構築なんです。信頼してもらえたら勝ちだし、そうでなければ負け。ちゃんと関係が築けていると一緒に負けを悲しみ、一緒に勝ちを喜ぶことができます。……まずい、今日はジャーナリストなのについ自分の気持ちを話しているだけに(笑)

郡司:(笑)でもこういった話を聞いてみたいと思っていたので、嬉しいです。

KEIRINグランプリに向けて

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