「東京2020オリンピック」の延期がきっかけで……

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常連になった「自転車競技選手 第1号」は?

Q:選手のポスターもたくさん貼ってありますね。

千枝子さん:選手たちもよく来てくれて、インターネットに写真を載せていただいたりしました。

千賀子さん:インスタによく載せていただきましたね。こんなに近くで練習されていることを最初は知らなくて、びっくりしました。

千枝子さん:最初は「ワッキーだ!」ってお客さんが言っていて、何のことかわかりませんでしたが、脇本(雄太)選手のことだったと後から知りました(笑)

Q:競輪ファンのお客さんもたくさん来たのでしょうか?

千賀子さん:自分から競輪ファンと名乗るお客さんはいなかったですが、脇本選手や河端(朋之)選手がいらした時に皆さんご存知でした。河端選手は私の孫とこの店で遊んでくれたりもしました。孫も「河端さんは?」と聞いてくるほど好きでした。一度河端選手がメダルを持ってきてくれた時があって、孫と一緒に写真を撮ってもらったんです。そしたら孫が「競輪選手になる」と言っていましたね(笑)

河端朋之

河端朋之選手 2018年に世界選手権ケイリンで銀メダルを獲得

千賀子さん:お店の外でも一緒に遊んでもらったことがあるのですが、その時に偶然佐々木(龍也)コーチが車で通りかかって、冗談かもしれませんが河端選手の隠し子だと勘違いしてしまったみたいです(笑)

千枝子さん:河端選手はどこかへ行くと必ずお土産をくれたり、とても紳士な人でした。

Q:河端選手はどのくらいの頻度で来ていたのでしょうか?

千枝子さん:毎日来ていました。

千賀子さん:LINEを交換させていただいて、試合や遠征でどうしても来れない日があると、「今日は行けません」と連絡をもらえるんです。几帳面だなと思いました(笑)

Q:河端選手が常連になった自転車競技選手第1号ですか?

早坂秀悟(JPCU)

早坂秀悟

千賀子さん:その前に早坂秀悟選手にもよくご来店いただきました。聞いた話だと競輪学校(現在は日本競輪選手養成所)の先生に「自炊が大変な時は、この店に行ってみたら良いぞ」と聞いていたみたいです。その後も何回か来るうちに、河端選手や脇本選手、雨谷(一樹)選手や渡邉(一成)選手も何度か来てくれるようになりました。

千枝子さん:選手以外にも日本競輪選手養成所の先生もよく来てくれていましたね。

新ナショナルチームも続々来店

窪木一茂, 今村駿介

千賀子さん:東京2020オリンピックが終わって、自転車競技の選手が来るのも終わりなのかなと思っていたら、その後も窪木(一茂)選手やチームブリヂストンサイクリングの選手たちがお昼に来てくれるようになりました。今村(駿介)選手も近くの道でロードバイクに乗っている姿をよく見かけます。

この間の(2023)世界選手権トラックの後には窪木くんがメダルを持ってきてくれて、私の首にもかけてくれました。「みんなで獲ったメダルなので」と言ってくれました。

千枝子さん:最近だと橋本(英也)選手も印象的でした。選手やコーチの方だけでなく、一般のお客さんともすぐに打ち解けて、以前からの知り合いのように会話していました。誰とでも仲良くなれる本当に素敵な子だなと思いました。

千賀子さん:内野(艶和)ちゃんや2023年からナショナルチームに入った垣田(真穂)選手や池田(瑞紀)選手も本当に可愛くて良い子でした。あの子たちが来るとお店の中がパッと明るくなります。

松田祥位, 窪木一茂, 橋本英也, 兒島直樹, 今村駿介, 池田瑞紀, 内野艶和, 垣田真穂, 19th Asian Games, Hangzhou, China

左上から、今村駿介、松田祥位。窪木一茂、兒島直樹、橋本英也  左下から、池田瑞紀、垣田真穂、内野艶和

千賀子さん:最近では、垣田さんと池田さんと酒井(亜樹)さんがお店に来てくれて、その時は他のお客さんも何人かいらっしゃったんです。3人がお店を出る前に、これからアジア大会に出場しに行くことを教えてくれました。そしたら他のお客さんから拍手が湧き上がって、3人を盛大に送り出すことができたんです。そして本当に金メダルを獲っていたので、とても嬉しかったですね。

兒島直樹, 男子マディソン, Men's Madison, 19th Asian Games, Hangzhou, China

兒島直樹選手

千賀子さん:兒島(直樹)くんとかは大学生の時から来てくれていました。窪木くんや今村くんに連れられて初めて来てくれた時のことを覚えています。

兒島くんにサインをお願いしたら「ぼくまだ大学生ですから」と言っていました(笑)

大学を卒業して晴れてナショナルチームの選手になった後、やっとサインをいただきましたね。でもあの頃から成長して、自信が上積みされた顔付きに変わった印象があります。他の選手も最初に会った時からとてもたくましくなったと思います。

近谷涼, 個人パシュート, 全プロ, 第70回全日本プロ選手権自転車競技大会, 富山競輪場

近谷涼選手

千賀子さん:近谷(涼)選手も礼儀正しくハキハキしていて印象的でした。最近競輪で近谷選手のことを見てみると一回り体が大きくなったように見えました。競輪の開催後にお店に寄っていただいた際、(競輪選手養成所にいた頃より)10kg増えたと言っていました。

千枝子さん:頭が忘れられない山﨑賢人選手も来てくれましたね。

千賀子さん:最後のお客さんが山﨑賢人選手でした。

「”おまかせ”メニュー」誕生秘話

Q:ちなみに山﨑賢人選手が食べた最後のメニューは?

千枝子さん:実は自転車競技選手の方達は、いつも「おまかせ」なんです。

千賀子さん:河端選手が毎日のように来てくれていた時に、注文を考えるのが面倒になってしまって「ご飯が300g、野菜が300g、タンパク源が200gのような範囲で毎日作ってくれますか?」と提案してくれたんです。「好き嫌いがないのであれば、そのようにお作りしますよ」と言ったのが、”おまかせ”メニューの始まりでした。

千賀子さん:後日、それを知った脇本さんや雨谷さんも”おまかせ”メニューを注文し始めて、知らないうちに「おまかせ定食」というメニューができていました(笑)

千枝子さん:油で揚げるメニューなどはあまり出さないように気を付けて、毎日違う「おまかせ定食」を作っていました。みなさん栄養管理をしっかりしていたので、脇本選手からは自前のドレッシングをうちで預かっていたりもしました。

千賀子さん:新型コロナの緊急事態宣言の期間では、ナショナルチームとして店内での飲食が禁じられていたみたいでしたが、それでも脇本さんや河端さんはお店の外で待ってくれていて、パックに詰めて渡したりもしていました。

「ときわや食堂」で垣間見える選手たちの友好関係

Q:あの2人(脇本&河端)、あまり多くを話している印象はないのですが、何故か仲は良いんですよねぇ。

脇本雄太&河端朋之

脇本雄太, 河端朋之

千賀子さん:そうなんです。お店でもあまり喋らないのですが、いつも一緒にいた印象があります。河端選手は食べるのが早いのですが、脇本選手はのんびりで。でも河端選手は何も言わずに、そんな脇本さんをいつも待っていた記憶がありますね。2人とも食べ終わった後に、ちょこちょこっと話して、少し笑いあって、どちらかが纏めてお支払いをしていましたね。

千枝子さん:河端さんは渡邉さんと一緒にお正月の3日間のお休み中、毎日来ていた年もありましたね。

Q:もっと前から取材させていただくべきでした。

千賀子さん:いえいえ、とんでもないです。閉店させていただく時も、選手たちの中で「ときわや食堂が閉店するらしいよ」と伝え合ってくれたみたいです。その話を聞いた河端選手も、遠征の帰りに来てくれました。

Q:河端選手はもう何年も来ていたことになるんですね。

千賀子さん:東京2020オリンピックの前の2016年頃からなので7年間ほどになります。このお店は意外と通り過ぎてしまう位置にあると思いますし、親子2人で営んでいたのであえて看板も出していませんでした。こじんまり営業していたので、お客さんはそこまで多くはなかったです。

千枝子さん:料理を待たせてしまうのも悪いですし、選手たちには練習や試合の後はゆっくりしていって欲しいので。食後にはフルーツやアイスコーヒーなどもサービスでお出ししたりしていました。

千賀子さん:一度脇本さんが美味しいからと言って、自分で皮を剥いたフルーツを持ってきていただいたことがありました。でも剥き方がゴツゴツだったので、「食べたいフルーツを持ってきていただければ、剥いてお出ししますよ」なんて言ったエピソードもあります(笑)

千枝子さん:そしたらみんなちょこちょこ何か持ってきていただいて、食後によくお出ししていました。

千賀子さん:競輪の副賞のお肉なども持ってきていただいたこともあります。箱に入っているとても良いお肉でしたね。

Q:ちなみに自転車選手が来る前にもスポーツ選手のお客さんはいらっしゃったんですか?

千賀子さん:長嶋茂雄ロードが店前にあることもあってか、シニアの野球選手やプロ野球選手(清原選手)の方もご来店していただいたことはありました。ですがご来店いただいたスポーツ選手のほとんどは自転車競技の選手です。

長嶋茂雄ロード 大仁駅

大仁の駅前

ナショナルチーム「大仁支部」

Q:自転車選手が最初に来始めた印象はどうでしたか?

千賀子さん:最初は自転車選手ということがわかりませんでしたが、体が大きかったのでスポーツ選手なのかなと思いました。みなさん最初はあまり自分から喋らないのですが、会話すると自転車選手で自炊と栄養管理が大変というお話を聞きました。

千枝子さん:選手1人でも来ていただきましたが、若い選手は親御さんと、お子さんがいる選手はご家族で来てくれたこともありました。みなさんそっくりで驚きましたね(笑)

Q:もはやナショナルチーム「大仁支部」ですね(笑)

千枝子さん・千賀子さん:(笑)。本当にありがたいです。

Q:ちなみに実際に選手たちが走っている姿をご覧になったことはありますか?

千賀子さん:あります!伊豆ベロドロームが完成したばかりの時は、できたことしか知りませんでしたが、河端選手に『トラックパーティー』をご紹介していただいて、初めて自転車競技を観に行きました。

中野慎詞, Team Rakuten K Dreams, 太田海也, Team Rakuten K Dreams, 決勝, 男子エリート, スプリント, 2023全日本選手権トラック, 伊豆ベロドローム

千賀子さん:日本競輪選手養成所が近くにあることは知っていたので、候補生の選手を道端で見ることはありましたが、実際にレースを見ることはありませんでした。

初めて伊豆ベロドロームでレースを見た時にとても急な走路に驚きました。それから伊豆ベロドロームでレースがあると、観戦しに何度か行かせていただきました。きちんとしたカメラで選手を撮影しているファンの方がいたことも印象的でした。私なんかはスマートフォンで撮っていましたが、スピードが追いつかず、上手く撮れませんでした(笑)

千賀子さん:実際に伊豆ベロドロームで観戦する以外にも、競輪に出場する時やテレビに出演する時は、選手たちから教えてもらい毎回録画していました。いまでも録画は残っています。

選手以外にも、佐々木コーチやスタッフの方も来てくれましたね。

Q:選手以外にも自転車競技や競輪に関わる人が来店していたんですね。

千賀子さん:日本競輪選手養成所への入所を目指す学生さんなども来てくれていました。

これからは「ナショナルチーム応援団として」

Q:お店は閉店となりますが、ナショナルチームの応援団としては、まだこれからも活動してくれますか?

千賀子さん:もちろん応援します!ジャパントラックカップにも応援に行きます!

ちなみに古山稀絵さんにチーム楽天Kドリームスのシャツをいただいたのですが、日の丸が背中にデザインされていたので、最後の営業日はこれを着て頑張りました!

100年以上に渡り伊豆で歴史を刻んできた「ときわや食堂」。地域の食堂として、そして2016年からは”ナショナルチームの食堂”として訪れる人のお腹を満たしてきた。その歴史に幕を閉じたものの、培われた繋がりの一部は自転車競技、そして競輪を通じて紡がれていく。

長い間、ご馳走様でした。