2019の快進撃

2019年、年が明けてからの新田祐大は勢いに乗り、破竹の勢いでメダルラッシュを果たした。語れない秘密はあるが、レースを観れば変化には誰もが気付く。進化を遂げていたのだ

新田:今までは捲くって、最終的に追い込んで勝つという形で考えていましたが、ブノワコーチと相談していろいろ試そうという話になりました。その結果、早めに仕掛けることでレースに勝ち上がり易くなったことはあると思います。自分のレースの組み立てが出来るようになってきたとでも言いましょうか。積極的にレースを走って勝ち上がれたので、早い段階で仕掛ける恐怖心がなくなりましたね。

新田:世界選手権では準優勝をしたし、これまでの自分の最高成績を残せました。そして日本チームにとってオリンピックの枠獲りに近づいたという部分でも良かったと思います。金メダルを獲れなかった部分以外はパーフェクトな後半戦でした。

恐怖心

尋常ではない上半身、ジャージしか着ることが出来ないであろう太い脚、どこからどう見ても只者ではない風貌、その男が感じる恐怖心とは?

新田:これまでは相手の動きに合わせて最後に仕掛けることが多かったのですが、今は早い段階で先に出て行けるところまで行く。そんな走り方も出来るようになりました。でも長い距離を踏めないかもしれないという自信のなさ、やったことがないことへの恐怖心はありました。そんな中で一歩踏み込んで新しいやり方を試したことで自信になりましたし、今までとは異なる視点でレースを見ることが出来ていると思います。

その恐怖心を取り除くため、競輪界のスターは意を決し、新たなトレーニングを行っていた。結果が出る保障などどこにもない。だが、何かを変えない限り新たな道は見えてこないということは分かっていた。

新田:世界選手権の前に1週間程度伊豆でトレーニングを行う期間がありました。その時に自分のやりたいトレーニングをしても良いという話になったのですが、コーチとしては俺(ブノワ)を上手く利用しろ!みたいな感じでした。その時に乳酸がたまるような、先行を得意とする選手が行うトレーニングをやってみたいと伝えました。ブノワコーチは「苦しいぞ」と言いましたが、それでもやりたい旨を伝えたところ、OKが出ました。普段の自分ではやらないトレーニングなのですが、やってみたら数値が案外良かったんです。そしてコーチと話し合い、試行錯誤を繰り返した結果、世界選手権前に良い練習方法が見つかったという感じです。世界選手権前にいろいろなシミュレーションを行いながら頭を柔らかくしたこと、身体的には適応したトレーニングが行えたことが、結果に大きく繋がったと思います。

ただ、あの練習を普段からやるかと聞かれたら、そういうことではないと答えますね。

挑み続けてやっと届いた昨シーズンのワールドカップのメダル。そして世界選手権でのメダル。以前「一回獲れれば次はリズム良く行ける、ただ、一回までが長い」、そんなことも語っていた新田祐大。ではこれからは上手く行くのだろうか?

新田:安心は出来ないです。昨シーズンの締めくくりは良かったのですが、新シーズンはどうなるかわかりません。ただ、周りより少しだけ精神的優位でスタートできるし、自信をもっていろいろ試せると思います。守りに入らずに攻め続けることが出来るのではと感じています。
これまで、どのレベルでも一回勝つことで次から連続して勝つことが出来るようになり、その都度「あぁ、こうやるのか」と自分なりに理解して勝ってきました。だからW杯や世界選手権など、新シーズンは今までとは異なる感覚で臨めると思っています。

でも蓋を開けてみないと分からないですね。直前の調整や精神的な変化も鍵になるかと思っています。

今はオリンピックに向けてのトレーニングに励んでいるが、新田祐大の仕事場は日本の競輪場。なかなか表に出ることはないが、実は「ケイリン」と「競輪」は似て非なるものと言われている。どちらも日本発祥の競技だが、自転車も違えば走る距離も異なり、更には走路さえ変わる。そんな中、オリンピック出場を目指して伊豆でのトレーニングに打ち込んでいるが、“本業”の「競輪」を走る機会は激減。オリンピックと本業の掛け持ちは難しくはないのか。支障は出ないのか?

新田:「競輪」に支障はないですが、今の自分の持ち味が100%出せるのかどうかはわかりません。ギア規制などありますが、ナショナルチームでここまで培ってきた能力が発揮し辛いところは今の日本の競輪にはあります。ですからちょっと勿体ないというか、日本の競輪で十分な走りを見せることが出来ていません。競技のような走りが出来れば競輪のお客さんや競輪選手の仲間にも自分たちのやっていることをもっと理解してもらえるとは思います。

オリンピックを諦めようと思ったことも