なぜパラアスリートの義足か/小平美帆氏

株式会社ブリヂストン イノベーション本部 イノベーションマネジメント部 イノベーション調査研究ユニット 主任部員 小平美帆氏

株式会社ブリヂストン イノベーション本部 イノベーションマネジメント部 イノベーション調査研究ユニット 主任部員 小平美帆氏

株式会社ブリヂストン イノベーション本部 イノベーションマネジメント部 イノベーション調査研究ユニット 主任部員

接地する、という共通項

イノベーション・マネジメント部では世の中の社会的な課題をブリヂストンの強みやコア技術を解決できないかと考え、技術を起点としてアイデア創出する活動を行っています。その活動を進める中で、パラアスリートの方々が多くの課題を抱えてました。

パラスポーツでは人それぞれ障害の度合いが異なるため、用具がとても重要です。様々な用具が使われている一方、ユーザーであるアスリートの方々のギャップが大きく存在します。

スポーツ用の義足では荷重を支える板バネと呼ばれる部分が、炭素繊維強化プラスチックで出来ており、板バネが地面と接する部分にはソールと呼ばれる部材が用いられ、これはゴム・樹脂・金属で出来ています。

一方、当社のグループ事業を見てみますと、様々な用途で用いられるタイヤ、農業用や建設機械で用いられるゴムクローラー、ゴルフシューズなど、地面と設置する商品が沢山あります。こういった点から親和性が非常に高いと考え、スポーツ用義足のソールに着目しました。

秦選手の要望と、タイヤに親和性を見出す

私たちは直接パラアスリートである秦選手に困りごとをヒアリングし、出てきた課題は大きく3つあります。1つ目は「なるべく軽いもの」、2つ目は「できるだけ減りにくいもの」、3つ目が「いろいろな路面で安心して走りたい」というものです。

「いろいろな路面で安心して走りたい」という点で注目すると、パラトライアスロンのランパートでは、コースが公道を走る事があります。公道はアスファルト、横断歩道の白線、石畳や舗装されていない路面など様々な路面で走る事が多くあります。それと比較しブリヂストンのタイヤを見てみますと、様々な路面で走れる様に設計するという技術があり、親和性が高いと考え、ゴムソールの開発をする事としました。

目標として「選手がより安心・安全に走れる」という事を掲げました。その為にはあらゆる路面で安心して走れるソールが大事だと考え、その為に技術的には大きく分けて2つのアプローチがあると考えました。

1つはソールの素材であるゴムの配合を改良すること、2つ目はパターンの設計です。今回は特にゴムの配合を検討するという方から着手しました。

実際に制作したサンプルを秦選手に使っていただき、そのフィードバックを検証するという活動を行っています。「今まで使っていたソールよりも安心して走ることができた」という秦選手のコメントもいただいています。また「もっと良いソールを目指して欲しい」というリクエストもいただいています。

この様にブリヂストンのタイヤゴム技術を活用して今回のソールを開発しています。

Text/Photo : Shutaro Mochizuki