短距離チーム、5年間の旅の終結

ひとつの旅が終わりを迎えようとしている。
東京オリンピック延期の期間も含めれば5年。長かった、あっという間だった……など、選手たち、そしてトラックナショナルチームに関わってきた全ての人に思うところがあるだろう。
5年という歳月は選手たちの変化だけでなく、周りのあらゆる人々の認識を変えるに十分だったように思う。
自転車トラック競技というスポーツは、日本では間違いなくマイナーな部類に入る。それでも「オリンピックでのメダル」を予感させるまでに、チーム全体として変化を遂げた。

ブノワ・ベトゥ
フランス、ロシアや中国のナショナルチームの監督を歴任してきたブノワ・ベトゥが2016年に日本短距離ナショナルチームのヘッドコーチに就任した時から、全てが変わった。ブノワに与えられた命題は「東京オリンピックのケイリン種目で金メダルを獲ること」。
そしてブノワが選手たちに課したのは「毎日限界を越え続けること」だった。これがどれだけ厳しいか。自分の限界を超えるということは、身体的な苦痛はもちろん、精神的にも壁を打ち破らなければならない。それが毎日続く。
勝つ意志

5年前と現在、選手たちの見た目は大きく違う。いや、昨年と現在を見比べても変化が分かるはずだ。それほどに年々、筋肉量は見るからに増え、余分なものは削ぎ落とされた体になった。でも、それ以上に大きく変わったのは精神面のように思う。
東京オリンピックに出場する新田祐大が過去に出場したロンドンオリンピックや、脇本雄太が出場したリオオリンピックの時とは異なる。
毎日トレーニングを積み重ね、”勝つ”という目的意識を植え付けられた選手たちは、戦う意志とフィジカルを着実に身につけていった。

「オリンピックを見据えれば、『私たちはメダル獲得ができるレベルにある』と、意志表示することを恐れてはいけない。ワールドカップのようなトップレベルのレースで、たくさん経験を重ねて欲しいと思っています。海外のレースで走ることを、当たり前に感じて欲しいですね」
過去にこうブノワは語っているが、このオリンピックまでの期間で確実に実現できたと言えるはずだ。
ケイリンでは、2018年の世界選手権で河端朋之が銀、2019年の世界選で新田祐大が銀、2020年の世界選では脇本雄太が銀を取っている。その他にもワールドカップや今シーズンのネーションズカップでも、種目をまたいで多くのメダルを手にした。
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結果を携えたことによって、チームへの信頼感と一体感、そして「自分たちは強い」という自信を、大会を重ねるごとに纏っていった。
ただし、ワールドカップやアジア選手権などでは何度か頂点に立ったものの、世界最高レベルの選手たち集う大会の「一番高い位置」には、まだ立っていない。
だが、ブノワ短距離ヘッドコーチは誰よりも選手たちを信じる。
「日本に来て5年が経ちましたが、選手に対する信頼がとても大きい。本当に信頼しています。メダル無しにオリンピックを終えることは”大きな失敗”です。それしか言えません」