障害物の設けられたオフロードで行われるフランス発の自転車競技「シクロクロス」。
複数の海外メディアにて、2030年にフランス・アルプスで行われる冬季オリンピック競技にシクロクロスが追加されるのでは、という報道がなされている。
この記事では、その報道の内容や現状などについて紹介していく。
シクロクロスとは
元々ロードレース選手のオフトレーニングの一環として始まったとされる、秋冬がシーズンのオフロード自転車競技。距離ではなく時間制で行われ、1周2.5〜3.5㎞程度の舗装・未舗装が入り混じるコースを周回、1位の選手の周回タイムを参考に競技中に周回数が設定され、ゴール着順を競う。
コースの所々に柵や急斜面、砂地などの人工障害物が設けられ、バイクから降りて自転車を押したり、担いだりしながらレースを展開するのが特徴。また、ピットエリアでの機材交換が認められており、ピットクルーがスペアバイクや予備ホイールを用意してスタンバイする光景も見られる。
参考:シクロクロスについて | 一般社団法人日本シクロクロス競技主催者協会
ツール・ド・フランスの“激坂”が舞台?

Photo by Chris Graythen/Getty Images)
フランス・レキップ誌は、2025年6月に「ラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユは2030年オリンピックでシクロクロスを夢見る」というタイトルで記事を公開。その記事内では、地元関係者が競技化を強く希望していることを伝えている。また、2024年にはAP通信にて、世界陸連(ワールドアスレティクス)の会長セバスチャン・コー氏が「クロスカントリーとシクロクロスを冬季オリンピックに追加するための協議が始まっている」と明言したことも報じられていた。
ちなみに「ラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユ」は、2012年にツール・ド・フランスのステージゴールに採用されて以降、たびたび山岳ステージの舞台として使われている。歩くことすら難しいといわれる最大勾配20パーセント以上という激坂は、(真夏に)多くのドラマを生み出してきたいわば“聖地”といえる場所だ。
参考:
L’Équipe「La Planche des Belles Filles rêve du cyclo-cross aux JO 2030」
AP News「Talks to add cross-country running and cyclocross to Winter Olympics, World Athletics’ Coe confirms」
問題は「冬季種目」にふさわしいかどうか
1896年の第1回アテネオリンピックから採用され、オリンピックの中で長い歴史をもっている自転車競技。
ロードレースとトラックレースの開催から始まり、2000年シドニーオリンピックではケイリン、マディソンがトラック競技の種目として追加。2020年東京オリンピックではBMXフリースタイルが追加されるなど、細かい種目の入れ替わりはありつつも現在は多様な種目が実施されているが、冬季種目としての実施はこれまでに例がない。
ひとつの障壁となっているのが、IOC(国際オリンピック委員会)オリンピック憲章にある「雪や氷の上で実施される競技は、冬季競技と見なす」との記載。今回も、「雪や氷」を必須としないシクロクロスが冬季種目といえるのか、という部分が争点のひとつとなっているという。
そんななか、UCIは2021年に雪上コースでワールドカップを開催するなど、“外堀を埋める”ような動きも見られている。
あのスター選手の走りが冬にも⁉︎

タデイ・ポガチャル
その成り立ちから、シクロクロスはロードレースなど他の自転車競技と兼任している選手が多い。
2024年ロード世界チャンピオンであり、これまでにツール・ド・フランスを3度制した大スター、タディ・ポガチャル(スロベニア)も、シクロクロスの2018年スロベニア選手権で優勝した実力者だ。全日本選手権3連覇を達成した織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)も、夏季はロードレース選手に出場している。
冬季オリンピックにシクロクロスが追加されれば、ロードレースなどでもおなじみの選手による、白熱したレースが観られるだろう。
新たなオリンピック競技としてシクロクロスが追加されるかは、2025年末-2026年初頭頃に決定される見込み。今後のIOCの発表に注目したい。