新テーマ「攻めの気持ち」

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オリンピックが終わったら、1kmは……やらない

佐藤水菜(RKD), Final 1-2, Women Elite Sprint, 2023 Japan Track Cup Ⅱ

Q:2025年からは女子の500mタイムトライアル(以後TTと表記)が1kmTTになりますが、これに興味は?

本気で断っています。全力で走る1kmTTは嫌いなんです。でも体育の持久走は好きだったんですよね、私帰宅部の割に足速くて。陸上部の先生に陸上を勧められたけど、ピチピチの服が嫌で行かなかった過去があります。

Q:そういう、縛られない感じが佐藤選手らしいですね。

そうですね。練習は短距離の練習が好きなんですよね。でもスプリントは1日でやる本数が多くて、体力よりも精神的にキツい。

Q:体力は平気って、化け物ですか。

先週750mやった後に「何本でもいけるんだけど、どうする?」ってジェイソンに聞いたら「それは疲れてるからだよ」って……疲れてるから「出し切れない」と感じるんだよ、と言われました。

Q:逆に「もうダメだ、走れない」となることはあるんですか?

チームスプリント3本やった時はそうですね。「もう無理よ!」と思いました。でも「もう1本いけ」と言われたらたぶん行けるんですよね。私の場合は気持ちの問題なんだと思います。ケイリンで1日4本とか走って「もう足痛い絶対勝てないよ」と思っても勝てたりするんですよね。

Q:決勝戦にもなると、自分を痛めつけるような勢いで行きますもんね。

疲れてる時こそそういうレースがしたいんですよね。体調悪い時こそ先行するんです。今年の2月の別府ガルコレもすごく体調が悪かったんです。でも休めないし……

佐藤水菜, ガールズケイリンコレクション2023別府ステージ, ウィナーズカップ, 別府競輪場

ガールズグランプリは鬼門?

Q:ここまで競技の話が続いてしまいましたが、日本の競輪も優勝したら嬉しいですよね。

そりゃもちろん。でも私、これまでガールズグランプリで確定板に乗ったことがないんです。4着、6着、落車。一生獲れないタイトルなんじゃ……って気持ちも若干ありますね。だからこそ「気にしない」ことにしてるんですが。

佐藤水菜, ガールズグランプリ2022, KEIRINグランプリ2022, 平塚競輪場

去年は「獲るつもり」で走りました。それで落車しちゃった。世界選手権も「獲るつもり」で走った結果、降格になってしまった。欲を出したら私は負けるので、無欲になることにしています。目先のことは考えません。

Q:ガールズのビッグレースも、一発決勝ではなく勝ち上がりレースが多くなってきました。一方でガールズグランプリは一発勝負。勝ち上がりと一発勝負だと、どちらが得意ですか?

一発勝負は得意じゃないかもしれないですね。2本目からが好きで、日本の競輪の1日1レーススタイルも自分に合わないと感じます。これはデータ上で見てもそうで、競技のレースでは2本目からの方が良い結果になっていますし、自分の感覚としても2本目の方が良いです。集中力も脚も、2本目の方が良いですね。

Q:今年(2023)の世界選手権はケイリンもスプリントも数日にわたって実施されました(これまでは1日に勝ち上がりが詰め込まれていた)が、その点ではちょっと良くなかった?

敗者復活戦からが本番、って感じでしたね。世界選手権での経験をきちんと分析して、中国でのアジア競技大会ではそれを活かした走りができました。だから「2本目から本番」問題の攻略法はちゃんとあります。でもそれは競技だからこその攻略法で、ガールズケイリンの世界では使えないんですよね。自分の気持ちを作っていくのが難しくて、困ってます!

今は地元・茅ヶ崎のアンバサダー

佐藤水菜, ガールズグランプリ2022, KEIRINグランプリ2022, 平塚競輪場

Q:去年のグランプリは、よく怪我なく終われましたよね。

実は、いまだに右腕がダメです。何を痛めたのかよくわからないんですが、ウェイトとかでも右と左でパワーが違います。そのせいか、左脚だけ大きくなっちゃって、右脚が細い状態。ジェイソンも現役時代は左右差があったそうなので悪いことではないと思うのですが、私としては落車が原因だとわかっているし、まだ右腕がヤダと感じています。

Q:茅ヶ崎のスポーツアンバサダーになりましたが、そちらのお仕事なども?

あれは茅ヶ崎市に「応援したいです」と申し出ていただきました。「何かやることありますか?」と聞いたんですが、「今はオリンピックに集中してください」と。応援したいという気持ちを形にしてくださりました。とても嬉しいです。オリンピックで絶対に結果を出したいと思える要因の一つにもなっています。

ガールズケイリンの面白さ

Q:「気負いはない」とおっしゃいましたが、楽しみな気持ちはどうでしょう?

あります。「どのように走ったら自分の作戦が遂行できるか」、それを考えながら上手くできた時がとても楽しいです。

Q:でもその作戦って、どのように決めるんでしょう?

それは内緒です。だって話しちゃうとグランプリのレースがバレちゃいますからね。

これは競技ではできないことで、ガールズケイリンだからこそ。自力屋さん、自在屋さんとタイプが明らかだからこそできるレース、ガールズケイリンならではの面白さです。

Q:そういう部分に面白さを見出してるんですね。

面白いですよ、「そうやってやってくるんだ!」「あ〜そういうタイプね!」ってなります。人間味が全部見えるところが面白いですね。

他のタイプももちろん面白いけど、「自力の選手がどう動いてくるか」が一番面白いです。その位置なんだ、この選手の後ろなんだ……そういうことを走りながら考えて「なるほどね」となっています。

佐藤水菜, 梅川風子, 坂口楓華, 競輪祭女子王座戦, 小倉競輪場

競技だとスタート時の順番が決まっています。でもガールズケイリンは出てからじゃないと順番が決まらないし、その上で入れ替えがあって、落ち着く瞬間が来る。その瞬間に「あ、そういうことしてるんだね」と考えることで、それぞれの位置を名前ではない情報で把握しています。こうすることで強めに記憶できます。

競技とスピード域が違う分余裕があるので、走りながらいろんなことを考えますね(笑)ガールズケイリンは誘導退避まで結構余裕がありますが、競技だと誘導退避の瞬間に「やっべ!」となることもあるくらいだから、とにかく空力を良くして集中しています。

Q:改めて、4回目のガールズグランプリへの気持ちを聞かせてください。

気負いはありません。自分と自分に賭けてくれる人のために走るだけです。私は自分のしたいことをするだけ……勝負に勝ちたいだけ、自分に負けたくないだけ、です。それがどういうレースかは気にしていません。

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