5月中旬に行われたJAPAN TRACK CUPのポイントレースで優勝、5月下旬に行われたTOJ(ツアー・オブ・ジャパン)では第4ステージで惜しくも2位という活躍をして調子を上げてきた山本哲央。しかしながらTOJの第7ステージで落車し、山本哲央は現在怪我で療養中。
しかし怪我だけでは終わらない。山本は自身を「サイボーグ化」するべく努力を行っている。
一体どういうこと?とプレート2枚とボルト12本が埋め込まれた「サイボーグTETSUO」にインタビュー。リハビリにあたっている理学療法士・井上純爾氏を交え、HPCJCのメディカル体制についても話を伺った。
「じゃあ、買っちゃおう!」
Q:ちょうど謎のマシンが使われているところですが、これは……?
井上:超音波で骨のくっつきを早くする機械です。原理としては微細振動を行わせて、細胞を刺激する。それによって早く骨が治るようにしています。1日20分程度の使用で効果があります。40%ほど治りが早くなるので、とてもアスリートに役だっています。
この機材は伊藤超短波さん(JCFのサプライヤーをしている企業)のもので、いつも必要な時は電話して貸してもらってたんです。でも他のところにもサプライヤー契約をしてらっしゃるので、その都合で借りられないこともあった。それで「じゃあ、買っちゃおう!」ってことで購入しました。
Q:どんな感触ですか?
山本:何も感じないです。電気的なものも何も感じないですね。治りが早くなるので、アスリートにとってはだいぶ嬉しいです。
Q:今回の骨折は鎖骨のみですか?
左の手首も打ちましたが、折れてるか折れてないか微妙なラインらしいです。ヒビがあるかな?くらい。手首は血流の関係で偽関節*ができやすいので丁寧にやっていきたい、と主治医が言っていました。
※偽関節……後述
Q:鎖骨を折るのは自転車選手にとって珍しいことではありませんが、日常生活に支障が出るのでしょうか?
山本:支障しかないですね!腕は上がらないし、痛いし。骨折の中でも割と痛い部類らしいですね。
アドレナリンが切れてからが地獄
Q:TOJの第4ステージで逃げて2位。調子の良さを伺わせるレースをしていたところでの第7ステージでの落車でしたね。
山本:落車しましたが、そのステージも良い流れてきてたんです。スプリントに備えていたところでした。落ちた瞬間に「走り直さなきゃ」と思ったのですが、肩が上がらない。触ってみたら折れてました。「嗚呼……」って。
でも調子悪い時に落車して沈み込むよりは、調子が良かった時なので多少気持ち的に余裕があります(笑)
Q:「触ってみたら折れてた」というのもよくわからない話ですけど(笑)
山本:折れた瞬間ってあんまり感じないんですよ。アドレナリンが出てるので痛さもあまりわからないし、触ってみて段差があるのがわかりましたね。途中までは鎖骨があるんだけど、途中からなくなっていました。「あ〜無いわ」って(笑)
井上:今村(駿介)もそんな感じでしたよ。「あれっ鎖骨いったかな?大丈夫かな?」って言いながらマディソン190周。マジでおかしい……。
※アジア競技大会にて、今村選手はマディソンの序盤で落車・骨折。そのまま走り優勝した。
Q:アドレナリンが収まったあたりからが地獄?
そうですね。救急車に乗って運ばれたあたりから痛みがきました。病院に運ばれてレントゲンを取って、一晩か二晩か置かれてから日程調整できて手術、という流れ。そして手術した後がさらに痛いですね。異常に痛くて、うずくまって一晩泣いていました。
Q:マジで泣いてたんですか?
泣いてました。「痛いよ〜」って(笑)
アスリートである、そしてHPCJCが存在する
Q:井上さん、ロードの選手は折って2週間後にレースに出たりしますよね。
井上:できなくはないですが、そのくらいのタイミングはちょうど骨がくっつこうと頑張っている時期。レースの振動がそれを邪魔してしまうんです。せっかくカサブタができたのに、いじって剥がしてしまうみたいな感じですね。
治りが悪くなりますし、骨の場合は「偽関節」と呼ばれる偽の関節のようなものができ、折れた骨の継ぎ目が柔らかくなってしまうんです。硬さが出なくて力も入れにくくなるので、最短でのレース復帰はあまりお勧めしません。将来にリスクが残りますね。
今回、手術が早かったのはとても助かります。アスリートでない場合は手術をせずに鎖骨を治すこともありますし、するとしても1ヶ月くらい待つことも多々あります。アスリートということで優先的に手術をしてもらえました。鎖骨骨折によって腕が使えないと、筋肉も肺も力も弱くなる。アスリートにとって良いことはありません。
そしてHPCJCの存在意義も大きい。チームドクターとHPCJCのメディカルスタッフが連携を取って、CT画像や治療計画を共有できる。僕は常に練習に立ち会っているので、リハビリも見ていけるし……
一般の病院なら通院して20分くらい診てもらい帰る中、HPCJCの環境ならみっちり診てあげることができます。
Q:そういうメディカル面もありますから、ロード、BMX、マウンテンなどの拠点を伊豆に持ってきたいですね。
井上:それができたら全部強くなりそうですね。
山本:ちょうど河村さん(栄養士)が来た……栄養面もサポートしてもらってます。今の時期に何を食べたらいいのか、手厚く。