5月29日、自転車トラック競技のパリオリンピック代表内定メンバーが一堂に会し、記者会見が行われた。
代表が公に発表された今、選手たちの胸に去来する思いとはどのようなものなのか?この記事では中野慎詞、太田海也、小原佑太、長迫吉拓、男子短距離種目に出場する4人のコメントをお伝えする。
中野慎詞
Q:パリオリンピック代表が決まり、今どんなお気持ちですか?
発表された時、「わー!嬉しいー!」みたいな気持ちはあまりありませんでした。オリンピックへの準備は始まっていましたし、僕のゴールは出場することではなく、メダルを獲ること。「決まって良かった」とは思いますが「めちゃくちゃ嬉しい」感じではありません。
Q:チームパシュートへの出場はいつ知りましたか?
今日(記者会見の日)に知りました。これは他の選手も同じだと思います。どういう状況であれ、与えられた役割をこなし、パフォーマンスを発揮することが重要だと思っています。頑張っていきたいです。
Q:これからどういった準備をしていく予定でしょうか?
一緒に走る上でどのようなライン取りが必要で、どのようなペースが必要なのか、そして慣れないDHハンドルということもありますし、細かく中長距離の先輩やコーチとコミュニケーションを取っていきたいと思います。ライン取りなどであればウォーミングアップやクールダウンの周回でも意識できることだと思いますし、小さなことから積み重ねていきたいです。
Q:ケイリンには同期の太田海也選手とともに出場することになります。
はい。一番得意な種目でオリンピックに出させてもらえるということで、とても大きなチャンスだと思っています。もちろん緊張すると思いますが、しっかり冷静に戦ってメダルを狙っていきたいと思います。
Q:どのような勝ち方が理想ですか?
僕はロングスプリントが得意なので、レースを支配する、思いっきり仕掛けて勝つというのが自分のスタイルだと思っていますし、そういう勝ち方をしたいです。長所を活かして勝つのが理想の勝ち方ですね。
Q:東京オリンピックに出場した先輩からのアドバイスなどはありましたか?
脇本雄太さんからは、以前脇本さんが伊豆にいらっしゃったときにレースのことで助言をいただきました。ネーションズカップ第2戦(香港)の直後だったので、レース映像を「ここがダメだったんですよね」と話しながら見て、「ここで仕掛けなきゃいけないぞ」「ここで車間を空けろ」とか、そういったアドバイスをいただきました。
新田祐大さんからは、日常生活でプレッシャーやストレスがかかる中、どのように普段通り過ごすのかが重要と教えていただきました。「日常生活のルーティンを決めることでうまくいくと思うから、参考にしてみて」とアドバイスをいただいています。
Q:世界最高峰のハイレベルな戦いの中で、メダルの色を分けるものとはどのような部分だと考えますか?
これまでやってきた中で「瞬時の判断」と「どれだけ勝ちたいと思って走るか」が大きな要素なのかなと感じています。
去年(2023)の世界選手権ではケイリン銅メダルを獲得しましたが、決勝では「行くべきところで行けなかった」という部分がありました。僕の後ろにいたケビン・キンテロ(コロンビア)選手が思いっきり行って、世界チャンピオンになった。そこでもし「ここ」と思ったところで行けていたら、メダルの色が違っていたんじゃないかと思います。
🤯 Against all odds 🤯
From the back of the bunch to the top step of the podium, Kevin Quintero 🇨🇴 stole the show with an incredible last lap surge to win the keirin at the 2023 UCI Cycling World Championships 🌈#GlasgowScotland2023 #TrackCycling pic.twitter.com/rxs22F8TXd
— UCI Track Cycling (@UCI_Track) June 5, 2024
Q:パリでどのような走りをしたいか、改めてお聞かせください。
これまでの積み重ねや練習した成果、そういうものを全力でぶつけてメダルを獲ってきたいと思います。
オリンピックは小さい時からの憧れであり、夢の舞台。小学生の頃から「オリンピックで金メダルを獲りたい」と思っていました。陸上の朝原宣治さんや吉田沙保里さん、北島康介さんといった方がメダルを獲ってコメントをしてるシーンは、今でも印象的です。
「出場する」というところは達成したので、あとは「メダルを獲る」というところを実行するだけだなと思います。
太田海也
Q:代表決定となった今の気持ちを聞かせてください。
競技を始めた時からパリオリンピックを目指して1日1日を過ごしてきました。こうして公的な発表が出て、よくここまでやってきたなと思いますし、同時にここがスタートだ、という気持ちもあります。
Q:各種目の目標を教えてください。
チームスプリントでは自分たちの持つ記録を更新した上で、表彰台を目指していきたいです。
ケイリンでは決勝に乗って、表彰台を目指します。日本の競輪選手というプライドもあるので、戦い方や勝ち上がり方にも拘りたいです。誰もが認めるような勝ち方で勝っていきたいと思います。
スプリントも同じく表彰台を目指して頑張ります。日本のスプリントの強豪としては東京オリンピック世代の深谷知広選手がいますが、深谷選手が築き上げてきたものを、コーチを通じて伝授されています。先輩の意思を繋いで、自分の力に変えて表彰台に乗りたいです。
Q:いただいたお祝いの中で、印象的だったものを聞かせてください。
親からの言葉ですが「人の期待なんか背負わず、自分が楽しいと思うこと、気持ち良いと思うことだけをやっていきなさい」というものです。心強いメッセージだったなと思います。
Q:ボート競技から転身した経歴をお持ちです。
過去の自分の経験を今につなげて、今後の日本の競輪や次のオリンピックに繋げていく、ということを考えています。今と昔を繋げる良い機会になると思いますし、結果を出してアピールしていきたいと思います。
競技を始めた頃は、今ここにはいない山﨑賢人さん、寺崎浩平さんといった先輩たち、大きな壁がありました。とても大きな壁で、でもこの先輩たちを倒せばオリンピックに行けると、今のこの場をイメージしてやってきました。
誰もが知っているオリンピックという大会ですから、もちろん不安もあります。でもいろんな人の目の前で自分のやってきたことを披露できるという面で楽しみでもあります。
Q:残り2ヶ月、どのように過ごしていきますか?
競技を始めた時からパリオリンピックを目指していて、この3年間を悔いなく過ごしてきました。ここからの2ヶ月も変わることなく、今まで通りパリオリンピックを目指し、同じような日常を過ごしていければと思います。
小原佑太
Q:オリンピックが決まった瞬間、どのような気持ちでしたか?
選ばれたことはとても嬉しかったですが、同時に「選ばれた」という責任感、プレッシャーも強く感じました。
スプリントは、自分の持ちタイムとしては予選を上がれるかどうかギリギリのところです。まずは9秒前半を目指せるように。対戦に関しては自分のやってきたことを信じ、踏むところで踏んで、少しでも良い結果を残せるようにと思います。
チームスプリントに関しては世界選手権やネーションズカップで良い成績を残せており、オリンピックでもメダルを狙える位置だと思っています。3人の持ちタイムを少しずつ縮めることができればメダルに手が届くし、計算上では十分可能です。しっかりメダルを獲れるよう頑張りたいと思っています。
Q:3年前の東京オリンピックの時はどのような立場だったのでしょうか。
当時はナショナルチームのB(育成)チームに所属していましたが、代表となるAチームの方々と直接的に接する機会は少なかったです。東京オリンピックのトラック競技は自分たちがいつも練習している場所で開催され、大会中は中に入れませんでしたが、大会後に「ここでオリンピックがあったんだ」と考えていました。次は自分がそこに立てるように、と考えながらこの3年間を過ごしてきました。
Q:ご自身の武器はどのような点ですか?
1kmタイムトライアルを専門的にやってきたこともあり、持久力やスピードを乗せることは得意な分野だと思っています。戦略次第で自分の得意な戦法に相手を誘い込むことができるので、自分の強みを活かして臨みたいと思っています。
Q:ここから本番までどのように過ごしていきますか?
ネーションズカップ第2戦(香港)の後に体重を絞るよう指示されましたが、その後に行われたジャパントラックカップを見ていただければわかるように、調子も上がっています。このパフォーマンスをもっと向上できるよう意識しながら生活していきます。
長迫吉拓
Q:これまでのオリンピックはBMXレーシングで出場でしたが、今回はトラック競技。心境にどのような違いがありますか?
リオオリンピックと東京オリンピックに出場させていただきましたが、メダルに絡むことができませんでした。その悔しさがある中、元々東京で引退しようと思っていましたが、オリンピックが1年延期されたことで「次のオリンピックまでは3年だけ」という状況になりました。
トラック競技に挑戦したいという思いもありましたし、メダルも手にしたかった。BMXはもうやり切ったかなという思いもあります。BMXは怪我のリスクが高い種目で、31歳でオリンピックに出場したとしても、メダルは厳しいだろうなとも思いました。チームスプリントの第1走であれば僕の得意なことを活かせる。そういった理由でトラック競技で再挑戦することになりました。
Q:2018年からさまざまなメンバーでチームスプリントを走っていますが、現在のメンバーはどのような強みのあるチームですか?
最初の1年はチームの構成もできていませんでした。そんな中で太田海也選手が急に出てきたことで、チームが一気に強くなった。またこれまでは先輩とチームを組んでいることが多かったのですが、今のチームはみんな後輩です。主導権と言ったら変ですが、自分が2走の太田、3走の小原にレースに挑む心構えなど、色々教え込めたなと思います。2018年から先輩たちと組ませてもらって、その中で僕自身レースに挑む心構えを学んで、それを彼らに伝えて……繋がっていると感じます。
彼らはすごく強くなって、やっとメダルに絡めるところに来れました。
Q:2人に特に伝えていることなどはありますか?
最近は特にありません。レース前には各々が自分のルーティンに入っているので、良いと思います。ただパリオリンピックは彼らにとって初めてのオリンピックなので、オリンピックがどういうものか、いかに獲ったことのないメダルを獲ることを信じられるのか、そういうところが大事になると思っています。自分を含め「メダル」という言葉をかけ続け、その存在を身近にイメージできるように心がけています。
Q:3度目のオリンピックですが、心境は回数ごとに変わるものですか?
リオの時は出場するのにいっぱいいっぱいでした。正直言ってメダルを狙える選手ではなかったのに、「メダル」という言葉を口にしなければならなかったことが歯痒かったです。
でも今回は、自信を持って「メダルを獲ります」と言えます。ここが全く違うところだなと思います。