ベースアップに費やした1年

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オリンピックでメダルを獲る意味

東京オリンピックで男子オムニアムを走る橋本英也は、2016年のリオオリンピックでは日本代表から選考落ちを経験している。

「人生の分岐点のひとつだったかもしれないですね」

橋本はそう振り返る。

オリンピックでの活躍こそが全てだったその頃、どん底を味わい、結果だけを求められる日本の競輪の世界へと飛び込んだ。

チームブリヂストンサイクリングに所属し、ロードレースもトラックも走り、競輪も走る。3足のわらじを履いた橋本は「自転車の楽しさ」を再確認すると、「オリンピックだけが全てではない」ということに気づいた。

クレイグヘッドコーチが橋本を評価するのは「レースの中で自分がどう動くべきかを即座に反応できる点」。

それにはおそらく、センスというだけではなく、経験が積み重なったことなのだろう。

鹿屋体育大に在学時代、「スポーツはカンニングOKだ」と言われた。橋本はそれを実行し続けている。

「だからいいところもどんどんカンニングして。簡単な方法は、強い選手の走り方を見て、同じように真似すれば良いだけなので」

また、オムニアムの中でも、第3種目のエリミネーションで走りの巧みさを発揮する。

「エリミネーションは先を読む力が必要なんですよね。先を読めると、自分の位置がわかるし、走っていて『ここは危ないな』っていう危機感を持てれば、危ない位置は避けれるので。あとは脚があればって感じです。安全な位置は、脚を使うのとトレードオフなので」と、説明した。

自転車の楽しさを再発見した橋本は、自転車競技をより広めるために「オリンピックでメダルを獲ること」にこそ意味があると考える。

「お客さんのいっぱいいるレースで走るのが僕は好きなので、レースを観客で埋め尽くしたいっていう夢があります。そのためにオリンピックっていうブランドのあるレース、その中で自転車競技が選ばれて、僕が走れるオムニアムがあるっていうのは、本当に運命的だと思っています。

全日本のオムニアムでは観客がまだまだ少ないのに、オリンピックのオムニアムには観客が来る。ということは、みんなオムニアムを観に来るんじゃなくて、オリンピックを観に来るんですよね。だから、オリンピックを観に来た時に、オムニアム以外にもいろんな種目を観てもらって、最終的にはオリンピックじゃない自転車競技を観てもらえるようにしたい。そのためにはオリンピックでメダルを獲ることが重要だと思うんです」

橋本は、この東京オリンピックで、夢のために自身ができる役割を全うする。

6人はそれぞれが辿ってきた旅の物語をどう締めくくるだろうか。

この東京オリンピックで勝つことだけに全てを懸けてやってきたのだから、努力は報われると信じ、戦うのみ。

我々もプレッシャーや期待を預けるだけではなく、信じよう。

そして見届けようじゃないか、ひとつの旅の終焉を。

Text : 滝沢佳奈子(サイクルスポーツ)

東京オリンピック トラック(前半/8月2日〜4日)放送予定・インターネット配信予定