グランツール総合争いレベルの選手たち
続く第3グループは、タイムトライアルスペシャリストと呼ばれる選手たちやタイムトライアルを得意とするグランツールの総合を狙うような選手たちが多く顔を揃えた。
ウランの記録をまず上回ったのは、トム・デュムラン(オランダ)だった。デュムランは、今年の1月23日に競技を離れて休養することを発表し、6月のツール・ド・スイスでレースに復帰したばかり。なお、デュムランはこの種目のリオオリンピックでの銀メダリストでもある。今年6月、復帰後のオランダ選手権では、個人タイムトライアルでナショナルジャージを獲得している。
もともとタイムトライアルスペシャリストとして活躍を見せていたデュムランは、上りを強化していくことで総合系ライダーとして開花し、2017年のジロ・デ・イタリアでは総合優勝を果たしている。
それによりさらに多くの期待を背負ったデュムランだが、その後思うように成績が出せず、2020年にはプリモシュ・ログリッチ(スロヴェニア)やワウト・ファンアールト(ベルギー)のいるユンボ・ヴィスマに移籍し、ツールなどではアシストとして働いたが影を潜めることも多かった。休養宣言はその後のことだった。
デュムランは、1周目の序盤からウランに35秒ほどの大きなタイム差をいきなり稼いだ。その後も順調にスピードに乗り、暫定トップのウランと1分13秒もの差をつけて56分5秒58のタイムでフィニッシュ。その姿は強かった頃のデュムランを彷彿とさせ、休養から一転、再び勝負の現場へと戻ってきたことをアピールした。
しかし、デュムランの現在のチームメイトであり、ユンボ・ヴィスマのエースであるログリッチは、1周目完了時ののデュムランのタイムをおよそ9秒上回る。
さらに、ログリッチは中間計測地点ごとに暫定トップタイムを塗り替えていく。
元タイムトライアル世界チャンピオンのローハン・デニス(オーストラリア)やレミ・カバニャ(フランス)、ファンアールト、最終走者のガンナなどタイムトライアル巧者たちがが軒並みウランの中間計測タイムを上回った。しかし、ログリッチのタイムには及ばず。
唯一、最初の中間計測地点でのみガンナはログリッチのタイムを上回ったが、その後のログリッチの伸びはまさに異次元だった。
異次元のログリッチ
2周目終盤でログリッチが1分半前にスタートしたカスパー・アスグリーン(デンマーク)を抜くと、再びアスグリーンはログリッチを抜き返す。
2人は近くで走りつつ、富士スピードウェイに入ったところで、ログリッチはアスグリーンに加え、3分前にスタートしたアルメイダもまとめて抜きにかかった。残り5km地点で、タイムトライアルとしては珍しい3人が横並びという様子も見られた。
アルメイダとアスグリーンを一気に抜いて、1人でフィニッシュへと飛び込んだログリッチは、デュムランからさらに1分もの大差をつけた。
その後、ログリッチのタイムに近づける選手は誰一人としていなかった。代わりに表彰台争いは激化。ログリッチから遅れること1分1秒~6秒の間に、2位~5位までの選手が詰め込まれた。
2位はデュムランのまま。3位には、元タイムトライアル世界王者のデニスが入り、4位にはシュテファン・キュング(スイス)、そしてガンナが5位。
最終走者のガンナがログリッチのタイムを過ぎると、ホットシートではログリッチが大きくガッツポーズをした。ツール・ド・フランスでは序盤の落車が響き、無念のリタイヤとなったログリッチ。タイムトライアルには出場しなかったタデイ・ポガチャルといい、やはり近年のスロベニア勢の勢いは加速する一方だ。
結局男女とも優勝者のみが1分以上の大差をつけ、出場者の中でも異次元の速さを示した。
これで東京オリンピックのロード競技、マウンテンバイク競技が全て終了した。この後、自転車競技はBMXレース、BMXフリースタイル、そしてトラック競技が続く。
男子ロードタイムトライアル リザルト
1位 | プリモシュ・ログリッチ | スロベニア | 55分4秒19 |
2位 | トム・デュムラン | オランダ | +1分1秒39 |
3位 | ローハン・デニス | オーストラリア | +1分3秒90 |
4位 | シュテファン・キュング | スイス | +1分4秒30 |
5位 | フィリポ・ガンナ | イタリア | +1分5秒74 |
6位 | ワウト・ファンアールト | ベルギー | +1分40秒53 |
7位 | カスパー・アスグリーン | デンマーク | +1分48秒02 |
8位 | リゴベルト・ウラン | コロンビア | +2分14秒50 |
9位 | レムコ・エヴェネプール | ベルギー | +2分17秒08 |
10位 | パトリック・ベビン | ニュージーランド | +2分20秒10 |
Text : 滝沢佳奈子(サイクルスポーツ)