2024世界選手権トラック。日本発祥のケイリン種目で待ちに待った金メダルを獲得したのは山﨑賢人。1987年の本田晴美以来、じつに37年ぶりとなる世界選手権 男子ケイリン金メダルをもたらした。日本史上2人目の快挙であり、“お家芸復権”を告げる走りは、多くの人の心を震わせた。

本稿では、その快挙達成の翌日、”山﨑賢人が世界一になってから初めて”実施したロングインタビューを基に、山﨑の本音をお届けする。

金メダリスト2人は同室

山崎が快挙を成した当日、その快挙の30分後には窪木一茂が日本史上初となるスクラッチの世界タイトルを手に入れた。日本が待ちに待った瞬間が1時間以内に2回も発生したわけだが、2人には共通点があった。それは“同室”ということ。自転車競技は古くからの伝統が残り、たとえ世界チャンピオンであったとしてもツインの部屋に2人で泊まることが決まっている(たまに例外はあるが)。

「タイトル獲得はまだ実感があまり湧いてないですね。でも、競技を見てる人じゃない人たちからもすごく連絡をもらいました。そういう部分から、少しずつ実感しだすのかもしれません」

優勝の夜は寝られたかと問うと

「意外と普通に寝られました。窪木さんと同室だったのですが、『今日はベッドくっつけて寝よう!』って。本当にくっつけて寝ました(笑)」

勝負の世界は白か黒。山﨑は先に世界王者となり、窪木がその結果に続いた。同室だったことは、偶然ではなかったのかもしれない。2人には世界選手権に対する気負いは無かった。

「レース前はお互いに、普通に『頑張りましょう』くらいの感じでした。メダルを獲った後は『どっちかだけが獲った』っていうパターンじゃなくて良かった、という話を窪木さんがしていました(笑)。お互いに良い気持ちで過ごせるからって。他の種目も窪木さんは出場することになっていたので、祝勝会も後でやろうって」

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世界チャンピオンになって迎えた初日。目に見える世界は変わっていたのだろうか?

「気分は良かったですね。大会で、良い結果で終わることってほとんど無かったので、そこはいつもと違いました」

現実、そして悔しさを知った2021年

東京2020オリンピックの時はナショナルチームに入ったばかり。新田祐大、脇本雄太、河端朋之、そして一緒にパリを目指すはずだった深谷知広。大きな足跡を残していった偉大な先輩たちはバトンを渡し、気づけば山﨑は周りを引っ張っていく存在になっていた。

だが日本短距離のエースとして出場した2021年の世界選手権。現実を知る結果となった。

「もちろん、世界の舞台でメダルを、というのは競技を初めたときから思っていました。初めて世界選手権に出た2021年(フランス・ルーベ)の時、決勝には乗ることができて5位という結果でした。あの時はなにもできなかったという感覚を持っていました。今回、3年越しくらいで決勝に戻ってきて……まさか優勝できるとは。あの時の悔しさをやっと回収できた。良かったなと思います」

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山﨑にとって世界選手権初出場となった2021年大会(フランス・ルーベ)

初出場の世界選手権で5位。誰もが納得する結果を残した。しかしその後は結果を残せず、2024年ネーションズカップ第1戦後には「負けた選手(結果を出せなかった自分)に口無し。頭と身体がリンクせず、考えすぎている」と語っていた山﨑だった。アジア選手権のケイリンタイトルを獲った後も、楽しめているかと問うと「そこまでの余裕は無い」と一言。そして迎えた大一番、パリオリンピックはチームスプリントの長迫吉拓、太田海也、小原佑太に加えて中野慎詞が日本代表の選手となり、山﨑はオリンピックの出場選手から落選(補欠)。

やりきった末に迎えた結末 周りの笑顔が嬉しかった

パリを目指してナショナルチームの環境に入る。そして一度決めたことはやりきる。そう決めて競技者としての活動を続けてきた。オリンピック落選はあったものの、2024世界選手権はオリンピック直後ということ、加えてアジアチャンピオンとして出場枠を得ていたこともあり、山﨑は出場を決定。ケイリンにだけエントリーし、全てを懸けて臨み、全てをひっくり返す結果を残した。

「(表彰台は)みんなが見ているので、恥ずかしかったですね(笑)。目の前にメンバーやスタッフもみんないて、笑顔で喜んでくれてたのが嬉しかったです。自分が獲ったから、というより、周りの方の顔を見て嬉しくなりました」

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「みんながパリに行っている間に、新田さんだったり若手の子たちだったりが一緒に練習してくれて。すごく良い練習ができたことで準備ができたことが大きかったです。過去最強の自分、多分、そういうことになると思います(笑)。本当に、たくさんの人が協力してくれた。そのおかげです」

「ここで結果が出なかったら先はない」 覚悟のレース

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