日本と先進国との違いとは
Q:ブノワさんはフランス、ロシア、中国のチームを経験しています。日本のHPCJCの環境は、他国と比べるとどうでしょう?
フランスは1991年から、公式トレーニングセンターを2ヶ所持っています。パリと、南部のヒエル市です。成功するためにはこのような施設が必要だと認識していました。
次に勤めたロシアでも同じような施設・制度を作りたいと働きかけましたが、連盟と折り合いがつかず、断念しました。トレーニングセンター無しで成功する未来は、私にはイメージできませんでした。その後ロシアのコーチを退任しましたが、このことはロシアを離れた理由のひとつです。
その次に行った中国は、フランスと似た体制でした。自転車に限らず、あらゆるのスポーツのトレーニングセンターがあって、北京にはフェンシングと自転車競技、陸上の十種種目のトレーニングセンターがありましたね。
「強い国はトレーニングセンターを持っている」と断言できるでしょう。日本はまだ始めたばかりで、他国のレベルに達しているとは言えません。もちろん以前と比べると格段に良くはなっていますが、まだ様々な面で努力が必要です。
Q:日本とフランスのトレーニングセンターを比べて、大きな違いはなんでしょうか。
フランスのトレーニングセンターは、大学と協力して研究を行っています。オーストラリアやイギリスも同様ですが「研究者がトレーニングセンター内にいること」・・・これが一番大きな違いでしょう。この点、日本はまだ遅れていますね。
これまで自転車競技は成績が振るわず、研究も進んでいませんでした。自転車競技の研究者というものもほぼいないので、まずはそこからでしょうね。HPCJCは研究団体とより協力すべきだと考えています。今は外国人の専門家と協力体制を取っていますが、日本人の専門家と協力していくことが理想ですね。
課題は「後進の育成」「監督の質」
HPCJCは「後進の育成」も目標としています。人を育て、自立させること。いずれ我々がここから離れたとしても、自転車競技のトレーニングセンターとしてきちんとした運営と、良いパフォーマンスが続けられるようにしていかなければいけません。
フランスの自転車競技連盟には12万人くらいの会員がいますが、日本では2000人くらいしかいませんので、その面でも違いがあると言えます。フランスでは地方・地域ごとにディレクターがいて、地方ごとのトレーニングセンターもあります。このような仕組みの問題もありますから、HPCJCの目標を完遂するには、競技連盟にも頑張っていただかないといけません。
2500人の競輪選手がいる国ですから、ある面では仕組みができていると言えるかもしれません。そのようなことも踏まえて「日本の一番の問題」を挙げるならば、それは正直なところ「監督の質」でしょう。これをきちんと解決しなければいけませんし、そのためには連盟がきちんと役割を果たすことが必要です。
また、若い人たちが自転車競技にアクセスしやすい環境づくりも必要ですね。具体的に言えば、地域ごとに支部を作り、子どもや若い人を受け入れ、自転車競技の基礎を教えるような仕組みです。日本の自転車競技の成績を上げるためには、そのような仕組みが必要となります。そこからスタートした選手たちにとっての最終地点がHPCJCとなります。
ジュニア世代の育成に必要なこと
Q:フランスでは地域ごとの取り組みがきちんとできている、とのことでしたが。
ブルターニュ州には約1万人の会員がいます。それぞれの県に委員会のような組織があり、県の上位である州にも、それらを取りまとめる支部があります。
州には「将来・未来」を担当する部署があり、そこに未来の選手を集めています。フランス語では「ポール」と言いますが、このポールには14歳から入ることができます。そしてここに入る若い選手たちは、その前段階として地域のクラブチームで基礎を学んでいます。クラブは全国で200チームほどあるのですが、これには6歳から入って、基礎を勉強することができます。
日本で自転車競技を始めるのは高校から、16歳くらいからというパターンが多いですね。16歳で基礎の習得からスタートしなければならないので、フランスで6歳から自転車に乗ってきた選手に比べたら、かなり遅れが生じます。また16歳では遅すぎて、伸ばすことのできない能力も存在します。
このような点について連盟に助言するのもHPCJCの役割だと考えています。我々はヨーロッパでの地域ごとの取り組みについて知っていて、どのようなことをすべきかわかっている。ヨーロッパでは「各地域で指導者としてのキャリアをスタートし、最終的にナショナルチームの監督になる」というのも一般的なことなんです。
課題は多いです。現状、ジュニアが全然いない。世界選手権に出場するジュニアカテゴリーの日本人選手の中には、稀に優秀な人がいます。でもほとんどは戦えるレベルではないです。他の強豪国ではすでにトレーニングセンターに入って1年以上経っているような選手を派遣しますが、日本は4日程度の合宿をするだけです。これで良いジュニアが育つはずがありません。
さらに言えば、連盟でジュニア向けの指導方法などを周知していく必要もあると思います。これについても助けになれると思いますが、HPCJCはハイレベルのみに特化したいというのが本音です。