2023年8月1日、静岡県伊豆市にある日本唯一の競輪選手養成施設「日本競輪選手養成所」にて、現役競輪選手の頂点・S級S班の松浦悠士が講義を行った。
講義のテーマは「プロとしての心構えについて」そして「競輪界のリアルについて」。しかし松浦が1人で喋った時間は最初の数分ほどで、その後はすべて候補生たちとの質疑応答に費やされた。
「自分が一方的に話すだけでは、相手にも伝わらないと思って。どんどん質問を募る形式にしました」と松浦は振り返る。
松浦はこの翌日から富山競輪場での『瑞峰立山賞争奪戦(G3)』に入り、さらにその先には『オールスター競輪(G1)』が待ち構えている、というタイミング。忙しさの合間を縫って講義を行った。
「別に将来指導者になりたい、というわけでもないですよ。選手の質が上がっていく、今後のためになるならと思って講義をしました。養成所の段階から『こうなんだよ』『こうなってほしい』を伝えることで、自分が選手になってから、何かに踏みとどまったり、社会貢献のことを考えたりできる……そういう選手が増えてくれたらな、という思いです」
現役の競輪選手による養成所の講義は過去にも実施されているものの、S級S班の選手が登壇するのはかなり貴重。
スター選手を前にして、候補生たちからはさまざまな質問が寄せられる。「トレーニング方法は?」「セッティングは?」といった実践的な内容から、「モチベーションの保ち方は?」などのメンタル面に関する質問も。
すでに「自分」を持ちつつある候補生
「一番印象的だった質問は……色々ありますが、山崎歩夢候補生の『一流と超一流の違いは?』でしょうか」
2023年6月に実施された『アジア選手権トラック』のジュニアカテゴリにも出場した山崎歩夢。彼は競輪選手・山崎芳仁の息子ということもあって、松浦も名前を知っていた様子。
この質問には「G1に出ただけで満足する人って実は結構いて、『本気でG1を獲る』と思ってる人は普段の練習から違うものになってくる」と回答していた松浦。加えて、福岡の阿部英斗候補生からの「新人のあるべき姿は?」の質問も印象的だったという。
「デビューしてからのことをすでに考えていて、自分のレース像がもうある程度持てているのかなと感じました」
阿部英斗もジュニアカテゴリーのトラック競技で活躍してきた1人。「子どもの頃、仮面ライダーよりも競輪を見ていた」と話すほどの競輪好きだ。
「今回いろいろな質問に答えて思ったことですが、候補生の皆さんは思った以上に『自分はこうだ』というものを持っていますね。『こういうことに悩んでて、こうしたいんですけど』というものをすでに持っている。
僕が候補生だったときはあまり自分の考えがなかったんです。淡々と言われたことをやっている感じでした。今の意識の高さが、近年の新人の強さに繋がっているのかなと感じましたね。
午前中にトレーニングも見学したんですが、内容もかなり変わっていましたね!自分の時は単走の練習がほとんどだったんですが、バイクを使ったり、先頭交代してもがいたり……昔よりも良い、実践的な練習になっています。先生方が努力なさっているのがわかります。
頭髪など、昔より規則は緩くなりましたが、挨拶の時の角度なんかは変わりませんね(笑)」