2024年8月5日〜8月11日(現地時間)まで開催されている『パリ2024オリンピック』自転車トラック。
「ベロドローム」と呼ばれる屋内自転車競技場で実施される自転車トラックでは、2000年以降、オリンピック6大会連続で更新中の世界記録があることをご存知だろうか?
本記事では約20年にわたり、オリンピックで毎回更新されている、ある種目の記録についてご紹介する。
『シドニー2000オリンピック』から始まった「連続更新」
『シドニー2000オリンピック』から『東京2020オリンピック』まで、オリンピックで世界記録が更新され続けている自転車トラック種目とは、「男子チームパシュート」。
1チーム4人組で同時にスタートし4kmを走るチームパシュート。チーム4人中3人目がフィニッシュラインを通過したタイムで順位を競うチーム種目だ。
チーム種目ゆえ、個々の脚力に加えて、風よけとなる先頭選手を効率よく交代し隊列を美しく保ちながら、いかに空気抵抗を減せるかが鍵となる。
チームパシュートのルール・見どころ解説はコチラ
この種目では、2000年以降実に14回も世界記録が誕生。そのうち、『シドニー2000オリンピック』以降のオリンピック6大会では7度、世界記録が塗り替えられている。
オリンピックでの「男子チームパシュート」世界記録更新歴(2000年〜)
記録更新国 | タイム | 記録更新選手 | 計測日 | 計測場所 |
イタリア | 3:42.032 | シモーネ・コンソーニ、フィリポ・ガンナ フランチェスコ・ラモーン、ジョナサン・ミラン |
2021年8月3日 | 東京(日本) |
イギリス | 3:50.265* | エドワード・クランシー、スティーブン・バーク オウェイン・ドゥル、ブラッドリー・ウィギンス |
2016年8月12日 | リオ(ブラジル) |
イギリス | 3:51.659 | エドワード・クランシー、ピーター・ケノー スティーブン・バーク、ゲラント・トーマス |
2012年8月3日 | ロンドン(イギリス) |
イギリス | 3:53.314 | エドワード・クランシー、ポール・マニング ゲラント・トーマス、ブラッドリー・ウィギンス |
2008年8月18日 | 北京(中国) |
イギリス | 3:55.202 | エドワード・クランシー、ポール・マニング ゲラント・トーマス、ブラッドリー・ウィギンス |
2008年8月17日 | 北京(中国) |
オーストラリア | 3:56.610 | ルーク・ロバーツ、ブレット・ランカスター ブラッドリー・マギー、グレアム・ブラウン |
2004年8月22日 | アテネ(ギリシャ) |
ドイツ | 3:59.710 | ギド・フルスト、ロベルト・バルトコ ダニエル・ベッケ、イェンス・レーマン |
2000年9月19日 | シドニー(オーストラリア) |
参照:UCI MEN ELITE WOLRD RECORDS(2024年7月16日更新版)
※東京2020オリンピックではイタリアが2度世界記録を更新(1回戦・決勝)しているが、上記UCIの履歴として記載されているのは1度のみ。
テクノロジー革新が大きな要因に?
なぜ、こんなにもオリンピックの舞台で世界記録が更新され続けているのだろうか。
要因として考えられるのは、自転車トラック競技における「テクノロジーの革新」だ。
各国の自転車競技連盟は、選手の育成だけでなく機材開発のテクノロジー向上にも投資を行ってきた。
Set at London 2012, will @TeamGB‘s team pursuit world record be broken tonight?#Rio2016 #CyclingTrack pic.twitter.com/HWxzQiJkD6
— British Cycling (@BritishCycling) August 11, 2016
2008年・2012年大会では、競泳水着の「LZR Racer(レーザーレーサー)」シリーズを開発したブランドである「Speedo(スピード)」のテクノロジーを使用し、イギリスチームがスキンスーツ(レースウェア)を開発したことが話題となった。
Thanks to a generous donation from @Halfords_uk, we’re pleased to say that the #GBCT will soon have access to its own wind tunnel, located at the MIHP in East Manchester.
The facility will continue to benefit the wider cycling community.
👀https://t.co/40Ncb0w2Vl pic.twitter.com/cRFj0PigFs
— British Cycling (@BritishCycling) June 30, 2021
その後、空気抵抗の削減を目的とした風洞実験も盛んになり、ウェアやバイクの他にも特徴的な流線形のヘルメットも登場してくる。
そして『東京2020オリンピック』前後には、3Dプリンター技術やカーボン素材を得意とする企業らと共同開発した新型バイクが注目を浴び、表彰台の獲得にも貢献してきた。
こうした「テクノロジーにおける革新」のほとんどは、4年に1度のオリンピックを目標に各国で取り組まれてきた。各国が誇る選手の能力に加え、機材の性能の集大成が発揮される舞台こそがオリンピックなのだ。
そして「チームパシュート」は、現代のオリンピックにおけるタイムトライアル種目の中では最も距離の長い種目。ほんの小さなテクノロジーの向上でも、コンマ0.001秒まで計測する4km・約4分弱のレースでは、記録更新に十分に貢献できる。
さらに「男子チームパシュート*」は100年以上も前からオリンピックで実施されてきた種目。長年蓄積されてきたノウハウが、最新のトレーニング方法や、効率的な先頭交代の技術などに役立てられているのかもしれない。
※「男子チームパシュート」が初実施されたのは『ロンドン1908オリンピック』。女子は「ロンドン2012オリンピック」で3km・3人制として初実施。『東京2020オリンピック』で初めて4km・4人制で実施された。
参照:CYCLINGNEWS(2024年6月28日)