覚悟が決まった「冷静モード」

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今が人生の区切り

Q:この舞台での引退をどこかで決めていたからこそ「最高」に繋がったという部分もあるとは思います。それでも、その「最高」をもう1度味わいたいとは思わなかったですか?

そうですね……私が味わった「最高」には、じつはその先があるんですよね。たとえば金メダルを獲るとか、私以上の「最高」を味わった人はたくさんいるんです。言ってみれば、私の最高は「自己満足」なので、もう1度挑戦する時間があるのであれば、そうではない形にしたいと思ったことは事実です。あと2歳若かったら、もう一度やりたいと言ったと思います。

ただ、実際はもう30歳だし、他にもやりたいこともある。
日本代表でいるうちは、あれもこれもとはできないということは本当に理解しているので、「区切り」なのかなと思いました。

Q:人生のステージはいろいろありますからね。

男性だったら、もしかしたら違うのかもしれません。選手生活を続けながらでも子供は作れますからね。もちろん育てていくのは大変ですが、実際にお腹が大きくなるわけではないですから。すぐ妊娠するかどうかは別として、それを考える選択肢がゼロになってしまいます。そう思うと、オリンピックが終わるこのタイミングで30歳というのは「区切り」だったなと思います。

ナショナルチーム 間違いなく「やるべき」

Q:最初にナショナルチームに入った時、オリンピックに出ることは想像していましたか?

想像していたというよりは、そうなるために来た、という感じですね。

Q:入ってきた時のことはすごく覚えています。ショートカットで、すごく色黒で。

引退セレモニーで流していただいた映像にも映っていましたけれど、あれやばいですよね(笑)。感動はしつつも「私、やばっ!」って。
いまも色黒ではありますけど、お手入れに気を使ってこれですから。赤くならなくて、すぐ黒くなる(笑)。当時はハーフって言われてましたからね。

Q:振り返ってみて、印象的だったことを教えてください。

2022年のネーションズカップ第2戦(カナダ・ミルトン)のスプリントで8位になったときですね。エマ・ヒンツェやケルシー・ミシェルら、自分の上にいる7人が本当にスター選手で。この8人の中に自分の名前が入っているのを見た時に、世界が変わっていくような感覚を覚えました。別世界にいた選手たちと同じ領域に足を踏み入れた、というか。

2022年ネーションズカップ(ミルトン)

私はこれまで一気に飛び級してきたわけではなくて、ちょっとずつちょっとずつ先へ進むための穴を開けて進んできたような感じなんです。その道のりなかで、新しい扉が開いてパッと光が見えた瞬間だったなと思います。

Q:今、この8年間を総括するとナショナルチームに入ってよかったですか?

良かったです。選手としてはもちろんですけれど、人としてすごくレベルアップしたと思います。年齢も重ねているので、当たり前ではあるんですけれど(笑)。

Q:8年……よく続けてきましたね。

深谷(知広)さんにも、「8年間って大きいね」と言われました。「おれは無理だ」って(笑)。
途中、気絶して白目剥いてる時期もありました。

今では、ナショナルチームに入ったら絶対に強くなって、やっていけるという保証というか事例がありますが、私が入った時は、正直に言うとブノワとかジェイソンをどこまで信じて良いのかもわかりませんでした。若くて考える力も弱いなか、勢いでやったようなところもありますが、思い切った選択でしたね(笑)。

2019年のガールズケイリンインターナショナルにて。左からジェイソン・ニブレット、小林優香、太田りゆ、ブノワ・ベトゥ

Q:ナショナルチームに入らなければ得られなかった、そう思うものはありますか?

普通では味わうことができないような、他の人とは違う夢を追えることができること、それに伴って絶対的に味方でいてくれる仲間ができることですね。絶対的に信頼できる仲間、って大人になると少なくなると思うのですが、ここなら叶います。もちろん、自分もそれを返していかなくてはならないのですけれどね。

太田りゆ、前田佳代乃、小林優香

ナショナルチームには、ものすごい覚悟を決めないと付いていくことができません。「付いていけない」という気持ちがちょっとでも出てくると、ほかの人との熱量に差が生まれて、ここには居られないと思います。

でも、信頼できるコーチや仲間がいて、嘘をつかずに全力でぶつかれば、絶対に強くなります。
間違いなく「やるべき」だなと思います。

今後も強くあり続ける必要がある

Q:2023年の『JKAトラックサイクリングキャンプ in SPRING』では講演会を実施するなど、子供たちと触れ合う機会を多く作られている印象があります。自分の経験を伝え、世界を目指してほしいという気持ちはありますか?

自分の力で人生を変えてもらいたいし、待つだけじゃなくて自分で行動して欲しいなって。私がやってきたこと、そしてこれからの挑戦についても、自分の言葉で伝えていきたいです。そこから、なにか受け取ってもらえるものがあれば嬉しいですね。

子供たちの背中を押すような存在になれたら良いなと思いますが、そうなるためには私自身が強くあり続けなくてはなりません。そのためにも、努力していけたらなと思っています。

Q:当面の目標は、ガールズグランプリ制覇ですか?

2024年いっぱいは、グランプリを獲りたいというよりは、選手としての基盤を作る方法を見つける、という期間になると思います。2025年からオリンピックを目指す、——じゃないや(笑)。もう言い続けてきたので、すぐそう言っちゃうんです(笑)——グランプリを目指す。そのために、タイトルを獲る。というふうになっていくのかなと。

11月までにガールズケイリンに慣れて、もし今年GIを獲れたとしたらラッキーだとは思います。タイトルが獲れなかったとしても、賞金でグランプリに出られるくらいの力をつけたいですね。

「本当に幸せ」太田りゆ代表引退セレモニー/2024全日本選手権トラック