日本自転車競技連盟トラック競技で使用するチェーンのオフィシャルサプライヤーである、大同工業株式会社(通称DID:以下記載はDIDとする)。
2025年2月7日、橋本英也と松田祥位がDIDを表敬訪問。工場見学の模様は別記事にてお伝えしたが、今回は、その後に行われたDID社員の皆さんとの交流会の模様で語られたDID製のチェーン「MIDAS」の凄さについて、選手たちの言葉からその品質、違いを探る。
世界トップを狙うチェーンは何が違うのか、そして選手が感じたことは?
橋本「MIDASで壁を破ることができた」
交流会は、社員の方からの質問に両選手が答える形で進行。当然、チェーンに関する質問が続出。「MIDASチェーンを使ったことでタイムは上がりましたか?」という直球の質問に対しては2人からこんな答えが。
橋本「最初にMIDASを装着したレースは、2024年に開催されたUCIネーションズカップ第2戦でした。1回戦で日本記録を2秒以上更新する、3分48秒127というタイムを出すことができた。それまで日本チームは3分50秒という壁があったのですが、その壁をいきなり破ることができ、素晴らしいチェーンだと思いました」
松田「そのレースの時、僕は折り返しとなる2kmの地点までチームを引っ張って離脱するという役割でした。離脱する直前、最高速に持って行くために全力でペダルを漕ぐ必要があったのですが、ほかのチェーンと比べて抵抗がものすごく少なく、自分の足にかかる負荷が少ないと感じました。スムーズにチームのスピードをあげられたことで、日本記録に繋がったと思います」
松田「精密さが際立っている」
MIDASチェーンは、DIDが2022年よりスタートさせた“世界最速チェーン・プロジェクト”により生み出されたもの。その性能は世界中に知られていると松田は語る。
松田「アワーレコードという、1時間でバンクをどれだけ走ることができるかという競技があるのですが、海外のトッププロが挑戦したときの機材を調べたらDIDのチェーンを使っていました。日本の企業ならではの精密さは、他と比べても際立っていると感じます」
橋本は、自転車競技におけるチェーンの重要性を語りながら、今後のさらなる改良に期待を寄せる。
橋本「ペダリングの力をロスすることなく、効率よく伝えられれば、当然タイムにもつながります。競技においては車体は軽さも重要ではありますが、チェーンがないと自転車は進まない。チェーンの役割は本当に重要だと思います。チェーンが変わることで走りが変わるということは身をもって体感できましたし、今後さらに良いものができることにも期待しています」
MIDASとは?? 知られざる特性
DIDのチェーン「MIDAS」はギリシャ神話に出てくる「何でも触れた物を金に変えてしまう能力」を持った王様の名前が由来している。オリンピックの前だったので金に因んだ名前とした。
そしてこのチェーンの売り、最も効果的な競技への影響は「フリクション(摩擦)」の低減。
大同工業製品技術部産機製品開発チームの馬場純課長に取材したところ、当然求められる「軽さや剛性」は既に最高品質。これらの要素はある程度計算することが出来るが、「摩擦」はそうもいかない。予想は立てられるものの、トラック競技なら前後のギアの大きさ、ギアに使われる素材、選手毎に異なるチェーンの長さなど、設定の仕方が選手毎や種目毎に違うため、固定の状況による計算は意味を成さないという。暗中模索のような状態の中で、作っては実際に乗って試し、そして新たに作っては試し、パリ五輪ギリギリまで研究開発を続けた。
その結果、チェーンによる動力損失を最小限にすることに成功し、イギリスの第三者テスト機関SSEH(SILVERSTONE SPORTS ENGINEERING HUB)で行われたテストでは「市場に出回るチェーンの中で、最も抵抗が少ない」という評価を獲得した。
金色に輝くMIDASチェーン
トップアスリートの感覚と直結 求められる、さらなる進化
橋本、松田のコメントには「スムーズ」「負荷が少ない」といったキーワードが並んでいたが、正にDIDの製品の強みを体感しているということの証明となった。
選手も機材も世界はどんどんと進化を遂げていく。UCI(国際自転車連合)もルールの改定や新たな取り組みを入れていき、自転車競技は毎年変化をしていく。
次のレースに向けて、そして次のオリンピックに向けて、ナショナルチーム、そしてMIDASチェーンのさらなる進化に期待したい。