オランダチームの誤算
単独先頭のキーセンホーファーは集団に対して未だ4分ほどのタイム差を持ったまま、残り10kmを迎えた。
途中で集団から出た追走のオマー・シャピーラ(イスラエル)とアンナ・プリチタ(ポーランド)が迫ったが、それでも3分の余裕は残す。
富士スピードウェイを1周後、小山町周辺を走る区間で、集団からさらにジュリエット・ラボウス(フランス)が抜け出す。集団前方はオランダ勢がまとまり、大きく加速し始める。
前日にリチャル・カラパスが仕掛けた場所、最後のスピードウェイの入口の上りでオレンジの集団が追走に追いつくと、満を持してファンフルテンが最後のアタック。そしてエリサ・ロンゴ・ボルギーニ(イタリア)がその後ろを単独で追った。
逃げが残っていることを知らない
オリンピックのこのレースは無線が使えない。情報をもらうには、チームカーまで下がるしかない。レース終盤にはチームカーに下がっている余裕などなく、オランダ勢が前を引く集団は見える逃げをとことん潰していった。しかし、遠く見えていない逃げが残っていることを知らないままだった。
ラスト1kmを切ってもなお、キーセンホーファーとファンフルテンのタイム差は2分程度。事実上の逃げ切りが決まった。
アーチが見える最後のホームストレートへ飛び込んだキーセンホーファーは、ラスト50mでもなお脚を緩めなかった。しかし表情には笑みがこぼれていた。
フィニッシュラインを切ったキーセンホーファーは、ゆっくりと両手を高く天に突き上げた。
ノーマークな存在
数学で博士号を持つキーセンホーファーは2017年にロットスーダルに所属して以来、UCIワールドチームはおろか、UCIコンチネンタルチームにすら所属していない。しかし2019年から3年間、ナショナル選手権での個人タイムトライアルではチャンピオンジャージを着続けており、タイムトライアルと上りを得意としている。
もちろんオリンピックは初勝利な上、ナショナル選手権以外での勝利が今までにない。昨年は世界選手権にも出場し、完走はしているものの、勝利したファンデルブレッヘンから遅れることおよそ12分、44位でフィニッシュしている。それほど、誰からしてもノーマークの存在だった。
事前の予想通り、レースを大きく動かしたのはオランダだった。リアルスタートから130km以上を逃げ続け、ワールドチームに所属していない単騎出場の選手が逃げ切り優勝をするだなんて誰が予想しただろうか。
無線を使えなかったという点はもちろんあるが、今回のレースで一番強かったのはやはりキーセンホーファーだ。ファンフルテンが単独で飛び出したときですらタイム差を縮められなかったのだから。
前日の男子でも力と力のぶつかり合いとなるエキサイティングなレースが見られたが、女子もまた信じられないような展開のレースが繰り広げられた。今回の東京オリンピックロードレースでは、素晴らしいコース設定、そして日本の高温多湿な気候が、選手たちを悩ませ、体力を奪ったが、実力を出し切るのに最高の演出となった。
なお、與那嶺はギリギリまでメイン集団で耐え忍んだが、惜しくも最後の展開で千切れてしまい、第2集団でフィニッシュしている。また、金子も完走を果たした。
女子ロードレース リザルト
1位 | アンナ・キーセンホーファー | オーストリア | 3時間52分45秒 |
2位 | アンネミク・ファンフルテン | オランダ | +1分15秒 |
3位 | エリサ・ロンゴ・ボルギーニ | イタリア | +1分29秒 |
4位 | ロッテ・コペツキー | ベルギー | +1分39秒 |
5位 | マリアンヌ・フォス | オランダ | +1分46秒 |
6位 | リサ・ブレナウアー | ドイツ | +1分46秒 |
7位 | コリン・リヴェラ | アメリカ | +1分46秒 |
8位 | マルタ・カヴァリ | ウズベキスタン | +1分46秒 |
9位 | オルガ・ザベリンスカヤ | デンマーク | +1分46秒 |
10位 | セシリー ウトルプ・ルドウィク | デンマーク | +1分46秒 |
21位 | 與那嶺恵理 | 日本 | +2分28秒 |
43位 | 金子広美 | 日本 | +8分23秒 |
Text : 滝沢佳奈子(サイクルスポーツ)
26日・27日は伊豆MTBコースにてマウンテンバイクが開催。28日(水)には再びロードレース選手らが出場する個人タイムトライアルが行われ、日本からは與那嶺恵理が出場する。テレビ放送のほか、インターネットで生配信の視聴が可能だ。
観戦チケットをお持ちの方は、「声を出しての応援を控える」「直行・直帰」などの観戦ガイドラインの事前のご確認を。
チケットホルダー向け新型コロナウイルス感染症対策ガイドライン(Ver.1 2021年6月23日)