2022年10月に実施された『2022世界選手権トラック』。フランスのサン=カンタン=アン=イブリーヌで開催された今大会に出場した小原佑太は、1kmタイムトライアル(以下1kmTT)で59秒796を出し、2013年から9年ぶりに日本記録を更新することに成功した。

これまで多くの選手が”1分切り”に挑んでは散ってきたが、日本史上初のタイムを出した小原佑太にとっての記録の意味とは?

1kmTTで1分を切ることがどれだけ過酷であるかを詳しくお聞きすると共に、世界選手権を通して見えてきた課題などを話してもらった。

小原佑太 世界選手権成績

1kmTT:6位 ※日本新記録達成(59秒796)

チームスプリント:順位なし(非公式タイム:43秒135)

どんどん危険な状態になる1kmタイムトライアル

Q:まず本番を思い出して、走る前の表情をお願いします。

小原佑太

走る前は集中

Q:次に1周目を走り切った時の表情をお願いします!

小原佑太

まだ余裕はありそうです!

Q:2周が終わりました!

小原佑太

かなり苦しそうになってきました

Q:3周目が終わり、あと1周です!

小原佑太

もう泣きそう……?

Q:やったー走り終えました!お願いします!

小原佑太

悲壮感が漂っています

Q:ありがとうございます!

小原選手:何ですか?これ(笑)

日本記録更新には触れてもらえず……

小原佑太 / Yuta Obara, JPN, Men's 1km TT, 2022 Track World Championships, Saint-Quentin-en-Yvelines, France

Q:今回のインタビューでは「1分切りがどれだけすごいのか」を読者の方々にお伝えしたいと思っています。まずは1分切りについて、選手仲間からは何か言われましたか?

「お前やべーな」とか「ついにやりよったな」みたいな感じに言われました。でも直後がG1だったので、みんなそっちに気がいっていて、触れてはくれるけれど、そこまでの熱量はなかったというか……

※帰国の翌日が寬仁親王牌(G1)の前検日。小原選手らはタイトなスケジュールでこの開催に参加した

でも(中川)誠一郎さんは、すぐ言いにきてくれました。

Q:前記録保持者の中川選手ですね。どんな感じでしたか?(※旧日本記録は2013年に中川誠一郎がメキシコの高地で出した1分00秒017)

「おぅ、おめでとう!(若干モノマネ)」みたいな(笑)「超されちゃったよぉ〜」って。

Q:(笑)

「抜きましたー!」って答えたんですが、インタビューが入っていたみたいで、すぐそっちに行っちゃいました。じっくり話す感じではなかったです。

Q:選手たちは、やはりG1で慌ただしかったということですね。コーチ陣はどうだったんでしょう?

ジェイソン(・ニブレット短距離ヘッドコーチ)も、ブノワ(・ベトゥ テクニカルディレクター)も喜んでくれました。アンソニー(・ペーデン短距離コーチ)もですね。

アンソニーは熱男で、レース後にピットに入るところで出迎えてくれたのですけれど、めっちゃバンバン叩かれて……。正直「やめてくれー」って思いました(笑)

Q:「やめてくれー」ですか(笑)

だってこっちは走り終わった直後で、すごくしんどい状態なんですよ。

「頼み……ます…休ませて………くれ……………」って感じでした。

Q:アンソニー氏も凄かったですね。レース中、1周ごとにもの凄い声で応援されていましたが、聞こえてましたか?

よーく聞こえていました。でもなんて言ってたかはよくわかりません。たぶん「カモン!」とか言ってたのかな?

痛みも含めて楽しみ!?

Q:1分切ったことに対して、チームメイトからは何か言われましたか?

「やったなー」って感じでしたね。

Q:期間中の同室は寺崎浩平選手でしたよね?彼からは?

「うぇーい」って言われました。「もう1回遊べるドン!」も言われましたね(笑)

Q:軽っ(笑)他の選手たちって、1kmTTってやりたがりますか?

やりたがらないです。僕もやりたくないですけれど(笑)、やれって言われたらやるしかないので。

世界選手権ではこの種目に全てをぶつける気持ちでした。個人種目も結局他には出られなかったし、「なにくそ」精神でしたね。

Q:走る前は怖かったですか?

いや、痛みも含めて楽しみでしたよ(笑)

1kmTTが活きたチームスプリント

Q:長年「1分を切ろう」と多くの選手が挑んできた1kmTTです。それを記録の出やすい高地でもなく、平地で達成しました。嬉しい気持ちはもちろんあるかと思いますが?

そうですね。「やってやった」と思いました。

Q:「日本国内で誰にも負けない記録が1つある」というのは、自信になりますか?

うーん……なんとも言えないですね。1kmTTの1周目ってそれなりに速いんですけど、ケイリンで走る時ほどのスピードがあるわけじゃない。自分の走り方だと「スタートから最初の2周でどれだけリードを作れるか」なんですが、ケイリンもスプリントも、スタートがそれほど重要視されるわけじゃありませんから。

でもチームスプリントに関しては、1kmTTがすごく活きていると感じます。

長迫吉拓, NAGASAKO Yoshitaku, 太田海也, OTA Kaiya, 小原佑太, OBARA Yuta, JPN, Qualifying, Men's Team Sprint, 2022 Track World Championships, Saint-Quentin-en-Yvelines, France

Q:世界選手権のチームスプリントは順位無しとなってしまいましたが、タイム自体は光の見えるものでしたね!(※タイムは43秒135と日本記録に迫る好タイムだった)

はい。まだポジションは決定していませんが、僕はほぼ3走になるのかなと思います。チームスプリントを走るための1kmTTの練習、という側面もありました。

Q:チームスプリントの延長線上に1kmTTがあったと。とはいえ、1kmTTでもメダルを獲りたい気持ちは?

間違いなくあります。でもメダルを獲るためには2回1分切りをしなきゃいけないんですよね(笑)

※世界選手権では予選・決勝と2回走る必要がある

最後の2周はHPほぼ0

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